インサイドセールスとは
インサイドセールスとは、電話やメール、オンライン商談ツールなどを活用し、顧客と非対面で進める営業活動のことを指します。
見込み顧客(リード)を獲得するマーケティング部門と、商談やクロージングといった対面での営業を担当するフィールドセールス部門の間に位置するのが一般的です。
具体的には、インサイドセールスはマーケティングが獲得したリードへアプローチして購買意欲を育成し、見込み度が高いリードを選別して商談化し、フィールドセールスへトスアップします。その際、リードに対するアプローチの手法は、「SDR」と「BDR」の2種類があります。
SDRとBDRが注目される背景
インサイドセールスは、もともと1990年代のアメリカで誕生した営業スタイルです。国土が広いため一件ずつ訪問するのが難しかったため、効率的に営業活動を行う目的でインサイドセールスが広まりました。
日本では2010年代から導入されていったようですが、その頃の日本ではまだまだ対面営業が主流でした。しかしその後、インターネットの普及や少子高齢化による人手不足などを背景に、オンラインで効率的に営業活動ができるインサイドセールスが徐々に広まっていったのです。
さらに新型コロナウイルスの発生によって、非接触やテレワークが推奨されたことが、非対面での営業活動であるインサイドセールスの広まりに拍車をかけました。
インサイドセールス導入企業は、自社の商材や営業フローなどに合わせて最適なアプローチをしなければなりません。そこで、アプローチ方法が異なるSDRとBDRについて理解したうえで、自社に適したインサイドセールス体制を構築する必要があり、SDRとBDRの違いに注目が集まるようになりました。
インサイドセールスの「SDR」とは
SDR(Sales Development Representative)とは、インバウンド型のインサイドセールスで、「反響型」とも呼ばれる手法です。SMB(Small and Medium Business)、つまり中堅や中小企業をターゲットとする手法とされています。
SDRの特徴
SDRは、問い合わせや資料請求など顧客からの能動的なアクションに対してアプローチを行うことが大きな特徴です。リードごとの見込み度の違いはあっても、全体的にリードの関心度が比較的高く、商談化しやすいことも特徴といえます。
大量にリードを獲得できる企業の場合には、ホットリードに対するスピーディなコミュニケーションが求められます。リードの購買意欲が冷めたり、競合他社に流れたりしてしまわないうちに商談化につなげないと、せっかくの機会を逃しかねません。
SDRのメリット インバンド型のSDRには、以下のメリットがあります。
- 自社商品やサービスに関心のあるリードを多数獲得できる
- ホットリードやウォームリードが多い
SDRのもっとも大きなメリットは、見込み度の高いホットリードを数多く獲得できる点です。ファーストアクションを起こすのはリード側からのため、最初から一定の興味や関心があるため、アプローチしやすいといえます。ホットリードはすぐに商談化することで、フィールドセールスの受注率も高まるでしょう。
ウォームリードはすぐには商談化できなくても、関係性の維持・発展の可能性が高く、育成次第では商談につなげられる可能性も高い傾向にあります。
SDRのデメリット
SDRには以下のデメリットもあるため、注意が必要です。
- 画一的なアプローチに単調さを感じる可能性がある
- 上昇志向の人には不向きなケースも
SDRは、誰でも同じ成果を出せるようシナリオやトークスクリプトが用意されているというケースがほとんどです。インサイドセールス担当者からすると繰り返しのルーチンワークになりやすく、モチベーションを維持しにくいという一面もあるのがデメリットとなります。報酬やキャリアアップのルートが示されていなければ、上昇志向の人にとっては苦痛に感じることもあるでしょう。
インサイドセールスのBDRとは
インサイドセールスのもう一つの手法が、BDR(Business Development Representative)です。BDRはアウトバウンド型のインサイドセールスで、新規開拓型と呼ばれます。具体的な企業や団体をターゲットとして個別に戦略を立てた上でアプローチするABM(Account Based Marketing)を取り入れることが多く、大企業など大口顧客を対象とします。
BDRの特徴
BDRの特徴は、取引したい企業・団体に対して能動的にアプローチしていく攻めの姿勢の営業手法である点です。営業活動にかかるコストや効率を考慮し、成約した場合に大きな利益が見込める大企業をターゲットとしてあらかじめ絞り込んでいる点も特徴的だといえます。
自ら取引をしたい企業に対してカタログやDMなどを送付した上で、電話やメールなどを用いてアクションを起こして信頼関係を築いていきます。
リードの購買意欲が低い状態(コールドリード)からスタートするため、戦略的な進め方が重要です。大企業を対象とするため、企業内で決裁権限を持つ立場の人とコミュニケーションを取ることが多く、SDRよりも高い営業スキルが求められる傾向にあります。
BDRのメリット
BDRのメリットとしては、以下のポイントが挙げられます。
- 自社が取引を望む企業にアプローチできる
- 大きな利益を長期間確保できる可能性がある
売り手側から働きかけるアプローチ手法のため、企業規模や実績、経営状態などを考慮した上で、理想的なターゲットを絞り込むことが可能です。大企業や公共団体などの場合、一度契約を取り付けることができたら、長期的な関係を結ぶ可能性が高いのも魅力といえるでしょう。
BDRのデメリット
一方、BDRには以下のデメリットもあります。
- 担当者に高度な営業スキルが求められる
- 成約までの期間が長い傾向がある
自社商品やサービスを知らない、または興味関心がない企業に対して営業をかけるため、BDRの担当者には営業スキルの高さが求めらます。購買意欲を高めるのに多くの労力を割く必要があり、さらに規模が大きな組織ならではの慎重さや意思決定プロセスの長さに、予想以上に時間がかかることも少なくありません。
SDRとBDRの違い
下記は、SDRとBDRの違いをまとめたものです。
SDR | BDR | |
---|---|---|
マーケティング方法 | リードの能動的なアクションを促進 | ABM |
役割 | リード選別・育成、商談化 | 新規取引先の開拓 |
ターゲット | 小規模企業、中小企業、中堅企業 | 中堅企業(選ばれた企業)、大企業、官公庁 |
戦略 | SMBを対象とする通常のインサイドセールス | ABMに基づく個別のマーケティング戦略 |
売上規模 |
中小規模 |
大規模 |
こちらを参考に、SDRとBDRの違いを具体的に見ていきましょう。
マーケティング手法
SDRでは、問い合わせや資料請求などのアクションを促してリードを獲得するマーケティング手法をとります。Webサイト、Web広告、SNS、メルマガなど、幅広い施策を行い、多くのリード獲得を重視する傾向にあります。
一方のBDRでは、ターゲットとする企業・団体を絞り込んで能動的に働きかけるABMを行うのが一般的です。
役割
SDRの主な役割は、マーケティングから引き継いだリードを育成して商談化し、フィールドセールスへ引き継ぐことです。日本のインサイドセールス組織の多くはSDRとなっています。
BDRは、自社にとって大きな利益をもたらす可能性が高い企業・団体を絞り込み、開拓していくのが大きな役割です。長期的かつ継続的にアプローチして関係性を構築していき、新しい取引先を開拓します。
ターゲット
SDRのターゲットは主に中小企業で、BDRの場合は主に大企業を対象とされているという点で異なります。
SDRは画一的なアプローチで、数多くのリードにスピーディに対応することに適しています。大量のリードに対して効率的に対応できるため、一件ごとの受注単価は低くても、数多くの受注獲得を目標としているのが特徴です。
その点、BDRは企業ごとに個別対応をして、少しずつ信頼関係を構築していくスタイルです。決断までに時間を要する大きな組織を対象としている場合に向いており、相応の労力を費やしても成約できればコストを十分に回収できる見込みがあります。
戦略
ターゲットが異なるため、戦略面でも違いが見られます。
BDRの場合、大企業と成約すれば高単価かつ長期的な関係が期待できることから、成約後の関係性まで視野に入れた戦略が求められます。「成約」が最初のゴールになりますが、そこを起点とし、アップセルやクロスセルによる販売拡大、他部署への展開などを狙っていく戦略です。
また、BDRのターゲットである大企業は、そもそも数が少なく、2023年版中小企業白書によると、国内にある企業の99.7% が中小企業であるのに対し、大企業は残りの0.3%で、数にして1万社超です。そのため競争率が高く、緻密な戦略が必要となるでしょう。
その一方、SDRはマーケティング部門が獲得したリードを選別したり、育成したりしながら商談化し、成約に向けてリードを絞り込みながら業務を進めていきます。
売上規模
売上規模については、SDRよりもBDRのほうが、当然大きくなります。大企業などを主な顧客とするBDRは、もともとの予算が多いことに加えて、成約後の比較的安定した関係性の中で他部署への展開なども期待できます。LTV(Life Time Value)=顧客生涯価値が高い傾向にあるというのが特徴です。
中小企業を主な顧客とするSDRの場合、事業の拡大や縮小など、経営状態の変化に伴い自社商品やサービスに対するニーズそのものが変化することも珍しくありません。大企業と比べると、取引期間が比較的短く、単価や利益も低めだといえるでしょう。その分、数多くの成約を得る必要があります。
【業務範囲別】インサイドセールスのパターン
企業によって、インサイドセールスが受け持つ業務範囲が異なります。ここでは、リード獲得から商談までのプロセスにおいて、インサイドセールスが担当する部分に関するパターンを紹介していきましょう。
役割分担型
役割分担型とは、リード獲得や育成、選別など、役割に応じてインサイドセールスを配置することです。具体的には、リードの獲得をマーケティング部門が担当し、リードの選別・育成と商談化をインサイドセールスが担い、商談からクロージングまでをフィールドセールスが行うというように、営業プロセスを細分化して分業します。
- リードへのアプローチ方法や回数
- どのような反応が返ってきた場合に見込み度を判断するか
- 見込み度が低い場合は別のアプローチを試みるか
- どのような状態になったら、商談化へと移行するか
こうした判断基準を明確にしておき、適切なタイミングでフィールドセールスへと引き渡せるようにしておくことが重要です。
このような役割分業型のインサイドセールスは、各プロセスで丁寧なフォローができることから、比較的大きな組織や単価の高い商品・サービスなどに向いているといえるでしょう。
導入するポイント・注意点
役割分担型を導入するポイントは、各部門が協力し合えるような体制づくりや目標設定、業績評価をすることです。各部門は「成約」という同じゴールに向かって協力すべきなので、役割分担の意味や効果、期待される成果などの共有は欠かせません。
また、評価に関しては、つねに全体に気を配る管理者の存在も不可欠です。分業型の場合、詳しくヒアリングした担当者のアポイントメントと、そうでない担当者のアポイントメントではフィールドセールスへ引き渡したあとの成果に大きな差が生じることから、同じように評価してはいけません。
また、各部門で連携し合わないと、リードへの対応の遅れ・漏れにつながり、取りこぼしや失注の可能性が高くなる点には注意しましょう。
全範囲型
全範囲型とは、リードの選別からクロージングまでを一人のインサイドセールス担当者が受け持つ配置パターンです。この場合、マーケティング部門から渡されたリードを顧客属性や地域、流入してきた経路(チャネル)などによって分類し、リードをフォローする形になります。
フィールドセールスと分業しないため、フィールドセールスも営業プロセスの最初から最後までを担当します。そのため、「中小企業はインサイドセールス、大企業はフィールドセールス」「オンライン対応を希望しているリードにはインサイドセールス、対面を希望しているならフィールドセールス」というように、リードの規模や好みなどに応じてフィールドセールスとインサイドセールスが並行して営業活動を行うこともあるでしょう。
導入ポイント・注意点
インサイドセールスとフィールドセールスの住み分けを明確に決めておくことが、全範囲型を導入する際のポイントです。顧客別に担当が分かれるため、リード配分に対する不公平感が起こらないように、どのような線引きをするかが重要です。
具体的には、自社商品の中でも比較的営業のシナリオをパターン化しやすいものについてはインサイドセールスが担当したり、フィールドセールスによる訪問が難しい遠隔地をインサイドセールスに任せるといった地域による住み分けなども考えられます。
注意点としては、インサイドセールス担当者はリードの育成だけでなく、提案や商談、クロージングといったプロセスを成功させるためのスキルが必要となるため、人材育成に時間がかかる傾向です。
チーム型
チーム型とは、インサイドセールスとフィールドセールスがひとつのチームを組んで営業するスタイルです。インサイドセールスとフィールドセールスの役割分担や案件による住み分けはあるものの、抱えている案件数や進捗状況、作業量などによって、柔軟にチーム内で協力し合うという仕組みといえます。
この場合、役割分担型と全範囲型が混在するチームとなる場合と、全範囲型の中でインサイドセールスとフィールドセールスとがオンライン・オフラインの垣根を越えて案件の進捗に向けて助け合うというパターンがあります。
導入ポイント・注意点
チーム型を導入するポイントは、役割分担型ではなく全範囲型でもなく、チーム型とする理由が明確になっているかどうか。例えば、「試験導入で課題を洗い出すため」や「全範囲型から役割分担型へと移行するため」などです。
運用が複雑になることから、連携不足や作業平準化、業績評価の難しさなどが注意点となります。
SDRやBDRを成功させるためのポイント
SDRやBDRを成功させるためポイントを紹介します。
インサイドセールスの目的を明確にする
まずは、インサイドセールスの目的を明らかにしましょう。一般的には、業務効率化や生産性向上、営業ノウハウの標準化などの目的がありますが、自社にとって解決しなければならない重要課題があり、その解決策としてインサイドセールスが有効かを十分に検討する必要があります。
導入に際しての課題を洗い出す
インサイドセールスの導入によって、自社が抱える重要課題の解決が見込まれると確認できたら、導入に際して想定される課題をくまなく洗い出しましょう。現状の組織体系の見直し、フィールドセールスとインサイドセールスが担う役割設定、配置パターン、SDRとBDRのどちらを採用するかなど、取り組まなければならない課題は少なくありません。業績評価や報酬との連動性も考えておく必要があります。インサイドセールスに従事する人材の確保や情報共有方法の確認も欠かせません。
手順書やトークスクリプトを準備する
もうひとつ忘れてはならないのが、インサイドセールスの肝となる手順書やトークスクリプトの作成です。統一された手順や基準に則って営業プロセスを進めていくため、手順書やトークスクリプトがないとインサイドセールスの運用が難しいでしょう。
具体的には、マーケティングも含めた全体プロセス図と担当部門の役割、プロセスごとのフローやヒアリングシート、トークスクリプト、FAQなどです。ヒアリングシートやトークスクリプト、FAQについては、優秀な営業パーソンにヒアリング・アンケートなどを行い、形にしていくことができます。
ツールの導入を検討する
SDR、BDRどちらでも、ツールを活用することで大幅な効率化が期待できます。SDRは膨大なリード情報やアプローチ履歴を管理する必要があり、BDRは企業・団体ごとのアプローチ履歴や商談履歴から最適なネクストアクションを策定する必要があるからです。
データの蓄積・一元管理や分析などが容易になるツールの活用が、インサイドセールス成功への近道となるでしょう。
SDR/BDR運用に最適なツールとは
SDRやBDRの運用には、ツール活用が欠かせません。それでは、どのようなツールが適しているのか紹介していきます。
MAツール
マーケティング活動を自動化・効率化するMA(マーケティングオートメーション)ツールは、リードの育成・選別に活用できます。
メール配信機能やフォーム機能、アクセス解析機能などがあるため、それぞれの機能を活用することでリードへのアプローチが効率化し、それに対するリードの反応(メール開封率やアクセス数など)も自動で測定・集計が可能です。
たとえば、HubSpotの「Marketing Hub」はシンプルな設計と充実した機能が特徴で、同一プラットフォーム上のCRMやSFA等とも連携できるため、情報共有や業務効率化につながります。
SFA/CRMツール
SFA/CRMツールは、顧客情報や商談履歴、取引履歴など、顧客や営業活動に関する情報を一元管理できるツールです。インサイドセールスだけでなくフィールドセールスでも活用できるため、部門間連携の促進にもつながるでしょう。
SFA/CRM業界で世界的にトップクラスのシェアを誇るのが、Salesforce社の「Sales Cloud」です。多機能でカスタマイズ性も高く、搭載されたAIが営業活動をサポートしてくれます。
名刺管理ツール
名刺管理ツールは、展示会やセミナーなどで名刺交換した際に活用できるツール。名刺情報をデジタル化でき、組織内の名刺情報を一元管理できます。
名刺管理ツール「Sansan」は、紙の名刺をスキャナーやスマホカメラで取り込んでデータ化できます。取引先企業ごとの組織図をツリー上で表示するため、人脈を広げたいときにも有効です。
また、こちらの記事ではインサイドセールスの営業活動全般に活用できるツールを多数紹介しています。あわせて参考にしてください。
関連記事:【種類別】インサイドセールスツール23選!導入メリットから選び方まで
まとめ
同じインサイドセールスでも、SDRとBDRには営業手法としての違いがあります。インバウンド(SDR)とアウトバウンド(BDR)のどちらがいいのかについては、取り扱う商材や狙うターゲットによって変わりますが。重要なのは、2つの違いを理解した上で自社ビジネスに適しているスタイルを選択することが重要です
本記事では、SDRとBDRの違いや特徴、メリット・デメリット、導入・運用のポイント、インサイドセールスの配置パターンなどについて解説しました。それらを踏まえた上で、自社に適したインサイドセールスを導入しましょう。