『ビジュアル思考×EXCELで営業の成果を上げる本』は、営業担当が商談やプレゼンで相手の心を動かし意思決定を促すために有効活用できるビジュアル思考にもとづき、Excelで実際に様々なグラフやチャートを作成する手法を解説した本です。
長年BtoB領域のマーケティングとセールスで活動されている著者の角川淳さんは、本書でビジュアル思考と図の力を実感した体験談を語っています。
それによると、ある事業を推進するトップがビジネスモデルについて相談に来たとき、ホワイトボードに簡単なコンセプト図を描いたところ、「なるほど!」と迷いが晴れて明るい表情になってもらえたとのこと。さらに後日、そのコンセプト図をもとにした事業計画の資料ができ上がっており、1つの図が組織全体を動かすことに感動を覚えたそうです。
営業担当であれば、商談相手やクライアントに伝えたいことは多々あるはず。しかし、だからといって資料に文字と数字を詰め込むのは逆効果。伝えたい情報の本質を整理して要点をまとめ、相手に直感的に理解してもらうには図を使うのが一番です。図は、相手と一緒に考え、意思決定してもらうための道具なのです。
角川さんは、「図にして考えて伝える」方法をビジュアル思考と呼んでいます。本書では図を作るために、営業活動に最適なExcelを最大限に活用。顧客ニーズを突き止めるヒアリングツールや受注の確度を高める商談マップなど、具体的な手法について使い方や作り方を解説しています。
しかし、そうした図の作成や利用を行う前に押さえておくべきポイントがあります。それは、ビジュアル思考を実践するためにどんなことが大切なのかを理解すること。そこで今回は本書から、「Chapter 03 ビジュアル思考のために大切なこと」の一部を抜粋して紹介します。
ビジュアル思考を根本の考え方から理解し、営業活動に活動するための参考になれば幸いです。
人を動かす図の力
以前、ある事業のトップの方が筆者のところに相談に来られた際に、事業として目指したい姿についての話になりました。詳しくは書けないのですが、その事業のこれからのビジネスモデルについてモヤモヤしているということでした。しばらくお話を伺ったあとに、「このようにいろいろなことを考えているんだけど、なかなかまわりがわかってくれない」とも話されていました。
そこで、私がホワイトボードに簡単な図を書いて、「お考えになっておられるビジネスモデルを簡単にまとめると、こんな感じでしょうか?」と聞いたところ、「なるほど! 確かに私の言いたかったことはコレだよ。スッキリした、ありがとう!」と、打って変わって明るい表情になり、興奮気味に帰られました。
そこで書いた図は本当に簡単なコンセプト図でしたが、その方は直感的に「この図を使えば、私の言いたいことを部下も理解してくれるだろう」と思われたようでした。その2週間後にお会いしたときには、そのコンセプト図をもとにした事業計画の資料ができあがっており、「これでウチの社長もメンバーも、この事業の目指す方向を正しく理解してくれるよ」と嬉しそうに話されていました。
これは、筆者自身にとっても図の持つ力を改めて実感した出来事でした。私はもともとコンピュータのエンジニアだったので、物事を構造化して考えることは得意なのですが、それをシンプルな図にすると人に伝えやすいですし、考えやすいというメリットもあります。だから人の話を聞きながらでも、ついその話を図解してしまうのです。
その延長線上で、「こんなのできましたけど……」とホワイトボードに書いただけだったのですが、それが顧客のモヤモヤを想像以上に解消することになりました。
それからその図は社内への説明だけでなく、顧客向けの事業案内にも使われることになりました。1つの図が組織全体を動かすことになっていったのです。
ビジュアル思考とは、「図」にして考えること
情報の本質が見えてくる
図はそれを見た人に直感的に理解させる力を持っています。どこかへの行き方を言葉だけで伝えると大変ですが、簡単な地図を描けばすぐにわかるでしょう。また、言葉で行き方を伝えるだけだと、仮にそれが正しく伝わったとしても、伝えられた人はその通りにしか行くことができないはずです。しかし、地図だと全体の位置関係が正しく伝わるので、「もっと近道できないか?」などと考えることにもつながります(図3-1)。
筆者は自転車が趣味ですが、仲間と地図を見ながら「こっちに行けばもっと早いのでは?」「なるほど、それはそうだな。試してみて」とか「それは以前にチャレンジしたけど、激坂(読んで字のごとく、上るのが大変な坂のこと)で大変だった」などという会話をすることがあります。このように、図を使うと情報交換が深まったり、新しいアイデアを考えることにつながったりする可能性が出てきます。
何かの事柄、情報、考えなどを図にして、理解し、考えることが「ビジュアル思考」です。図にすることで、余計なことが削ぎ落されて、物事の本質が見えてきます。正しく理解し、本当に大事なことについて考えることができるのが最大のメリットです。
営業活動の報告をビジュアル化
ここでありがちな営業ミーティングでの報告内容を題材にして、図にするとはどういうことかを具体的に紹介しましょう。
現在、進行中の商談は5件です。1件目のA社は先日課長にも同行いただき、1200万円の提案で、社内決裁に向けて先方の担当者と来月受注を目指して詳細の打ち合わせを進めています。技術的にいくつかのことを解決する必要がありますが、技術部門とも相談し、なんとか解決できそうです。2件目のB社は代理店からの紹介で、300万と規模は大きくないのですが、担当者はすぐに導入したいと言っています。ただ、担当者の上司が他社のほうがいいと考えているらしく、説得が必要です。会って直接話ができればなんとかなると思うので、直接会わせてくれとお願いしています。アポが取れたら課長に同行していただきたいのでよろしくお願いします。3件目のC社は800万円の提案をして、ほぼOKだろうと聞いていたのですが、今期の業績が厳しいらしく、社長から全社的な予算見直しの指示が出たので待ってくれと言われました。それで技術部門と相談して600万くらいで再提案して、社内を通してもらおうと思っています。担当者はやる気なので、なんとかがんばります。4件目のD社はシステムの入れ替えを一部にするのか、全面的に入れ替えるのか、まだ方針が決まっていないらしく、商談としてどうなるか不明です。来月くらいには方針が出るとのことで、連絡待ちです。5件目のE社は半年前に500万の提案をしたままになっていた商談ですが、先日やっと担当者と連絡が取れました。来期の予算化に向けて検討したいとのことでしたので、明日訪問する予定です。
さて、これを口頭で伝えられたとき、あなたの頭の中はどうなるでしょう。いろいろと気になることがあるのではないでしょうか。
この報告をした担当者もそのあたりを気にして、かなり雲行きの怪しいC社の商談の報告を目立ちにくい3番目に持ってくるなど工夫(?)をしていますが、それはもちろん本質的な問題解決にはなりません。
もし3件目の商談のことについて「社長からの全社的な予算見直しの指示? それで600万の再提案? なんとかがんばる? どうやって?!」などと引っかかってしまったら、それ以降の話はちっとも頭に入ってこないかもしれません。また、黙って話を聞いていられず、最初の商談にツッコミを入れてしまったら、時間オーバーになって3件目の話までたどり着くことができなかった……ということもありがちです。
そもそも報告する側の営業担当者は「よい報告をして認められたい」と思っています。これに対してマネジャーも、根本的には「よい報告を聞いて安心したい」と思っていますが、経験から「報告をそのまま鵜呑みにしてはいけない」ということも知っています。そのため、真実を知ろうといろいろツッコミを入れるのです。
マネジャーが商談について知りたいことは、
- いつ、いくら受注できそうなのか
- どこまで進捗しているのか
- 何か問題はないか
などのはずです。そこでこれらの商談状況を簡単に図にしてみました(図3-2)。
縦軸に顧客の購買の進捗状況、横軸に自社の考える受注予定時期。そして円の大きさは商談の規模を表しています。先ほどの営業担当者の報告内容をすべて反映しているわけではありませんが、マネジャーが知りたいことは直感的にわかるようになっています。
ここでぜひ考えてみてほしいのは、先ほどの口頭での説明を聞くのと、この図を見てから補足情報の報告を口頭で受けるのとの違いです。後者の場合、この営業担当者の抱える5件の商談の全体像をつかんだうえで、優先順位を意識しながら話を聞くことができるはずです。
また、現状について視覚的に把握できるので、すぐに具体的な質問ができます。また、現状を踏まえて「これからどうするか」というアイデア出しに頭と時間を使うことができるのです。
これが「俯瞰して考える」ということが自然にできるようになるビジュアル思考の大きなメリットです。
何を考えたいのか、その意図をもって「図」を考える
前述のように図にするスキルは仕事に大変役立つものですが、残念ながら「物事をシンプルに図にする」ということを学校で習うことはありません。素晴らしい図だからと賞をもらえることもないですし、学問として確立されたものでもないと思います。
そのため、苦手意識を持っている人は少なくないのではないでしょうか。人が描いたものについては意見を言えても、自分では作れないと思っているのです。ちなみにうまくできない人の傾向として、「伝えたいことがはっきりしていない」ということがあります。
上手な似顔絵を見ると「うまく特徴をつかんでいるな」と思います。その人の顔の中から特徴的な部分を選び出し、それ以外はシンプルに描いています。それと同じように仕事で使う図においても、「特徴的な部分=伝えたいこと」を選び、そこに焦点を絞ってシンプルに描けばよいのです。
図にすることで視覚的にわかるようにできることは、以下のようにいろいろあります。
- 大きさ/量
- 位置
- 進捗
- 関係性/関連性
- 変化
- 偏り
これらをあれもこれも……とするのではなく、今回の話で大事なことは何かを考えて、とにかく図にしてみるのです。大きさを表現するのであれば、大きさの違うマルを描けばいいですし、進捗であれば矢印の長さや位置関係で表現できるでしょう(表3-1)。
そして、その状態をどうしたいのか、どこが問題なのか、なぜそうなっているのか、など「考えたいこと」が考えられるように工夫することがポイントです。
また、1人で考えているだけでなく、未完成なものであっても人にどんどん見せることでうまいアイデアが得られたりするものです。それも図にすることの大きなメリットです。
パソコンのメモではビジュアル思考ができない
文字だけに制限されるパソコンのメモ
人の話を聞きながらメモを取るとき、どんな道具を使っていますか? 昔は手帳かノートが当然でしたが、最近は若い人を中心に、パソコンに入力するという人が増えたように思います。
確かにあとで入力する手間は省けますし、そのまま保存しておけば必要なときにいつでもどこでも見ることができるというメリットがあります。
しかし、1つ大きな疑問があります。それは「人の話を聞きながら図解したくならないのかな?」ということです。筆者のようになんでもすぐに図にして考えてしまう人間にとって、文字入力に限定されてしまうパソコンは思考をかなり狭められてしまうので辛いのです。
もちろん、時間をかければパソコンでも手書きよりもずっと見やすい図が描けるのですが、人の話を聞きながら「チョイチョイ」と落書きのように思い付いた図を描いてみることができません。
こんなことをいうと「パソコンは聞いた話を打っているだけですから」などと言われるのですが、人の話を聞いた直後が一番、頭が刺激を受けて活性化しているはずです。そのタイミングで思い付いた図を書き留めておくということは、とても意味のあることだと思うのです。
図の力で話を構造的に捉える
また、図にすると、聞いている話を「構造的に捉える」ということにつながります。話の中でのキーワードや関連を頭の中で図にしようとしながら聞いていると、「顧客の話で課題が3つあるといわれていたが、実はそのうちの2つは根本的なところが共通した課題だな」「さっきの話では期間とコストが明確だったけど、こちらはなぜコストの話しかしないんだろう」といったことに気付くことができるはずです。
そしてそれを何らかの手段で相手に返すことができれば、自分の頭とノートだけで行われていたビジュアル思考が話し手との間に広がり、お互いにとってメリットのあるコミュニケーションにつながることも少なくないのです。
「情報を保管する」という作業の生産性だけを考えてパソコンに打ち込んでいることが、自由な発想力を阻害することになっていなければいいなあと、人の話を聞きながらパチパチやっている人を見ると思います。
文字だらけ、数字だらけの資料は人間の思考を阻害する
さて、ここからはもっと「営業」という仕事に特化して、ビジュアル思考について考えていきましょう。
皆さんが日々の営業活動に使っている資料にはどの程度、図が入っているでしょうか。また、社内のマネジメント用の資料ではどうでしょうか。
基本的に箇条書きが多いのではないかと思います。聞いたことや考えたことなどが列挙されているというイメージです。
それらを作成する人はその資料に慣れていますし、違和感はないでしょう。ただし、その資料を使って説明される側の視点で考えてみると、その資料はわかりやすいものでしょうか。いや、そもそも「じっくりと見よう」という気持ちになるものでしょうか? 以前にある会社で見せてもらった社内報告用の資料について、思わず「見るのが辛い資料ですねえ」と言ってしまったところ、「見やすくして細かいところに突っ込まれると困るので、あえてそうしているんです」と言われて苦笑したことがありましたが、普通はそんなことはないはずです。
特に顧客向けの資料に関しては、少しでもわかりやすくして、大事なことが相手に伝わるようにしたいと考えているでしょう。そこであれやこれやと加えていった結果、文字が多くなり、「じっくり読めばわかるが、そもそも読む気にならない資料」という本末転倒のものができてしまうのです。
また、文字だらけ、数字だらけの資料というのは、理解するだけでエネルギーを使い果たしてしまうので、そこからさらに考える気になりにくいという問題もあります。
こちらが得意げに分厚い資料を読み上げ、相手はそれを眠気と戦いながら聞いている。そして最後に感想を求めると、「いい勉強になりました」と言われる。そんなコミュニケーションは本来営業が望んでいるものではないはずです。
営業で「図」を使う本当の目的
ではどのようなコミュニケーションができればよいのでしょうか。「顧客を説得する」とか「納得させる」などという意見が営業担当者から出ることがありますが、顧客はそんなに簡単に説得されたり、納得させられたりするものではありません。
こちらからの情報提供やそれに伴う会話をきっかけにして、顧客自身が何か大切なことに気付き、自ら動こうとしない限り、ビジネスにつながることはないのです。
営業において、「よい図」はこのための活動を促進させる役割を果たします。あー言えばこう言う、こう言えばあー言う……というようなあまり建設的でないやり取りではなく、図を介在させることでこちらが伝えたいことはすぐに伝わり、そこから相手の本音を聞き出したり、これからどうするかを一緒に考えたりできます。
また、考えた図を顧客に見せて「これ、わかりやすいね」と言ってもらったにもかかわらず、「ありがとうございます。それでですね……」と自分の言いたいことをどんどん話そうとする人がいます。このように図を単に「伝えるための道具」としてだけ使うのはもったいないと考えるべきです。
営業にとって、図はそれを題材にして一緒に考えて、大事なことに気付いてもらう、あるいは動く意思決定をしてもらうための道具なのです。それは顧客向けの営業活動だけに限りません。第2部では、マネジメントの場面においても、図が頭と時間を有効に使うよう促す効果があるということについても解説します。
前述の報告の例のように、単にできていないことが浮き彫りになって、お説教が始まるきっかけになるというのでは辛いだけです。それよりも図を正しく活用して、もっと前向きな議論を生むようにするべきです(図3-3)