なぜ今、「仮説提案営業」が求められるのか
城野氏は初めに、昭和から令和にかけて変わりゆく、顧客に求められる営業組織体制の変化について言及した。
「引き合い型営業組織」は昭和の時代に多く見られた営業スタイルだ。営業担当者が定期的に顧客のもとに訪問し、顧客からヒアリングした内容に基づいて注文を受け納品する。
その後、昭和から平成へと時代が移り変わるにつれて「商品提案型営業組織」が求められるようになった。ニーズが顕在化した顧客に対し、商品/サービスの特徴を詳細に説明し、営業がプッシュ型で顧客に売るスタイルの組織である。
そして、平成の終わりから現代にかけて求められるようになってきたのが「仮説提案型営業組織」だと城野氏は言う。まだニーズが顕在化されていない顧客に対して「仮説思考」を用い、口頭だけでなく提案資料も使いながら顧客のニーズを掘り起こしていく営業スタイルの組織だ。
この仮説提案営業が求められている背景について、城野氏はふたつのポイントを挙げた。
ひとつめは、競合他社の大量参入による競争の激化だ。かつては製品カテゴリ数が少なく、各カテゴリ内の製品数も少なかった。そのためひとつのカテゴリ内で1~3社の企業が市場を寡占している状況だった。
しかし、近年はカテゴリ数もカテゴリ内の製品数も激増している。この変化について城野氏は次のように補足する。
「競合が増えている昨今は、かつてのような御用聞き営業やプッシュ型の営業では案件化率が下がってきています。また、顧客のニーズも『何となくあれもこれもやりたい』『何から手をつけたら良いかわからない』と不透明化してきています。
このような状況の中、営業が自社を主語にして製品/サービスの特徴を訴求するだけではなかなか売ることはできません。改めて原点回帰、つまり顧客を主語にし、『営業がどのようなストーリーでそれぞれの顧客に合わせた提案を行うか』が重視されるようになってきているのです」(城野氏)
仮説提案営業が求められる背景のふたつめには、オンライン商談の普及により、顧客との関係構築が難化していることが挙げられた。コロナ禍以降、オンライン商談が当たり前に行われるようになり、「対面と比べてなんとなく本音で話してくれていない気がする」「顧客との距離感を感じる」といった営業の声を聞くと城野氏は言う。対面であれば名刺交換やアイスブレイクで話が弾むこともあるが、オンラインで信頼関係を構築することには多くの営業が苦戦しているようだ。
城野氏は「従来は、対面で何となく信頼関係を築けることも多くありました。しかし、オンライン商談が普及した昨今においては、顧客の画面がたとえオフでも、顧客の心をつかめるようなコミュニケーションをとることが重要になってきています」と話す。
このような背景から、顧客の想定課題を事前に仮説として考え、資料を用いながら提案することで信頼関係を構築していく「仮説提案営業」が求められているというわけだ。