戦略なきSFA導入で失敗した過去も 逆接思考で“誰でも使える”環境を目指す
セールスコンサルティングを軸に、営業活動の効率化とDX化を支援するGrand Central。営業戦略立案やBPO、SFA/CRMなどのDXコンサルティング、営業組織構築や評価制度策定などを通じて、顧客企業の本質価値を世の中に届けることをミッションとする。2021年に4名で設立し、創業4期めにしてスタッフ数は300人を超えた。
佐藤氏は事業の3つの柱を説明した。まずは営業の戦略立案から実働までを一気通貫で行う「セールスデベロップメント」事業、“全員が売れること”を目標にした営業組織の構築や研修を提供する「セールスイネーブルメント」事業、そしてSFA/CRMの構築・運用定着支援を行う「セールスDX」事業はそれぞれ多くの導入実績を上げており、創業から2〜3年で売上約8倍、顧客数は480%となっている。
Grand Centralの急成長には、同社の“営業データ戦略”が大きく寄与しているという。もともと創業メンバーおよび社員の約2割が、SFA/CRMを駆使してきたキーエンス出身者であったことから、設立2ヵ月というかなり早いタイミングでSFA/CRMを導入した。
しかし「もともと使っていたから活用できるだろう」という発想で導入したSFA/CRMは、結果として失敗してしまう。佐藤氏は、「SFA/CRMの重要性を十分に理解しないままベンダーに依頼して構築してもらったものの、結果的には売上を管理するだけの“Excelの置き換え”になってしまった」と振り返る。

青山学院大学を卒業後、新卒で株式会社キーエンスに入社。法人向けコンサルティングセールスに従事し、過去最高売上レコード更新や、全社ランキングなどを含め社内表彰を多数経験。その後、セールスコンサルタントとしてGrand Centralに参画し、主にナショナルクライアントの新規事業立ち上げにコミットしたのちに、全社マーケティング組織の立ち上げを実施。ビジネスグロース部では全社のマーケティングからセールス全体を一気通貫で管轄し、フロントサイドの統括を担う。
この状況を打破するために同社が取り組んだのが、“組織の拡大に応じて営業の生産性を上げる仕組みづくり”だ。いつ、誰でも、かんたんに情報が引き出せるRDB(リレーショナル・データベース)を活用方針として、SFA/CRMを構築した。
項目を実装してからKPIを決めてデータの可視化・分析に着手する順接思考では「SFA/CRM導入の本来の目的がわからなくなるうえに、限定的な分析しかできずPDCAが正しく回らなくなる」と佐藤氏は指摘する。そこでまずはKGI/KPIを決定し、どの数字を追うべきか、それらを可視化・分析するにはどのような項目が必要か、KPIツリーを用いて逆算思考でSFA/CRMを設計していった。加えて全社員がSFA/CRMを使いこなせるようにするため、運用マニュアルや社内研修、対面でのマネジメントを実施してKPIやSFA/CRMの設計の背景を浸透させていった。
「自分で仕組みをつくる立場になり、戦略を仕組みに反映させるためには、こうした逆算思考が重要だと痛感した」と佐藤氏。創業から半年後にはSalesforceで営業データを管理し、KGI/KPIや顧客管理をダッシュボードおよびレポートで閲覧できるようにした。さらに生産性や効率の向上を目指してBIツールやチャットツールとの連携も進めた。

営業データの管理・活用基盤が整ったところで、次に取り組んだのが営業担当のパフォーマンスや営業の行動管理だ。
営業活動と顧客データを最適化するPDCAサイクルを確立
営業担当のパフォーマンスや行動管理を徹底的に管理するには、前提として、データが正しく入力されている必要がある。データの入力状況を個人別で管理するほか、売上規模に応じて企業をTierで分類して注力企業を選定し、それをSFAの項目へも実装するなど、ターゲット設計を更新し続ける仕組みをつくった。
こうして営業データが蓄積されるにつれて、営業担当がどのような活動を行っているのかが見えてくる。ここで佐藤氏は、営業活動でよくある課題として「行きやすい顧客」へばかり足を運んでしまうことを挙げた。注力顧客へ熱心にアプローチしているようで実は訪問件数を稼いでいる、顧客企業の窓口以外とも関係を構築するはずが同じ担当者と会い続けているといった状況に陥りやすいのだ。
「当社でも、注力企業に対して1ヵ月の間、期待している行動がとれていなかった例もありました」と佐藤氏は振り返る。個人のマインドセットも含めて、まずはマイクロマネジメントでの管理を徹底した。そのうえで、顧客と直接相対している営業担当者だかからこそわかる定性的なデータも拾い上げ、戦略へ活かすPDCAサイクルを構築した。

金融機関を経て1998年にユーソナー株式会社(旧ランドスケイプ社)入社。営業本部海外企画チーム、取締役企画本部長、取締役CSO営業本部長、CCO営業本部長を経て、2022年4月に常務執行役員に就任(現任)。海外企業対応やアライアンス事業を推進し、ユーソナービジネスの拡大に努めている。
複数事業部でデータが重複 「組織拡大の壁」で企業データベースの重要性を実感
ところが、ここで2度めの失敗にぶつかったと佐藤氏。このような徹底した行動管理とマネジメントは、組織が拡大するに従って機能しなくなっていった。SFAにデータが蓄積されるほど複数の事業部で同じ顧客のデータが重複し、事業部間での情報共有や営業活動の効率化を妨げたのだ。
具体例として佐藤氏は、物流業界へアプローチした際のエピソードを紹介した。アプローチ対象となる企業が多く所属する協会/団体をターゲットに選定し、ウェブ上のデータを手動でSFA/CRMに入力。企業データベースと連携させてデータを突合し、業界情報や特性まで及ぶ企業データの精緻化を図った。しかし既存の企業データベースでは、リストの半分程度しか突合できなかったのだ。
「高精度なデータ活用基盤を整えた一方で、その根幹である企業データへの視点が欠如していた」と佐藤氏。企業データベースの精度を高めるため、Grand Centralは、ユーソナーが提供する企業データベースを導入した。
“820万件”を有する企業データベースと連携 部門最適のダッシュボードを構築
ユーソナーが保有する日本最大級の820万件の企業データベース「LBC(Linkage Business Code)」は、企業の本社だけでなく支社や工場、官公庁なども網羅していることが特徴だ。現在Grand Centralでは、顧客データ統合ソリューション「uSonar」を用いて、同社が持つ企業データとLBCを連携している。

池田氏がLBCの具体的な活用方法をたずねたところ、佐藤氏は実際のSalesforce環境を用いて説明した。Grand Centralでは、企業情報において部署ごとに異なるLBCの活用項目・オプションがタブ表示され、インサイドセールスの架電やフィールドセールスの商談準備に活用されているという。なお、LBCを活用したSFA/CRMの設計は、ひとつの項目を考えるだけでも綿密なフローチャートを描いて最適なかたちを整理していると佐藤氏。「これを徹底的に行うと、得られるデータはもちろん、成果も変わってくるのです」と強調した。
2年で売上756%増加 インテント機能を活用し、新たな価値提供へ挑む
また、オプションとして「インテント機能」が紹介された。ターゲット企業がどのようなキーワードを検索しているか逆探知できる「興味シグナル」と呼ばれる仕組みで、Grand Centralでもこの機能を活用しているという。BDRでのアプローチはもちろん、商談後に担当者がほかの事業部などに紹介してウェブサイトを見てくれているか検知するなど、導入可能指数のひとつとして活用している。
LBCの活用によって得られた効果について、佐藤氏は大きく3つのポイントを挙げた。ひとつは、データの整合性向上によって営業戦略構築の精度が上がったことだ。部門や担当者ごとの認識に齟齬が生じることなく、建設的な議論ができるようになったことが何よりも大きいという。ふたつめは「インテント機能」による潜在ニーズの発掘だ。日々の営業活動だけでは限界がある「まだ見えていないお客様」を見つけるためのノウハウとして活用が進んでいる。
そして3つめが「売上アップ」だ。2年で売上756%増加という目覚ましい成長の基盤にはLBCとの連携があり、今後も「もっとも寄与してほしい」と佐藤氏は語った。

なおGrand Centralとユーソナーは、2024年12月にインテントデータ営業BPOで事業提携を開始した。ユーソナーが持つ820万件のデータベースを用いて高速でターゲティングを行い、Grand Centralの実効性の高い営業ソリューションが提供されるというものだ。
自社で収集した企業データを診断し、特徴や不足などを可視化するサービスも実施しているという。両社が持つアセットや知見・ノウハウを掛け合わせた、新たな挑戦の紹介をもって、セッションが締めくくられた。