1. なぜカスタマーパスが必要なのか?
営業組織は日々、「売上」というゴールを目指して活動していますが、ただ闇雲にそのゴールを目指しても到達することはできません。
そのゴールに対して今どこまで進んでいるのか、どうなっていればうまくいっているのかを測るための“物差し”を用意する必要があります。
2014年にブラジルで開催されたサッカーW杯で優勝した、ドイツ代表が良い事例です。このチームは、ボールを早く動かすサッカーをするために「選手ひとりあたりのボール保持時間」をKPIに設定し、徹底的に練習しました。その結果、平均ボール保持時間が2006年の2.8秒から、2014年には1.1秒にまで短縮することに成功したのです。
この「ボール保持時間」のような“物差し”があると、漠然としたゴールの手前の部分について組織全体で共通認識を持つことができます。さらに、効率よく改善点を見つけ、練習することもできます。
営業に置き換えた場合、受注というゴールに対してどのような“物差し”を決めて測定するべきなのでしょうか。そこで出てくるのが「カスタマーパス」という概念です。
2. カスタマーパスの定義
「カスタマーパス」を直訳すると「顧客の意思決定順序」となります。もう少しかみ砕いて表現すると、「顧客がサービスなどを購入するまでの意思決定プロセスを言語化したもの」と言えるでしょう。
何か商品やサービスを購入する際、多くの人は購入金額の上限を考えたり、いろいろな会社の商品を比較したりするなど、さまざまな思考を重ねたうえで購入を決定します。そのような思考の過程を「カスタマーパス」と言います。
3. カスタマーパスの効能
カスタマーパスを策定するメリットは、セールス・イネーブルメントの施策である「案件管理」「KPI設計」「顧客アプローチ戦略設計」がしやすくなることです。
カスタマーパスを言語化すると、顧客がどのような意思決定をして自社の製品・サービスを購入するのかがわかるようになり、アプローチすべき顧客層やアプローチ戦略・手法が見えやすくなります。たとえば、
- 顧客にどのようなアプローチをすれば良いのか
- すでに購入目的が明確になっている顧客にアプローチしたほうが良いのか
- 購入目的が明確になっていない顧客にアプローチして、どんどんフェーズ移行させていった方が良いのか
など、「どの意思決定フェーズにいる顧客を狙うべきか」という方針が見えてきます。
さらに、顧客へのアプローチ戦略を設計できると、
- 「競合との差別化」に注力すべきなのか
- 顧客の顕在化されていないニーズを掘り起こし、そのニーズを自社の製品・サービスで解決できると結びつけることに注力すべきなのか
など、「営業が注力すべきプロセス」も明確になります。
営業が注力すべきプロセスがわかれば、案件を進めるにあたって必要なアクションが明確になり、「案件管理」を設計することができます。
つまり、本来機能訴求すべきではない顧客に対して機能説明をしたり、サービスを利用する目的が顕在化している顧客に対して再度啓蒙したりしてしまうといった事態の発生を防止し、顧客の状況・状態に応じた適切なアクションをとることができるようになります。
このように、カスタマーパスは顧客の各意思決定フェーズにおいて追うべきKPIが明確になるなど、さまざまな効能があります。営業組織が売上を上げるための重要な制度を設計する際の「根幹」になると言えるでしょう。このカスタマーパスは業界や商材によって異なるため、自社の顧客に合わせて考えることが大切です。