エンタープライズ営業とは
エンタープライズ営業とは、顧客組織と商材で以下2点の条件を満たすように定義します。
- 顧客組織:顧客の企業規模の売上、従業員数が大きく、売る側にとって、複数の部門の担当者、決裁者、役員を説得する組織
- 商材:複雑かつ大規模なもの、顧客企業のインフラとなるような基幹ソフトもしくは全社に導入されるサービス。顧客企業のビジネスに大きく影響するため、導入の際に経営層の決裁、役員会や社長決裁が求められる。数年以上の単位で投資回収を計算する
たとえば、顧客企業の規模で条件を満たしていても、商材の条件を満たしていなければエンタープライズ営業とはここでは言いません。商材ですが、経理・人事などのシステムでも、一部門の担当者向けのものであれば、除外します。一方で、文具品などの購入は通常、エンタープライズ営業というイメージは持たないでしょうが、全社の購買を一括で切り替えさせるというのであれば、エンタープライズ営業になります。エンタープライズ営業を、もう少し具体的に見ていきましょう。
顧客企業側は全社システムに関わるものでも、主管となる部門があります。ITシステムに関して以前はIT部門が実質的な主管部門でしたが、ユーザー部門が購買の意思決定に大きく関わり主管部門となることも多くなりました。たとえば、セールスフォース・ドットコムなどが展開するシステムはプラットフォームであり、経営企画、営業、マーケティング、カスタマー・サービスなどの複数部門に関わるシステムを提供するので複数の主管部門に関わる提案をすることがIT企業側には求められます。
IT企業だけでなく、企業にモノやサービスを提供するときにウェブ経由で受発注をする仕組みは人事、総務、営業とほぼあらゆる部門に関わってきています。比較的、工場の生産系はネットとはつながっていなかったので、いまだにFAXでのデータのやりとりがまだ多いですが、これも5GとIoTの普及とともに変わっていくでしょう。
複数の主管部門の調整だけでなく、資産や経費になるにしろ、数千万から数億単位の投資になれば、会社の経営計画や投資計画に織り込んでもらう必要があります。そうなると、経営企画および役員、社長にも話を通すことになります。また、いよいよ契約をするかどうかというところになれば、購買、法務も関わってきます。
パイプラインの構造をファネル状に描きますが、エンタープライズ営業の作業工程は、むしろ、工程の後半から複雑になり成約するまで調整することが多くなります。
エンタープライズ営業の担当者の責任は大きく、かつ労力を要します。売上の規模が大きいので、成功しなければならないというプレッシャーは相当のものになります。したがって、エンタープライズ営業は、その会社の営業部員でも優秀かつ経験豊富であり、担当顧客との信頼関係がある人が担当しています。また、エンタープライズ営業は、顧客企業への訪問が原則です。そして、顧客との信頼関係構築のためには、特段の用件がなくても訪問することを奨励しています。なぜなら、顧客企業に訪問し、何気ない会話の中から、新しいプロジェクトの話や、発表する前の人事情報を得ることもあるからです。アポなしで訪問して、「挨拶に来ました」というのは常套句でしょう。
これが伝統的なエンタープライズ営業の手法ですが、多くの企業ではこういった営業手法をすべてのエンタープライズ顧客企業に行うことが以下3つのマクロ的な要因によって困難になってきました。
- 企業の利益構造を維持するための人件費削減もしくはひとり当たりの生産性向上が求められ、営業活動の効率も求められる
- 顧客企業自体が、新規事業もしくは事業構造を大きく変えるために、従前の取引関係を見直すことになると、いままでの取引関係や担当営業が築き上げたリレーションが役に立たなくなる
- デジタル世代が、顧客側も売り手側も担当の主流となりつつあり、そもそもトラディショナルな営業手法に馴染まない。またそれぞれの企業側も新しい世代に業務引継ぎを行う余裕もなく、あっても上手くいかない
そこで、多くの大手企業でも、マーケティングに新規案件を見つけさせるためにということで、マーケティング・オートメーションを導入し、試験的にインサイドセールスも導入しています。続いて、マクロな視点ではなく顧客側の視点【買う側】の視点で見ていきましょう。