コロナ禍でSales Techの需要向上/オンライン商談は目的意識が強い
河村(パーソルラーニング、以下PLI) 新型コロナの影響で多くの企業がリモート体制を強いられることになりました。SFAやCRMの需要も大いに高まったのではないでしょうか。
坂本(セールスフォース・ドットコム、以下Salesforce) 当社の社員が自社製品を活用して得たノウハウをまとめた「Salesforce on Salesforce」というコンテンツの提供機会が増え、ウェビナーの反響も例年より大きいです。ウェビナーの場合は、会場の立地やキャパシティにとらわれることなく全国各地から参加していただけることもあります。ウェビナーをきっかけに新しい商談も生まれています。
河村(PLI) 御社は大きなインサイドセールスのチームを抱えるなど日常的にオンラインでお客様とコミュニケーションをとられてきたかと思いますが、何か変化はありましたか?
原(Salesforce) 社内外問わずすべてのコミュニケーションが完全にオンライン化されましたが、もともと遠方のお客様の支援にはウェブ会議の仕組みを使っていましたし、社内のやりとりをオンラインで円滑に進めるノウハウも豊富にありましたから、コロナ前後でそこまで大きな変化は感じていません。変化があったのは引き合い件数です。移動時間がなくなり、対面時よりお客様とのお打ち合わせ時間が短くなったことで件数を増やせるようになりました。また、これまでは時間をいただくことが難しかったエグゼクティブ層の方と接触する機会が増えたこともポジティブな変化のひとつです。
河村(PLI) オンライン商談では、お客様側の「目的意識」が訪問時より強くなっているように感じます。訪問営業の場合、最初のアポイントをとることは非常に難しいですが、実際にお時間をいただけた際には、当日決められた時間内でさまざまなことをヒアリングできます。我々も含めてエンタープライズの顧客と深いお付き合いをする「アカウント型営業」では、長いスパンでお客様との関係を捉えるため“お客様を見極める”という概念があまりありません。決められた時間内で目的の商談がうまく運ばなくても、翌年に花開く可能性や違う部署につながる可能性を見据えてできる限りの情報収集を行い、“最良の落としどころ”に着地することに努めてきました。
一方、オンライン商談では接触のハードルは下がりますが、商談そのものの価値により目が向くようになり、内容によっては「メールでも良いのでは?」と言われてしまい、顧客側から見切りをつけられやすい。だからこそ、商談の全体設計や、その商談がどう転ぶ可能性があるのか、あらゆる分岐点を想定した情報や質問を準備して商談に臨まないと、あっさり終わってしまって、本来必要だった情報収集も、今後に向けたお客様との関係構築もできないと思います。
原(Salesforce) おっしゃるとおりです。当社のインサイドセールスチームでも、お客様からのヒアリングを終えたあと、お打ち合わせのアジェンダ設定や期待値コントロールを今まで以上に意識してフィールドセールスにバトンタッチしています。
下平(PLI) SFAを活用しているお客様の変化はいかがでしたか? Sales Techの活用度合いによって、コロナ禍の業務にかなり違いが生まれそうですが。
坂本(Salesforce) 感染症拡大防止策がとられるより前にSalesforceを運用フェーズまで乗せることができていたお客様はリモートでも変わりなく業務を進行されています。コロナを機にリモートワークに合わせてSalesforceの活用が進んだ大企業のお客様もいらっしゃいます。
下平(PLI) SFAを導入していても、マネージャーが結局メンバーに直接「あれどうなってる?」と聞いて確認するのが実状だった企業は、それができなくなったことで同じデータを見て会話するという習慣ができ、結果的にSFA活用が進んでいるのかもしれませんね。Sales Techがまだ十分に活用されていない企業にはどのような特徴があると思われますか。
坂本(Salesforce) やはり、トップ層のコミットメントでしょうか。目的が定義されないままシステムを導入すると現場が混乱し、活用のスピードも滞ってしまいます。当社のセールスやカスタマーサクセスのチームは、何のためにSalesforceを導入するのかという目的を、トップ層とともに明確に定義した上でプロジェクトを進めるように意識しています。
下平(PLI) 弊社もSFAを導入する目的の設定をどのように行えばよいかというご相談をいただくことがあります。中期経営計画などと現状のギャップをどのように埋めていくのかというビジネス課題と、システムをどのように結びつければよいのかに悩まれています。そのためには、戦略やプロセスを定義し、適したシステムに落とし込むだけではなく、実践していくための人材の育成・教育も含めた対応が重要だと考えています。
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リモートマネジメントに必要なコミュニケーション設計
下平(PLI) 御社は社内のやりとりも完全にオンライン化されたとのことですが、メンバーとコミュニケーションをとる際に、マネージャーの立場で意識していることはありますか?
原(Salesforce) リモートワークはメンバーが孤立しやすいですから、メンバー同士やメンバーとマネージャーの接点を増やすことに心を砕いています。これまでも週に1度、30分間の1on1ミーティングは設けていたのですが、数字の話も行うカチッとしたものでした。今は同じ1on1でもアイスブレイクをしっかり行って互いの健康状態も確認するなど、メンバーの心をほぐすコミュニケーションに重きを置いています。ほかにも、インサイドセールスの部門では定期的に自由参加で業務について相談できる、よろず相談会の時間を設けており、創意工夫しながら働きやすさを追求しています。
下平(PLI) 温かみのあるコミュニケーションは大事ですね。困っていることはありませんか?
原(Salesforce) 嬉しい悲鳴ではありますが、メンバーから頻繁に声をかけられるようになったため、オフィスにいたときよりも忙しくなりました(笑)。むしろ、オンラインになってからコミュニケーション頻度を高めたことで、メンバーの悩みや課題の解像度が上がり、適切なアドバイスをできるようになりました。
河村(PLI) 御社は自社の提供するSales Techをフル活用して堅固な基盤を築きつつ、人間的なつながりというソフト面の整備もカバーされていますよね。
原(Salesforce) Sales Techをマネジメントに活かせていないと悩むマネージャーの方は、重要な顧客や商談の条件を徹底的に洗い出すことから始めると良いかもしれません。これまではマネージャー自身が暗黙知として感じていた基準を、より具体的、定性的、定量的に明文化した上でSales Techや戦略に落とし込めば、リモート下でもメンバーの足並みが揃って最良の動きをとれると考えています。
下平(PLI) ものさしが合っていなければ、同じデータを見ても違う解釈が生まれてしまうため、せっかくのリソースを活かせませんよね。SFAを活用し始めた営業組織が、今後さらなる高度化や効率化を目指してAI活用を見据えるにあたっても、重要な顧客や商談の条件の認識合わせは不可欠だと思います。しかし、重要な顧客や商談条件の設計は実は容易ではなく、たとえば取引高や商談金額が大きいことだけで判断できるような単純な話ではありませんよね。自社にとって何が重要なのかを測ることができるものさしを持ち、マネージャーとメンバーが共通の見方をすることが大切です。それらが設計できて初めて、AIの学習精度が高まり、異常値にも気づきやすくなりそうです。
坂本(Salesforce) 当社では、セールス・イネーブルメントという部門があります。活躍しているメンバーがどんな行動をしているのかインタビューして体系化し、新しいメンバーやパフォーマンスの上がらないメンバーのトレーニングに活用しています。マネージャー同士のミーティングにセールス・イネーブルメントのメンバーが同席し、目指すべきビジョンを実現するためのトレーニングコンテンツを作成してくれることが、営業としてはありがたいです。
河村(PL) 素晴らしいお取り組みですね。よく「リモートになって部下が何をやっているかわからない」というマネージャーがいますが、それはビジョンと同様に「組織の最終的な成果」に対して、マネージャー自身が実感・納得できる有効なKPIを設定できていないからです。マネージャーはどうしても達成すべき売上やメンバーの活動件数など、会社から与えられた目の前のKPIにとらわれがちですが、今後は営業プロセスや自組織全体を見渡して「何をしたらどう成果が出るか」というトレーサビリティをデザインする力が特に問われていくと思います。
原(Salesforce) 私からも営業トレーニング・研修のプロであるパーソルラーニングさんに人材育成について質問させてください。当社もそうですが、コロナ禍で研修のやり方や内容を変更するケースが増えていると思います。各社どのように対応されているのでしょうか。
下平(PLI) 外部の会場を使った研修などは延期されていることが多いです。あるいは急遽オンライン研修に切り替えることを支援させていただいてもいます。コミュニケーションの手段は変わっても、提供するべき本質は変わらないと思います。研修で学んだことが日々の現場で役に立たず、勉強にとどまってしまう傾向はオンラインのほうが強いように思えるかもしれませんが、それも設計次第です。
学びを実業務で活かせるように、これからの研修は「ラーニングジャーニー」という流れで捉えており、ラーニングコーディネーターと呼ばれる専任者がインプットとアウトプットをうまく織り交ぜたジャーニーを設計し、場を盛り上げながら実践的に学びを身につけられるものを志向しています。
一方で、緊急事態宣言解除後、お客様から既存の集合研修を要望される声も聞きますので、多様なニーズに応えられるようにしていきます。将来的にはSales Techとラーニングジャーニーを有機的にリンクさせることで、1人ひとりの日々の活動や課題に合わせたジャーニー設計ができ、その研修が実際の業績や顧客関係性の向上につながっているかを検証できると良いかもしれませんね。
坂本(Salesforce) まさに当社にも教育マネジメントのソリューションがあり、SFAと組み合わせて営業成績との相関を見られるようになってきています。
下平(PLI) 相関の見方にも留意すべきですよね。たとえば、「デモの回数が多い営業は成績が良い」という結果が出たからと言って、むやみにデモをする営業が現れることのないようにしなければなりません。営業が取り組んだことによって、「購買プロセスを前に進めたのか」「顧客との関係性が深まったのか」といったばらつきのない共通認識となるような的確な基準を設けることが相関を見るときの前提となりますね。
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変化を可能性に変えられる営業マネジメント
――編集部からも、両社に質問させてください。オンラインのコミュニケーションが主流となった今、営業担当者や組織に求められるスキルはどのようなものになるのでしょうか。
坂本(Salesforce) オンライン商談では資料作成能力がより重要になってくると感じています。相手の表情や感情を読みづらいからこそ、きちんと作り込んだ資料をもとに、「この内容についてどう思われますか?」などの問いを都度投げかけることでお客様の理解度や疑問点を計る必要があるからです。当社には良く作り込まれた提案書や、それを用いてうまく運んだプレゼンのサクセスストーリーがナレッジとして蓄積されていますから、ほかのセールスにも知見が共有され、組織力の強化にもつながっています。
河村(PLI) 私は、商談のシナリオ構成力だと思います。フラットなオンライン商談は相手企業内部の意思決定構造がわかりにくいため、まずは組織の全体像を描き、担当者が意思決定にどう関わってくるのか、その方は問題意識が高い方なのか、あらゆるパターンを想定しておくことが重要です。その上で、どんな相手とどういう方向に商談が進んでも対応できるシナリオをありったけ用意しておけば、いくら相手の表情が読み取りにくく、短時間であっさり終わってしまいがちなオンライン商談でも結果を残すことができるはずです。
徹底的なシナリオ構成は対面の営業でも必要なものですが、それ以外の要素に助けられてきたため各営業は十全に取り組めていなかっただけです。今から取り組んでおくことで、訪問営業の機会が戻ったとき、今まで以上にお客様の状態がわかるようになると思います。
下平(PLI) これだけ無料で有益な情報が氾濫するなか、同じ情報をただ伝えるだけのセールスではなく、お客様に新たな気づきを与えるような問いを投げかけられるセールスが生き残ると思います。これをパースペクティブと呼んでいます。お客様自身が情報を読むだけでは得られない視野の広さや思索の深さに辿り着くために、セールスがその手掛かりを渡すような価値ある情報交換ができる話し相手となるイメージです。
さらに、キーパーソンとの重要な面談時に相手に合わせて刺さりやすい言葉を選べるかも重要です。たとえば、経営に重きを置きたいお客様と、なによりも自社の顧客にベストなことが何かを最優先に考えたいお客様に、同じ「機能や性能」を持つ商品の情報提供をする場面があったとします。そのとき、セールスがその商品によって得られる「効果」を表現するために選ぶ言葉やメッセージはそれぞれ異なるはずです。特に対面で間を詰めて懐に入ることが難しくなった昨今、さらに研ぎ澄まされた言葉による情報提供でなければ関心を寄せてもらうことはできないと思います。
河村(PLI) オンライン商談に徹底的に対応する人と、「雰囲気がつかみづらいから上手くいかなくても仕方がない」で終わらせてしまう人との間で大きく差が開くでしょうね。先ほどお客様側の「目的意識が加速する」という趣旨のことを言いましたが、それに売り手側が十分に対応できた場合、お客様側もスピードや内容が最適化されたオンライン商談の心地よさを知ってしまいますから、対面には戻りたくなくなるはずです。この社会情勢は営業にとって大きな意味を持つ成長機会と言えるのではないでしょうか。
原(Salesforce) パーソルラーニングさんが提供されている「オンライン営業マネジメントガイド」を拝見して、「営業マネジメントが変化を可能性に変えてくれる」という言葉に非常に共感しました。先行きが見通しづらくなる時代のなかで、営業マネージャーには、状況に応じてメンバーに機会を与え、適切なタイミングで支援していくスキルが必要になるはずです。Sales Tech導入の場合もありますし、成果に紐づく営業トレーニングの提供、マーケティング・分析などの専門チームの知見を借りて最適な提案ができる状態をつくることなども挙げられると思います。
――最後に、営業組織の変化や成長を支援されてきた皆様が今後とくに力を入れて取り組まれたいことを教えてください。
河村(PLI) コロナ以前から重要だったことがコロナ後の今クローズアップされているだけで、営業やマネジメントに求められる本質は変わりません。オンライン商談に対応できる人とできない人の二極化が激化するなかで、変化に対応するという強い意思を持つ営業組織や営業担当者を徹底的に支援していきたいです。
下平(PLI) ラーニングジャーニーや、さらに先を見据えるとSales Techとタレントマネジメントの融合による営業力と組織力の両輪を回す提言などを通して、お客様の組織力向上に引き続き貢献していきたいです。
原(Salesforce) これまで通りSales Techを通して価値を提供していくことはもちろん、新型コロナウイルスによる世界的な難局への挑戦とビジネスの変革が続く今、「ニューノーマル(新しい日常)」に向け、従業員、お客様、パートナー、地域社会のサポートを行っていきたいです。
坂本(Salesforce) 「ニューノーマル」においても営業の本質は変わらないと考えています。お客様に洞察や示唆を与えられる価値ある営業組織を追求し続け、当社のコアバリューであるカスタマーサクセスを実現していきたいです。
――環境が変化するなかで、より自立しながら学び続ける営業や営業組織が強くなれることを、対談を聞くなかで感じました。本日は熱いお話をありがとうございました!
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