インサイドセールスとは?
インサイドセールスとは、電話やメール、チャット、オンライン商談ツールなどを活用して非対面で営業活動を進める、「内勤営業」と言われる営業手法です。
営業プロセスを細分化し、以下のように分業化することが一般的です。
- マーケティング:集客、見込み顧客(リード)の獲得
- インサイドセールス:見込み顧客の育成・選別、商談創出
- フィールドセールス:商談実施、受注・クロージング
- カスタマーサクセス:受注後のアフターフォロー
具体的には、マーケティングが獲得した見込み顧客をインサイドセールスが引き継ぎ、それぞれの検討度合いに合わせたアプローチをして関係性を構築しながら見込み度を高めていきます。そうして見込み度が高まった見込み顧客を選別し、アポイントを打診して商談を創出し、フィールドセールスへと引き継ぎます。
インサイドセールスが質の高い商談を創出できれば、フィールドセールスは見込み度の高い商談に集中できるため、受注率の向上が期待できます。
また、今までは一人の営業担当者が初回アプローチから受注までの一連の営業プロセスを担っていましたが、インサイドセールスとフィールドセールスで分業することで担当者の負荷軽減にもつながり、モチベーションやパフォーマンスの向上も見込めるでしょう。
ただし、企業によってはインサイドセールスが商談や受注まで担当する場合もあるなど、さまざまな活用方法が見られます。
このように、インサイドセールスは他部門と連携し合いながら営業の成果を高めていく役割を担っています。
インサイドセールスで起きやすい課題
インサイドセールスの導入により営業の成果向上が期待できる反面、日本での導入率は約1割という調査結果もあるように発展途上の段階でもあります。そのため、部門間での連携や社内での理解度、人材育成などの点で課題があることも珍しくありません。
具体的にはどのような課題があるのか、詳しく見ていきましょう。
部門間の連携がしにくい
インサイドセールスでよくある課題として、部門間の連携が挙げられます。
インサイドセールスはマーケティングから見込み顧客を引き継いでフィールドセールスへと引き渡す、いわば「橋渡し」のような役割を担っているため、他部門との連携は必須です。しかし、見込み顧客を引き継ぐフローや役割分担が明確になっていないためにトラブルが生じることも珍しくありません。
具体的には、マーケティングからの見込み顧客の情報が不十分で最適なアプローチができなかったり、まだ見込み度が高まっていない見込み顧客をフィールドセールスに引き継いでしまったりする事例が見受けられます。
こうしたことが積み重なると、「マーケティングが協力してくれない」「インサイドセールスから引き継ぐ見込み顧客の質が低い」などの不満が生まれ、お互いにストレスになってしまうでしょう。
このように、部門間の連携トラブルによって混乱や衝突が起きてしまうと、成果を出せないため低迷を招きます。
情報共有が不十分でミスが生まれやすい
インサイドセールスで課題になる情報共有については、インサイドセールスチーム内と、部門間の2つの側面から見ていく必要があるでしょう。
チーム内の情報共有で見てみると、いつ・誰が・どの顧客へアプローチしたのかという履歴が共有できていないために、同じ見込み顧客に重複してアプローチしてしまったり、「他のメンバーが対応してくれるだろう」と思い込んで対応が漏れたりするなどのミスが生じます。
部門間の場合、マーケティングからの情報共有が滞ってしまい、インサイドセールスの初回アプローチが遅れてしまうことがあります。また、どのようなWebページや資料を閲覧したのかというデータが共有されないと、的外れなアプローチになってしまい見込み顧客の購買意欲を高められません。
このように、インサイドセールスは情報共有が原因でミスが発生する事案が起こりがちです。
見込み顧客の課題や温度感の見極めが難しい
インサイドセールスは見込み顧客と関係性を構築して見込み度を高めていく役割のため、見込み顧客ごとに適したアプローチをしていくことが重要です。そのため、見込み顧客の課題や温度感に応じて提供する情報や提案内容を変えなければ、見込み顧客の購買意欲は高まりません。
課題や温度感を見極めるには、見込み顧客がWebサイト上で閲覧したページやダウンロードした資料を分析したり、電話やメールでヒアリングしたりする方法があります。しかし、こうした業務が営業プロセスに組み込まれていないと見込み顧客の課題や温度感を把握できないため、見込み顧客が求めている情報や提案とはかけ離れた的外れのアプローチになります。
アポイントの質が向上しない
インサイドセールスは、質の高いアポイントを創出してフィールドセールスへ引き継ぐことが大きな役割です。「質の高いアポイント」とは、見込み度が高く受注につながりやすいアポイントのことを指します。
そのため、インサイドセールスはアポイント獲得数だけでなく、引き継いだ後の受注数や受注率なども重視する必要があります。また、フィールドセールスと連携して質の高いアポイントを創出するためにはどのようなアプローチが必要か、常に考えて取り組まなければなりません。
しかし、このようなインサイドセールスの本質を理解しないまま導入を進めてしまうと、アポイント獲得数ばかり重視するようになります。その結果、架電リストに沿って電話をかけてアポイントを取るだけの、単純なテレアポ(テレフォンアポイント)業務のようになってしまうでしょう。フィールドセールスが商談をしても見込み顧客の温度感が低いためその後に発展せず、成果が向上しません。
モチベーションを維持しにくい
インサイドセールス担当者のモチベーション維持に課題を抱えている企業も見受けられます。
インサイドセールスは、一般的には良質な商談を創出する役割のため、受注を担当するフィールドセールスとは違って直接的に売上を作る仕事ではありません。自身の頑張りがどれだけ自社に貢献できているのか、数値で評価することが難しいため、モチベーションが維持しにくくなります。
また、インサイドセールスは検討度合いの低い見込み顧客にもアプローチしなければならず、電話やメールを無視されたり、厳しい言葉で断られたりすることもあるでしょう。非対面で営業活動を進めるため、見込み顧客との関係性を構築しにくいことも、モチベーション低下を引き起こす要因となります。
モチベーションの低下は、パフォーマンスの低下や離職を招くこともある、大きな課題です。
社内の理解が不足している
営業に詳しくない人はインサイドセールスの役割や業務内容がわからないという人も多く、社内で理解されにくいようです。
マーケティングやフィールドセールスといったインサイドセールスと関連する部門だけでなく、見込み顧客からの商品・サービスのフィードバックを開発部門に伝えたり、業務で利用するツールの予算を経理部門に申請したりするなど、社内のあらゆる部門と関わる機会があります。しかし社内の理解が不足していると、協力体制を築けません。
ツールを活用できていない
インサイドセールスの業務を円滑に進めるためには、各種ツールの活用が必須です。しかし、ツールを導入しても「使い方が難しい」「業務フローに適していない」などの理由からツール運用が定着しないというケースも見られます。
ツールが活用できていないと、業務が円滑に進まなかったりデータ分析ができなかったりするため成果につながらないだけでなく、毎月膨大なコストばかりかかってしまい他部門からの反感を買う引き金になりかねません。
人材の採用・育成が難しい
新しくインサイドセールスを立ち上げる際、どのような人材が適しているのかわからないという課題を抱える企業もあります。
新たに採用するとしても、インサイドセールスにはどのような経歴やスキルが必要なのかわからないと、適した人材を見極められません。
人材育成の際にも、どのようなスキルを学ばせたら良いのかわからず、適切な育成ができないために担当者のスキルアップが進まないという事態にも陥ります。
担当者による成果のバラつきが激しい
インサイドセールスの担当者ごとに、成果に差が生じているという企業も見受けられます。
インサイドセールスに関するナレッジがチーム内で共有できていなかったり、業務内容やプロセスが不明確だったりするために、担当者の経験やスキルなどによって成果に差が生じてしまうのです。
インサイドセールスは、誰が行っても同じような成果が出るような仕組みにしなければ、組織として安定した成果につながりません。そのため、担当者ごとに成果が偏っている場合は、早急に改善する必要があるでしょう。
PDCAの回し方がわからない
インサイドセールスで成果を高めていくためには、PDCAが重要です。「今のアプローチ方法で問題ないのか」「さらに良くするためにはどうすべきか」といったことを判断し、さらなるブラッシュアップをしていくためにはデータ分析が必要となります。
しかし、KPIを設定していなかったり、データの見方や分析方法がわからなかったりするために、PDCAを回せず同じ業務を繰り返しているだけになってしまうのです。
インサイドセールスの課題を解決するポイント
インサイドセールス特有の課題が起こりやすいため、事前に対策を講じておくことが重要です。ここでは、課題解決の糸口となるポイントを紹介していきます。
適切なツールを導入し活用を促進する
インサイドセールス業務に適したツールを導入することで、さまざまな課題が解決できます。ツール内で情報を一元管理できればチーム内での情報共有もはかどり、重複アプローチや対応漏れなどのミスが削減します。
また、見込み顧客のWebアクセス履歴やヒアリング履歴などを分析できるようになり、見込み顧客が求めているものがわかるでしょう。
ツール活用を促進するためには、まずは「現場で使いやすいか」「自社の業務フローにマッチしているか」などの視点で選定し、導入前にインサイドセールス担当者にトライアルで試してもらうことも重要です。導入後は担当者に使い方や活用方法をレクチャーし、担当者ごとのログイン率や入力率などの利用状況を分析して、一人ひとりに教育していくと良いでしょう。
役割分担と業務内容を明確にする
インサイドセールスと他部門との役割分担を明確にし、インサイドセールスがどこまでの業務範囲を担うか明らかにしましょう。役割分担が明確になったら「マーケティングからはどのような見込み顧客を引き継ぐか」「フィールドセールスに引き継ぐためには、どのくらいの温度感まで育成するか」なども明らかにしておきます。
ただし、一般的にはインサイドセールスはマーケティングとフィールドセールスの橋渡しとなる存在ですが、企業によっては「マーケティングがある程度まで見込み顧客を育成してからインサイドセールスへ引き継ぐ」「インサイドセールスが受注まで担当する」といった役割分担が適している場合もあります。そのため、自社に最適化した役割分担を定めましょう。
部門間で連携できる体制を構築する
部門間の連携をスムーズにするためには、まずはツール同士を連携するという方法があります。ツールを連携するとデータが自動で同期されるため、情報共有が促進されます。
また、定期的に部門間でミーティングを実施することも効果的です。見込み顧客や商談の質をフィードバックし合える仕組みを作ることで、違った視点から改善点を見つけることができるため、さらに成果を高め合っていけるでしょう。
ナレッジを共有する
ナレッジを共有することで、スキルや経験に左右されることなく成果を出せるようになります。マニュアルやテンプレートの作成のほか、受注につながったセールストークや、顧客から反応の良かった営業資料などの情報をツール内に蓄積することも有効です。
また、新人が入った際にも、マニュアルやツールを確認することで先輩のナレッジを吸収できるため教育しやすくなり、早期の独り立ちが期待できます。
KPIを設定する
適切なKPIの設定は、PDCAやモチベーションなどの課題解決につながります。
インサイドセールスの業務に深く関わる、架電数・率やメール開封率、アポイント獲得数・率などのKPIを設定し、業務の成果を数値で可視化できるようにしましょう。また、インサイドセールスが創出した商談の質が高ければ受注率や受注金額にも反映されるため、インサイドセールスの業務範囲外ではありますが、受注に関する指標もKPIとして設定すると良いでしょう。
定期的にKPIを振り返ることで、インサイドセールス施策の効果を測定でき、PDCAを回しやすくなります。また、自身の成果が可視化されるため、担当者のモチベーションアップも期待できます。
インサイドセールスの課題を解決した事例
本章では、インサイドセールスの課題を解決した企業の事例を紹介します。
株式会社ギブリー
企業のIT人材の育成やデジタルマーケティングを支援する株式会社ギブリーは、インサイドセールスを立ち上げたものの、相手の様子が見えないため温度感を把握できないという、非対面での営業活動特有の課題を抱えていました。
そこで、まずはチーム内でインサイドセールスの価値について話し合い、「売ろう」という意識から「顧客の課題解決に役立つ」という意識へと変えました。その結果、やみくもに電話をかける営業スタイルから、じっくりと作戦を練ってアポイントを獲得する営業スタイルへと変革したそうです。KPIに関しても1日の架電数ではなく、フィールドセールスへと引き継ぐ件数と有効な商談になる手応えのある件数にしたことで、コンスタントな成果を出しています。
また、フィールドセールスからはSlackや個別ミーティングなどでアポイントの質をフィードバックしてもらい、改善につなげています。
株式会社マネーフォワード
経費精算システム「マネーフォワード クラウド経費」などを担当する株式会社マネーフォワードのインサイドセールスチームは、1日200件も架電するためモチベーションの維持がしにくい点や、20分以上かけて行ったヒアリングの内容をシステムに転記する業務効率の悪さに課題を抱えていました。
そこで焦点を当てたのが、ツール活用です。
マーケティングと連携してCRMとMAを活用し、見込み顧客のWeb上の行動を基にしたアプローチを始めました。結果として、インサイドセールスの工数が約10分の1に減り、商談の創出数が20倍に増えてモチベーションアップにつながりました。
また、見込み顧客へのヒアリングをアンケートに切り替えたことで、20分以上のヒアリング時間が削減でき、転記の必要もなくなったため業務効率化を実現しています。
株式会社ハウスプラザ
不動産売買を中心に展開する株式会社ハウスプラザでは、インサイドセールスの業務内容が確立できずにテレアポ部隊のようになってしまっていました。
今までは電話によるアプローチがメインでしたが、MAを活用したメールでのアプローチにも注力するようになり、今までよりも多くの見込み顧客に対して効率的にアプローチできるようになりました。また、効果的なセールストークをチーム内で共有したり、分岐型のコールスクリプトを作成したりするなど、ナレッジを共有しながらスキルアップをして成果を高めています。
まとめ
本記事では、インサイドセールスで起こりやすい課題と解決策、そして企業事例を紹介してきました。インサイドセールスはうまく活用できれば非常に効果的な営業手法ですが、特有の課題も起こりやすいため、事前に対策を講じておくことで成功へと導くことができます。
ぜひ本記事の内容を参考に、インサイドセールスの課題を解決して成果を出しましょう。