SFA/CRMの導入で営業力は底上げされたが
アステリアは、XML技術をコアに1998年に創立。主力製品としてデータ連携ソフト「ASTERIA Warp」、モバイルコンテンツ管理システム「Handbook」といった国内トップシェアツールを提供し、「データ活用」に軸足を置いてビジネスを展開するソフトウェア企業である。松浦氏は、マーケティングチームに属してSales Techやモバイル、アプリの活用を中心にエバンジェリスト活動に従事。SalesZine Day 2020 Winterにおいて同氏は、「Sales Tech」と「ワークログ」によって実現するテクノロジーによる営業改革というコンセプトを提示した。ワークログという言葉を使って説明するのは「今回が初めて」(松浦氏)とのこと。
冒頭で松浦氏は、ITRが2019年に実施した調査(図1)を引用してSales Techの現状を説明。ここでいうSales Techは営業支援ツールであり、主にSFAとCRMを指すが、それらのツールを導入して効果があったかという問いに対し、「営業が強化され、営業課題の多くが解決できた」と14%が回答、「課題は残っているが強化された」が50%で、導入した企業は約65%が営業を強化できたと実感していることがわかる。
3分の2が「効果あり」と回答しているが、その内訳をみるとはっきりとした傾向がみられる。同じくITRが2018年に実施した調査(図2)から、期待値と効果の差によるデータを見ると、「案件管理・顧客管理の見える化/効率化」と「営業現場・商談現場での顧客対応の見える化/効率化」には期待度が高く、効果もあった。つまり、SFAやCRMは案件や商談情報の見える化には非常に効果があったわけである。
ただしすべてが期待通りに運んだというわけではなく、「提案力の強化」と「営業スキルの標準化」は期待外れという回答結果が出ている。つまり、「CRMやSFAを導入しても、なかなか営業スキルの向上という部分には効果が見られないことを示している」と松浦氏は指摘する。
では、営業スキルを標準化するにあたっての課題とは何か。先述の調査(図3)では、営業担当者間のスキルの差とは何かという質問に対し、「商談現場でのコミュニケーション/交渉スキル」「顧客ニーズの把握能力」「提案・プレゼン能力」がトップ3に挙げられている。これを踏まえて松浦氏は、「知識面よりは、現場で身につけるものである『商談スキルの差』が課題として認識されている」と現場での課題感を分析する。
商談スキルの差が生まれてしまう最たる理由として、旧来型の営業で重視された「努力・根性論」がいまだに横行していることを挙げる。いわゆる「俺たちが若かったころは云々」という上司の下で働く営業担当者は、知識不足を勉強会で補い、新製品の商談に向けては自らシナリオを考え徹夜で資料を作らねばならないなど、半ば意図的なかたちで苦労を強いられる。そしてチームの売上が足りない場合、「1件でも多く回れ」という指示が出て足で稼ぐ営業が展開されがちである。
こういった現状に対し松浦氏は、「努力根性が要らないとは言わないが、それに加えてSales Techで営業プロセスを変革すべき」と提案する。苦労の部分はすでに市場で効果が実証されているSales Techツールに任せ、もっと違う方向に努力の矛先を向けさせるべきというわけである。
これからのSales Techは営業活動領域に注目
Sales Tech活用の現状、さらに営業現場の意識改革というふたつの問題を踏まえて、これから意識すべきSales Techとは何か。松浦氏は、EYアドバイザリー・アンド・コンサルティングの定義を引用し、Sales Techの活用モデルにはふたつの要素があると説明する。ひとつは「営業管理」、つまりSFA・CRMなどの「Current Sales Tech」。もうひとつは、現場で展開されている「営業活動」を示す「Future Sales Tech」であり、「これからのSales Techは、後者に着目する必要がある」という。
Sales Techの活用モデルを業務に分解すると、計画を起点にして「営業活動」が開始され、準備をして、顧客を訪問し、商談を行い、その結果を記録・報告するという流れで展開される。そこから先は「営業管理」の領域になり、情報の蓄積、分析、共有というサイクルで、全体を育成や学習活動で支えているというかたちになっている(図4)。
今回のキーワードである「ワークログ」は、この営業活動の流れの中で、テクノロジーによって自動的に取得される客観的なデータである。松浦氏によると、「ワークログには『コンテンツの管理解析』『トレーニングの管理解析』『コミュニケーションの管理解析』という3つの構成要素があり、①コンテンツの利用状況、②トレーニングの進捗、③コミュニケーションの実態、という3つのステップで取得する必要がある」とする(図5)。
起点となるのが資料・情報といったコンテンツである。コンテンツの利用状況を取得して分析していくと、そのコンテンツが最適化されていく。その後、営業担当者が最適なコンテンツを使って学習をし、得たスキルとコンテンツを活かして効率的な商談を行うという流れで、最適な営業方法をそれぞれが把握できるようになる。
コミュニケーションの観点では、「何を伝えるか」「どう伝えるか」というふたつのポイントがあるが、ここで重視するのは前者である。どんな製品、どんなサービス、どんなポイントがあり、どんなストーリーなのか。つまり、「コンテンツを標準化して高度化する作業は、営業活動そのものを標準化・高度化することにつながっていく」(松浦氏)ということになる。
ちなみにコンテンツとは、日々営業活動で使っているカタログや提案資料、紹介動画、導入事例、パンフレットなどのいわゆる販促資料である。この販促資料が営業ストーリーの核になり、営業担当者の武器になる。そこで販促資料をSales Techツールを使って全員に配信し、活用できる環境を整えることが必要になってくる。
ワークログを活用するための「Handbook」とは
ただしコンテンツは、作って共有フォルダに上げるだけではいけない。「使ってください」とアナウンスしただけでは営業担当者ごとにコンテンツの理解も活用度合いも異なり、結果としてよりスキルのばらつきや属人化が進んでしまう。それを防ぐため、「Sales Techツールを使って、販促支援担当者が売れるコンテンツに仕立て上げ、磨かれたコンテンツとして誰でも利用しやすい形で配信していく。すると、営業担当者にまんべんなく必要な知識が行き渡るので、ノウハウが広がって均質で効果的な提案が可能になる」と松浦氏は解説する。当然、チームの営業力もアップしていく。
ただ前提として、作ったコンテンツは営業成果につながる資料であるかを販促支援担当者や管理者が把握していなければならない。その武器は本当に威力があるのか、使いやすいのかという話である。成果につながる資料を作るためには、まず現状を把握する必要がある。何が成果につながっていて、できる営業担当者たちはどんな営業の仕方をしているのか。これらをまずデータ、つまりワークログとして取得していく必要がある。それを踏まえて、もっと売るためには何を伝えれば良いか、営業にはどんな資料が必要なのかといった具合にワークログから利用状況を把握し、コンテンツ改善のPDCAを回してアップデートしていくことが肝要となる。
この仕組みを回していくためには、「まず管理側の目線としては、コンテンツの一括管理と自動的にワークログを取得することが重要。現場の視点では、現場の誰もが容易にコンテンツを使える環境を整備する必要がある」と松浦氏は説明する。そしてこれらの条件を満たすには、クラウド型のSales Techツールの活用が適しており、コンテンツの活用度を表すワークログを取得でき、コンテンツを一括管理して利用状況を可視化する機能を備えている最適なツールがHandbookであるという。
Handbookは、コンテンツの配信から活用、分析までを実現するための4つの機能を備える。所有するコンテンツをクラウドに登録し、配信する「作成」。現場で営業担当者がモバイル端末で顧客に資料を用いて提案する「活用」。営業担当者からのフィードバックを収集する「反応」。いつ誰がどんなコンテンツを使ったのか、日々の現場の営業活動の様子を自動的に記録する「分析」。そしてこれら4つの機能で取得・活用しているのが、まさしくワークログというわけである。
顧客向け・社内教育コンテンツの動画活用も
最後に松浦氏は、今回説明したSales Techの活用イメージとして3社の導入事例を紹介。食品加工調理器を開発・販売しているアサヒ装設では、営業担当者はタブレットを所持し、70種類の「ブック」とよばれるコンテンツのセットを管理している。ただし顧客に見せるだけでなく、営業から管理者に要望を伝えるためのアンケート項目があり、現場の声をフィードバックするコンテンツ改善のサイクルができているという。コンテンツは管理者がクラウド上に登録。その際に管理者が営業担当者のワークログを取得し、利用状況や要望に基づきコンテンツを改善、営業現場にフィードバックしてまた運用するというサイクルを回している。
神奈川トヨタ自動車では、ショールーム来店者向けの動画コンテンツ配信ツールとしてHandbookを使用。メンテナンスなどで発生するオーナーの待ち時間にタブレットを渡して、体験動画や機能説明動画を見てもらう。来店者にたくさん動画を見てもらった店舗では興味を喚起し、導入前に比べて販売成績が伸びていて、動画をあまり見せていない店舗は成績が横ばいまたは下落傾向という相関がみられているという。
サン・クロレラジャパンは、いつ誰がどんなコンテンツを見たかというワークログを営業成績と掛け合わせて分析。成績が上位のグループは、7割が製品の製造工程を説明する動画コンテンツを見せていて、安全性を顧客にアピールでき商品も安心して買ってもらえていることが判明した。成績が下位のグループは製品カタログのデータ閲覧回数が多く、客先でいきなり製品説明を始めていることがわかったという。同社では、成績が良いグループの手法を組織全体に展開、商談成績ならびに営業スキル向上につながっているとのことである。