経験は補える! 未経験者だけでカスタマーサクセス組織を立ち上げる
泉 立ち上げにあたって、私たちは「動きながら、整備する」かたちで、4月からトライアンドエラーを繰り返していきましたね。緊急事態宣言以降、私たちが販売しているウェブ会議システム「Zoom」やテレワーク製品の重要が高まり、既存顧客へのサポートを強化していきたい思いはあったのですが……それだけではなく、新規のお客様に対する関係構築も同時に考えながら、7月以降の計画を立てていきました。
私を除く3名の立ち上げメンバーには、事務職のメンバーを招集しました。一般的には、カスタマーサクセスの担当者は元営業職や元カスタマーサポートの方が多いと聞いていたのですが……我々は、「各所への細かい気配り」「効率的なタスク管理・処理」を期待して、事務職のメンバーを集めました。3名のメンバーは、従来の業務を通じて先述したスキルを十分に身につけていた面々であったため、そこにプラスして、製品の知識や接客のスキルが身に着けられた状態をゴールに置きました。彼女たちがカスタマーサクセスのプロフェッショナルとして自立ができるように、現在進行形で独り立ちに向けた育成計画が進行中です。
高橋 カスタマーサクセスチームをつくり上げていくにあたって、「まずは何から手を付けましたか?」と尋ねると、多くの方は「採用です」とおっしゃいます。そこで、カスタマーサクセス人材を募集する国内ITベンチャー企業の採用ページを参照しながら、この職種に求められるスキル・人間性・要件を調べてみました。すると、「カスタマーサクセス業務の経験」を除く期待役割の9つは、大きくまとめると「業界知識・プロダクト理解」「マーケティング・営業スキル」「推進力・巻き込み力」の3つに集約されました。
結果を見て、「カスタマーサクセス業務の経験がなくても、チームはつくることができるのではないか」と改めて感じました。我々をはじめとしたカスタマーサクセスを支援する企業もありますから、外部の力を借りることで「経験」の部分は補うことができるため、まずは既存のメンバーでカスタマーサクセスチームを立ち上げてみるとよいのではないかと思っています。
先ほど、泉さんからはチーム立ち上げ時のお話をうかがいました。その後どのようにしてチームを動かし、規模の拡大に取り組まれたのかを教えていただけませんか。
泉 まずメンバーには、社内のインサイドセールス業務を数ヵ月間経験してもらいました。営業事務の業務では社外とコミュニケーションを取る機会がないため、まずは「『お客様と会話をする』ことに慣れてもらう」意味合いで、インサイドセールス業務を経験してもらいましたね。お客様と会話するトレーニングを十分に積んだのち、Zoomの知識をつけてインサイドセールス業務に取り組んでもらいました。
メンバーの育成を行うにあたっては、「接客」「マインド」「技術」の三本柱を大切にしていたのですが、「技術」の優先順位は低くしていました。我々はSIerですので、社内を見渡せば深い技術の知識を持ったエンジニアが多く在籍しているためです。
もちろん、基礎的な知識は大前提として必要ですが、技術に関する深い知識は現在も求めていません。それよりも、お客様と良好な関係を築き「あなたになら、なんでも話すことができる」と言ってもらえるような関係性を目指しつつ、「お客様の視点で社内に意見ができる」人材であってほしい想いがあるため、コミュニケーションスキルは何よりも重要視しています。
高橋 ありがとうございます。インサイドセールス業務の中では、架電を担当する以外にもさまざまな取り組みをされたとうかがいました。
泉 お客様に対して、要点を効果的に伝えるための「プレゼン演習」や、技術的な内容も含めて「お客様にわかるような」説明方法の実践を行っていきましたね。そのほかにも、マインドセットの面では顧客満足に関する理論の勉強や、顧客目線を深めることを目的としたペルソナ設計、カスタマージャーニーマップの作成などを、ワークショップを交えながら取り組んでいきました。
高橋 ペルソナを用意することで、お客様になり替わることができることを試行されたのではないかと思います。カスタマージャーニーマップというのは、チームのみなさんで検討したうえでつくっていったのでしょうか。
泉 グループワークのような形で、1チーム4~5人ずつで検討していきました。私が指揮を執り、皆それぞれペルソナを具体的にイメージし、「どのような行動をするだろうか」をイメージしながらカスタマージャーニーを描いていきました。
ほとんどのメンバーが「ペルソナ」「カスタマージャーニー」の概念を知らない状態からスタートしたため、最初は「お客様の視点で考える」と言われると、どうしても「『自分が』お客様だったら」と自身に置き換えて考えてしまう傾向にありました。それが、ペルソナを設定して考え方の訓練を続けたことで、「お客様」を主語とするカルチャーができ上がったように感じます。