インテントデータを取得するだけでは意味がない?
──改めて、インテントセールスの具体的な内容について教えていただけますか?
小笠原 インテントセールスとは、企業の検索行動からわかるニーズに基づき顧客起点で行う新時代の営業手法です。そのインテントセールスを成功させるために、「1.ニーズに基づいて企業をターゲティング」「2.部署・人物ターゲットを選定」「3.ニーズに合わせた訴求内容を作成」「4.マルチチャネルアプローチ」という4つのポイントを実施することが必要になります。
その実践を3つの構成要素に落とし込んだのが「インテントホイール」。顧客のニーズ発生を検知する「インテントシグナル」、顧客が欲しいと思ったタイミングでアプローチする「インテントアプローチ」、ブランド認知施策やPR施策で顧客のインテント(興味関心)を引き出す「インテントジェネレーション」と、顧客起点でサイクルを回し、持続可能な売上を生み出します。
──インテントセールスでは、ウェブの検索行動をはじめとしたインテントデータを活用しています。顧客起点の営業を実現するには、インテントデータを取得すれば問題ないのでしょうか。
小笠原 インテントデータがあるだけで自社の営業活動がガラリと変わると勘違いしている方は多いですね。しかし残念ながら、インテントデータがあるだけでは、顧客起点の営業手法であるインテントセールスは実現しません。インテントデータから顧客のニーズや欲しいタイミングを検知できたとしても、どの企業に対しても同じ商品説明や提案を繰り返しては意味がないからです。
向井 アプローチが通り一辺倒になってしまいがちなのは、やはり、売ることを目的にしているからだと思います。自社プロダクトのバリュー・プロポジションを軸に、自社が得意とする領域で売ろうとする結果、資料や提案内容も一律化してしまうのではないか。インテントセールスで言えば、「2.部署・人物ターゲットを選定」「3.ニーズに合わせた訴求内容を作成」のステップが欠けている状態です。
小笠原 まさに。インテントセールスにおいても、重要なのはインテントデータの有無ではなく、1社1社が抱える課題やキーパーソンの関心に合わせてアプローチを変えること。実際、顧客のニーズに合わせたアプローチへ変えたことで、月間の商談獲得数が1、2件から170件へと大幅に増加したケースもあります。
この事例では、当初はとにかく、自社サービスのニーズにつながりそうなキーワードが検索されたら代表電話に電話し、テンプレどおりのセールストークで断られるという状況でした。そこで、検索しているキーワードから「企業の中の、どのような立場の、どのような役割の人が、どのような課題を抱えているのか」をイメージしてターゲットとトークスクリプトを調整しました。そのうえで、部署の直通電話や、担当者と思われる人へ名指しでアプローチするようになったことで成果が出たのです。
「検索キーワード=顧客の課題」ではない?
向井 検索キーワードについては、医者と患者にたとえるとわかりやすいと思います。頭痛を訴える患者に対して、医者が頭痛という「問題」の発生原因を明確にせずに「うちは外科が強いので、手術しましょう」と提案したら、患者は納得しますか? という話です。
小笠原 わかりやすいたとえですね。「頭痛 原因」「頭痛 治し方」などの検索履歴から、頭痛という「問題」を抱えていて、そのソリューションを探しているとわかるのは「インテントシグナル」にあたる部分ですね。ただし、その患者に対して「当院は外科手術が得意な医師がそろっているので、手術しませんか?」と医者都合で提案するのではなく、「頭痛の原因は外科的・内科的・心療内科的などさまざまです。当院は頭痛の専門外来がありますので、診察にきませんか?」とアプローチし、さらに、診察の結果から最適なソリューションを提案できる営業でないといけませんよね。
一方、「脳外科 特化」など明確に「脳外科手術」というソリューションを求めている検索行動をとらえたら外科の訴求を、「肩こり 頭痛」という検索行動をとらえたら「肩こりの外来」を提案するというふうに、検索しているキーワードから特定のソリューションに対するニーズが顕在化していることがわかる場合は、そのソリューションを提案すべきでしょう。
インテントセールスでは、検索しているキーワードからお客様の状況を推測して適切なアプローチを行うことができます。しかし、検索されているキーワードを無視して自社が売りたいものを提案してしまう、つまり「2.部署・人物ターゲットを選定」「3.ニーズに合わせた訴求内容を作成」のステップが欠けていると成果につながらないというのは、まさにこういうことですね。
向井 多くの場合、企業の担当者は自社の問題はわかっていても、その原因までは特定・言語化できず困っています。だからウェブで検索するのですが、その際の検索キーワードは「売上があがらない 原因」など漠然としがちです。なので、インテントデータがあっても、お客様の「問題特定」には、まだまだ人が介入しなければなりません。
しかし、仮説を立てやすくなるという点では、やはりインテントデータは営業の良い味方となってくれるでしょう。お客様の顕在的な興味はどこにあり、どのような問題意識を持っていそうか。トップセールスが自らの経験を基に探り当ててきたことが、誰でもわかるようになります。
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著者:小笠原羽恭
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