『THE MODEL』刊行から3年 書籍名に込めた思い
『THE MODEL』(翔泳社)を2019年1月に出版してからもうすぐ3年が経過しようとしています。出版前は外資系IT企業やSaaS業界など一部の限定された人しか興味を示さないだろうと考えていました。当時マルケトの年次カンファレンスに参加登録してくださるお客様が5,000人程度でしたので「そのくらいの部数が売れると嬉しいな」と考えていたのを思い出します。しかし、ありがたいことに予想に反して幅広い層の方に手にとっていただくことができました。出版後はIT業界だけでなく、製造業、金融、教育、大手、スタートアップなどさまざまな分野の方からお声がけをいただくようになりました。
この3年でSaaSに関する情報発信はさらに加速されています。また「マーケティング」「インサイドセールス」「営業」「カスタマーサクセス」など各役割を深く掘り下げた書籍の刊行や、セミナー・勉強会なども活発に行われるようになり、日本全体のレベルが向上してきたことを実感しています。
一方で『THE MODEL』を次のように解釈されるケースが多いのも事実です。
- セールスフォース・ドットコムが創業当初から実践している成功モデル
- 分業体制で商談化率や受注率などのKPIを管理するオペレーション
- インサイドセールスやカスタマーサクセスが肝
- SMB市場や単一製品を販売するのに適したやり方であり、エンタープライズ市場には不向き
これらはある一面を取り上げれば間違ってはいませんが、『THE MODEL』を通じて伝えたかった本質ではありません。もともと本を執筆したきっかけは、2017年ごろに「うちもセールスフォース・ドットコムをお手本にしたい。The Modelというやり方があるらしいので勉強しています。インサイドセールスを導入したり、商談フェーズを8段階に設定して実践しているんです」というお客様に立て続けに出会ったことがきっかけでした。
成功している会社を模範にすることは良いことですが、その手法とマッチしていないのではと思われる会社が盲目的に実践しようとしているのを見て、警鐘を鳴らさなければならないというある意味で勝手な使命感で出版したのが『THE MODEL』です。
多くの方が「The Model」という言葉で想像するチャートはそもそも各役割に分けてKPIを管理することが目的ではなく、オペレーション上の課題となるボトルネックを特定するために採用した手段に過ぎません。書籍でも少し触れたように、もともとThe Modelという言葉は2004年当時、セールスフォース・ドットコム日本法人のオペレーション改善のために行われたプロジェクトのコードネームでしたが、実際に皆さんがよく目にするチャートは作成した20ページほどの資料の1枚に過ぎません。
またリサイクルの概念や89ページで紹介しているフローや残高の考え方は、私がマルケトで学んだものです。本のタイトルも「The Art of Sales」(孫氏の兵法が英語名ではThe Art of Warであることにちなんで)や「Playbook」という言葉を使う予定でしたが、最終的にはThe Modelの表面的な理解ではなく、本質を伝えたいという意味を込めて大文字の『THE MODEL』としました。