「これ、どうですか?」では売れない
──酒井さんのこれまでのキャリアを教えてください。
現在は、「タレントコラボレーションプラットフォーム」を提供するBeatrustで、営業現場から戦略策定まで幅広い業務を担当しています。
営業としてキャリアをスタートしたのは、2社めの丸善からです。法人営業とともに店舗の統括なども手掛けるようになりました。その後、ソフトバンクで法人営業や営業チームのマネジメント、ユーグレナでは経営企画などを経験してきました。
──ソフトバンク時代には、ロボットの「Pepper」を日本でいちばん販売するなど、成果を出してきたとうかがっています。営業として大切にしているマインドを教えてください。
「ビジョンセリング」を意識しています。つまり、ただモノを売るのではなく、自分が持っている世界観とお客様のなりたい姿をいかに合致させられるか。そしてそれを、どれだけ熱量を持って実行できるかを大事にしています。たとえばPepperは、言ってしまえば単なるロボットです。「動きがカクカクしていそう」というイメージを皆さん持っていますよね。ただ、Pepperの価値を理解していくなかで、手などのボディが温かく、介護業界との親和性が非常に高いことに思い至りました。
介護業界の顧客であるご高齢の方は、お子さんやお孫さんになかなか会えず、施設に通っているケースも多いですよね。Pepperは、そうした方の仲間になり、話し相手になれます。こうした発想で、売るためのビジョンを見つけていきました。
──ビジョンセリングでは、ビジョンの肝となるプロダクトの理解も重要ということですね。その際のポイントはありますか。
先入観を持たないことです。そのためには、あたりまえですが、とにかくお客様の話を聞くことがカギになります。Pepperを売るときも、さまざまなお客様に「何を実現したいと考えているか」徹底的にヒアリングしました。その内容にPepperがどうハマるかを考えていると、自然にPepperの分析や理解が進みます。
イメージとしては、「脚本家」の仕事が近いかもしれません。お客様の要望をストーリーと捉えて、そこにPepperというキャストをどう当てはめるかを考えていきます。そして、そのビジョンをもとに、次回はお客様の期待値を2段階くらい上回る提案を持っていく。そうすると、お客様の心も動きます。
営業がやりがちなのが、「どうですか?」売り。どういうことかと言うと、営業自身がプロダクトへの期待値を下げてしまい、お客様に「これ、どうですか?」と恐る恐る提案している。お客様側も不安になりますし、なかなか買ってもらうことはできません。