活用されていなかった9割のリードにMAでアプロ―チ!
受注額8倍の製品も
――マーケティング推進本部が新設された理由と、おふたりが担う役割について教えてください。
飯島 当社はNECの100%子会社で、従来はNECが受注した案件のシステム開発を中心に手がけていました。昨今の市場環境や経営環境の変化に伴い、会社として外販をさらに強化するという決断を下しています。その結果、営業部門の強化とマーケティング部門の新設という組織改革が行われ、2018年4月にマーケティング推進本部ができたのです。私の役割は、シンプルに言うとプロモーショングループの統括です。
小川はIMC(統合型マーケティングコミュニケーション)を担当するふたつのチームのうちのひとつのリーダーであり、かつTableauに習熟しているため、マーケティングデータを可視化するという特別ミッションも担っています。
――マーケティングと営業はどのように連携しているのでしょうか。
飯島 現在、当社では、マーケティングがリード獲得とナーチャリング(お客様への適切な情報提供と情報収集・分析)を行い、興味関心度や検討度合いが高まっているお客様のリストを営業に渡す、という分業体制が確立しています。
具体的には、まず営業が今期の売上目標をつくります。目標と見通しにどれだけギャップがあるかを確認し、そのギャップを埋めるためにはどれぐらいの案件数・案件額が必要になるかをマーケティング担当と営業担当で議論します。 STP(Segmentation/Targeting/ Positioning)の分析から始まり、さらに顧客像を具現化するために半日ワークショップでペルソナとカスタマージャーニーマップの整理を行い、その結果を基に「マーケティングフレームワーク」と呼ぶ活動計画に落とします。
今はこの進め方が定着していますが、それ以前は、各事業部の中で販売促進の仕事をそれぞれに行っていたため、情報が集約されていませんでしたし、やり方も決して効率の良いものではありませんでした。
――マーケティング組織ができる前の課題はどのようなものでしたか。
飯島 当時の課題は、年間1万件規模のリードを獲得していながらも、一部にしか対応できていないことでした。たとえば、展示会でリードがとれたとしても、すぐに営業がフォローできるのは多くて10%程度。残りの90%は、すぐには購入しないなど、条件が揃わないものなので、営業としては追いかける理由がないわけです。
――9割のリードが活用されていなかったのですね。その問題を解決するためにMA(マーケティングオートメーション)を導入したのですか。
飯島 そのとおりです。MAツールのSalesforce Pardotを導入し、すべてのコンタクト情報を入力。まずはお客様の課題や関心に該当する製品のセミナー情報をメールでご案内する試みを始めました。Pardotを選択した理由は、Salesforce Sales Cloudを営業部門が使っていたからです。営業とのデータ連携についてはその時点で考えていました。MAを導入した結果、対応できていなかった9割についても効率的にフォローできる仕組みができ、短期的にはとても効果がありました。ある製品の場合、新規受注額が8倍にもなったのです。
小川 MA導入前のメールコミュニケーションを担当していたのが私です。Excel で管理しているリストを使い、すべてを手作業でやらなくてはならず、腱鞘炎になりそうでした(笑)。Pardotの導入後は、送付できるメール量は30倍となり、送付工数は100分の1に圧縮できました。
スモールサクセスの積み重ねで得た営業からの信頼
――マーケティングと営業との連携の必要性を感じたきっかけはありますか?
飯島 MAで成果が出たのは良かったのですが、その勢いがあるときピタッと止まったのです。理由は明確で、マーケティングのプロセスと営業のプロセスが分断されていたからです。Pardotもメール配信の機能しか使っていませんでした。そこで、組織的にもシステム的にも連携を実現し、双方が合意したシナリオを運用しながら、リードスコアリング機能をきちんと使おうと考えましたが、その時点でPardotを使いこなせるメンバーはふたりだけでした。
――それでは少なすぎたのですね。
飯島 当社では常時20以上のキャンペーンを展開していますが、ナーチャリングシナリオはそれぞれ違います。20通り以上のシナリオの開発・運用をふたりではできません。底上げのために、マーケティングに所属する私の部下全員にSalesforceの有料トレーニングを受講してもらいました。さらに、Pardotのユーザー会にも積極的に参加してもらい、優れた使い方をチーム内で共有して、実際にトライしてみる取り組みを進めました。
―― まずはマーケティング側でPardotを使いこなせる人材を増やしたのですね。営業との連携では「信頼してもらう」というスタンスをとったとのことですが、理由をお聞かせください。
飯島 営業とマーケティングとの間には、得てして大きな壁が存在します。我々にも多かれ少なかれそういう部分は存在します。マーケティングと営業の連携を働きかけたところ、「その必要はない」と言われてしまいました。単なる拒絶と言うわけではなく、営業には営業側で行っている取り組みや慣習があったわけです。そこでアプローチを変え、スモールサクセスを繰り返すことで、営業から認めてもらおうと考えたのです。
最初のプロジェクトは、ある営業担当者の「展示会で獲得するリードのフォローをなんとかしたい」という悩み相談がきっかけになりました。そのチームの部長に「すべての名刺の展示会場での電子化」「一両日中のお礼メール送信」「メールを開封した人に、インサイドセールスから電話」をすべて私たちマーケティング側で行うと提案したところ、快諾してもらいました。結果は、今までの取り組み方ではフォローできていなかったようなところから、累計約1億円の案件を獲得。しかも展示会終了後90日以内にです。
その後は営業の予算会議や朝会に出向いて成果を報告し、「おかげさまでこんな成果が出ました。興味がある方は声をかけてください」と呼びかけ、社内での成功体験を増やしていきました。
Tableauでつくったダッシュボードの活用へ
――取り組みを進めた結果、得られた成果について聞かせてください。
飯島 どれだけ案件化できたかについては件数と金額、そしてマーケティングパフォーマンスの評価指標としてPPC(Pipeline Per Cost: 販促費100 万円あたりの案件化件数)、CPP(Cost Per Prospect:1案件化に要した販促費) 、CPA (Cost Per Acquisition:リード1件あたりの獲得に要した販促費)という3つのKPIで成果を評価しています。
案件化件数は対2018 年上期比で2018年下期が1.4倍、2019年上期(2019年8月時点)1.6 倍、案件化金額はそれぞれ1.7倍、2.1倍となりました。3つのKPIについても同様にPPCが1.6倍と2.5倍。
CPP が20%削減、48%削減。CPAが19%削減、67%削減を達成しています。期待以上の成果を出しつつ、販促費を劇的に削減することにも成功し続けています。
プロセスを標準化し、さらにそれをインテリジェンス化するために、さまざまなデジタルマーケティングツールの導入を積極的に行っています。Pardotのほかにも、セルフBIの「Tableau」、名刺管理の「Sansan」、インサイドセールス業務支援の「inside Sales Navigator」を使っていますし、最近ではABM (Account-Based Marketing) のために「FORCAS」も使い始めました。
――ツールを積極的に使う文化が醸成されたのですね。Tableauを使うようになった経緯について教えてください。
小川 マーケティング推進本部の活動が本格化するなか、大量のデータを使う場面が増えてきました。Pardotを導入したことでデータが加速度的に増えたこともあり、2018年10月から本格的に業務でTableauの活用を始めました。
飯島 当社は基幹系のデータ分析のために、もっと前からTableauを全社導入しており、データドリブン経営の素地はできていたと思います。ですが、小川がマーケティングダッシュボードを開発するまでは、私の意思決定に必要なインサイトを得るまでに数日かかることもありました。
小川 データの整理に時間がかかっていたのは、案件化の数値と3つのKPI データをキャンペーン個別に集計し、レポートを作成していたからです。やり方を変え、Excelの入力フォーマットを一箇所に置き、そこにデータを一元的に集約し、Tableauで可視化するダッシュボードをつくりました。今はブラウザーベースで関係者全員と共有しているので、見たいものがいつでも見られる状態です。私としては「あの数字って今どうなっている?」と聞かれることがなくなりました(笑)。
飯島 毎朝出社したら、このダッシュボードをまず開き、KPIが順調に推移しているかなどを10分ぐらいかけて確認しています。
――Tableauでダッシュボードを使うことで得た成果はどんなものですか。
小川 毎月の案件化の指標とKPI トレンドを一元的に見られるようになった結果、追加施策の必要性を感じた場合でも建設的な提案・上申がタイムリーにできるようになったと思います。以前はデータ集計に1 時間程度を必要としていましたが、今では5~10分ほどで済みます。
飯島 私が見たいと思うデータは、数クリックで得られます。たとえば、ある商材のリード獲得数がほかの商材と比べて少なければ、「カスタマージャーニーを整理しましょう」と、リードの件数は獲得できているのにクロージングができていなければ、「インサイドセールスにアプローチさせましょう」という提案ができます。本来の仕事である計画したプロモーションが順調に進んでいるかどうかの検証と、営業への提案に時間が割けるようになりました。
Salesforceのデータを分析し営業へより良い提案を
――今後、チャレンジしたいことはどんなことですか。
飯島 現在、Tableauを使ってSalesforce内のリードデータを分析してみることにチャレンジしています。たとえば、リードを売上高や従業員数の規模や業種に分けて分析すると、案件の傾向が明らかになるとわかってきました。
小川 仮に金融業界が有望だとわかれば、「金融のお客様向けのウェブコンテンツを追加したい。加えて、金融業界に特化したセミナーを3ヵ月後に行いたい。そのために必要な予算は100万円。ダッシュボードの実績によれば、100万円投資することで9,000万円の案件が創出できて、そのうち半分が受注につながり、利益率は2 割なので900万円の利益がでます」という会話ができるわけです。
飯島 そこまでわかれば、私は容易に意思決定ができますし、営業に対してより良い提案ができるようになります。FORCASを導入したのは、商材ごとの既存顧客の属性を分析し、ABMでアプローチするべきターゲット企業を提案してくれるからです。まだ見ぬお客様のリストを渡すことができるようになれば、営業とさらに良い関係が築けると期待しています。
――最後にこれから営業とマーケティングの連携にチャレンジしたいと思っている人たちに向けたアドバイスをお願いします。
飯島 私の持論は「マーケティングとはインテリジェンスが10%、残りの90%は血と汗と涙(笑)」というものです。マーケティングと営業が歩み寄るには、マーケティングも営業と同じゴールを共有することが必要だと思います。ですから、私たちは受注にまで責任を持つようにしています。
小川 同じ意見です。リードを渡したあとのコミュニケーションが非常に重要です。マーケティングがリードを渡して終わりにするのではダメで、営業からのフィードバックでお互いの活動を改善するべきです。仲間として認めてもらい、お互いの足りないところをコミュニケーションで補完できれば、成果が出ると思います。コミュニケーションにはSalesforceのChatterも使っていますが、互いのフィードバックにおいては無駄なコミュニケーションとならないようにダッシュボード上の正確なデータを見ながら会話をすることが有用だと思います。
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