目的不在の商売に陥っていないか 改めて考える「顧客視点」
今井(セレブリックス) 向井さんとはこれまでもさまざまな機会でモデレーターとスピーカーとしてお話ししましたが……。
向井(ウェルディレクション) 今回のような対談は初ですよね。
今井 そうなんです。少し緊張しています(笑)。
向井 なんでですか(笑)。ぜひ今日はですね、皆さんの営業活動やビジネス成長に良いものを──抽象度の高いものから具体的なものまで、持ちかえっていただけるセッションにしていきたいと思います。
今井 今日のテーマは「顧客視点」とは何か。哲学的な問いですね。これを軸として、営業の本来の役割やAI時代の営業のあり方についてお話ししていきましょう。さっそくですが向井さん、「顧客視点」についてどう考えていますか。
向井 非常に耳ざわりの良い言葉ですよね。多くの営業組織で「顧客視点に立て」と言われていますが、そもそもなぜ顧客視点に立つ必要があるのか。少し抽象度を上げて考えてみたいと思います。
向井 会場の皆さんの多くは、BtoBビジネスに従事されているかと思います。前提として、多くのBtoBビジネスは営利会社をお客様としています。営利会社は利益を出して納税することが社会的な存在意義ですから、経済合理性を追求し、利益を出し続けなければなりません。
この目的を自助努力で達成できるなら良いのですが、外部環境や経済環境の変化によってさまざまな障壁が生まれ、外部から課題解決策を取り入れようとします。つまり、買い手は「利益を出し続ける」という目的達成の手段として購買するのです。そうであるなら、売り手による営業活動の目的とは「お客様の目的を達成する」こと、そして自社の商材が貢献できる場合、売るという手段をとると言えるでしょう。
ところが、売ることが目的になっている営業組織が非常に多いんですよ。どうすれば売れるかを起点にプロセスやコミュニケーションを構築している、言わば「目的不在の商売」と言えますね。今井さんは顧客視点をどうとらえていますか?
今井 顧客視点を持つとは、「あなたの役に立ちたい」というスタンスで、相手に関心を持つことではないでしょうか。
向井 「役に立ちたい」ですか。
今井 そうです。「顧客関心」と言っても良いんじゃないかと思います。ただ、ですね。行動を起こすエネルギーの源、ソース・オブ・エナジーは人によって異なります。人の役に立ちたいではなくて、褒められたい、見返してやりたい、だから営業になりたいと思う人もいる。この思いが強すぎると「売りたい」が目的になってしまうんです。
「自分が認められたい」が原動力でも、それはそれで良いんです。そのうえで、認められるためには相手の役に立つ必要がある、だから相手に関心を持つんだという考えを持って営業プロセスやコミュニケーションを構築することが重要です。「役に立ちたい」という意識が生まれると、自然と「どうやったら自分は買ってもらえるだろう」から「どうしたら相手が買う意味が生まれるだろう」へマインドが変わり、主語が「相手」に変わるのではないでしょうか。