すべては「マジ価値」を届けるために
失敗を経てたどり着いた営業育成の在り方
──まず、川西さんの現在のお役割からうかがえますでしょうか。
現在のポジションはChief Business Officer(CBO)で、セールスチーム、マーケティングチーム、カスタマーサクセスチーム全体の統括を担っています。一般にはChief Revenue Officer(CRO)と呼ばれる役割に近いものですが、freeeではCBOという独自の呼称を用いています。
──御社のミッションと、営業組織の注力領域をお聞かせください。
freeeはとくにSMBのお客様に焦点を当て、経営をかんたんに、直感的に、そして自由に行えるプロダクトや体験を提供しています。SMBの企業は母数が非常に多いため、より多くのお客様に価値を届けることがミッションとなります。我々は「マジ価値」と呼び、“お客様にとっての本質的な価値を届けきる”というカルチャーを大事にしています。
お客様にプロダクトの価値を届けるのは営業の重要な役割ですから、営業組織の拡大・強化が重要課題となっています。その中でもとくに「新入社員のオンボーディング」に焦点を当て、新入社員が早く一人前になり、成果を挙げられる仕組みづくりを進めています。
新入社員の育成期間が長引くほど直接業績に影響するため、効率的かつ効果的なオンボーディングプロセスを構築することは不可欠です。このオンボーディングプロセスを構築するため、セールス・イネーブルメントに注力しています。
──具体的にどのような取り組みなのでしょうか。
イネーブルメントチーム(セールス・イネーブルメントを担当するチーム)を設け、このチームが営業の育成を横断的にサポートしています。意識している点は、イネーブルメントチームとジャーマネ(※)で育成の役割をしっかり分け、“重層的な育成”を行うことです。
※ジャーマネ:マネージャーのこと。メンバーのパフォーマンスを引き出す芸能界のジャーマネのような役割であってほしいという意を込めた呼び名。
つまり、イネーブルメントチームは「製品知識やプロダクトの訴求方法などを体系化したナレッジを営業に提供する役割」を担う一方、ジャーマネは「メンバーのOJTを通じて実践的なスキルを身につけさせ、チームの数字をつくる役割」を担います。
両者の役割を明確に分けるメリットは、「ジャーマネひとりに責任が集約されない」ことです。我々も散々失敗を経てたどり着いた結論なのですが、ひとりに「数字責任」「育成責任」という異なる性質の責任を持たせるのは非常に難しいのです。
数字責任を持つジャーマネに育成責任も背負わせてしまうと、育成が二の次になりがちです。たとえばジャーマネが商談に同席した際、メンバーがやるべきクロージングを巻き取ってしまい「メンバーのスキルは上がらないまま見せかけの数字だけがついてくる」といったことはよくあります。それでは本質的な育成は進みません。
そこで「数字的には直接追っていないが、育成に責任を負っている」チームをつくり、ジャーマネとイネーブルメントチームそれぞれが各役割に集中できるようにしています。
freeeが今、AI活用に注力する理由とは?
「非商談時間の削減」への徹底的なこだわり
──非常に参考になるアドバイスですね。セールス・イネーブルメントの一環として、営業育成にAIを活用しているともうかがっておりますが、具体的にどのように活用されているのですか。
前提として、我々は社内のあらゆる業務においてAI活用を積極的に進めています。「マジ価値を届けきる」というカルチャーを実現するには「非商談時間を限りなくゼロに近づけ、お客様との会話時間をいかに増やせるか」が重要であり、そのためにはAIによる業務効率化・生産性向上がキーになります。たとえば提案書・議事録の作成、CRMへの情報入力、そして育成業務などの「非商談時間」は、できる限り減らす。これが我々の重要なミッションのひとつです。
そこで、営業育成においては、Zoomが提供するAI機能を搭載した会話型インテリジェンスソフトウエア「Zoom Revenue Accelerator」を導入しました。導入にあたって重視した条件は「freeeのビジョンやカルチャーの実現にどれだけ近づけられるか」という点でした。非商談時間の削減や営業育成の効率化という観点で言うと、プラットフォーム側には圧倒的かつ継続的な開発投資が求められます。高い技術力と強力な基盤を持ったZoomであればこれを実現できると信じて、導入を決めました。
──Zoom Revenue Acceleratorの活用方法や導入後の効果について教えてください。
現在、営業チームや顧客サポートチームで数百名規模、データ分析担当で数十名規模のスタッフが利用しています。
導入後の効果は大きく3つあります。まずひとつめとして、文字起こしされたデータがSalesforceに自動連携されることで、非商談時間の圧縮につながっています。これは、商談後のメモ、議事録作成、アフターコールワーク全般、商談の引き継ぎやネクストアクション作成などの業務において、省力化を実現しています。
ふたつめは、営業の活動状況を可視化できるようになったことで、活動量や業績の中央値が改善してきていることです。「商談中の営業担当者の発話時間が長い」「インサイドセールスが午前中に電話をしていない」などの事実が数字で確認できるため、ファクトベースでフィードバックしやすい環境がつくれています。
3つめとして、文字起こし機能によって会話データを確認できるようになり、営業トークの構造や成果が出やすいトークの方法が視認化されたのも大きなポイントです。お客様がよく使うキーワードが抽出されるほか、ハイパフォーマーとそうでない人の言葉遣いの違いなども可視化され、新人の教育に役立っています。また、理由がわからず伸び悩んでいたメンバーに対しても、Zoom Revenue Acceleratorが起爆剤として機能してくれています。
「ひとつのプラットフォーム」が、スムーズな組織連携とコストダウンを実現
それから少し別の観点で、Zoomのコミュニケーションプラットフォームによって、ツールを統合化できたことも大きかったですね。
Zoomのプラットフォームを全社導入する以前は、さまざまなツールが社内に分散していました。電話システム、ビデオ会議システム、CRM、日程調整ツール、文字起こしツール……など、ボトムアップ的なアプローチで、個々人が使いやすいものを使っていたのです。
生産性を上げようとするのは良いことですが、組織の規模が大きくなるにつれて、分断や非効率の問題は顕著になり、結果として非商談業務の工数がかさむ状況に陥りました。さらにコストも割高になってしまっていました。
そこで、課題解決のために統合プラットフォームへの移行を決めて、Zoomを全社導入したわけです。導入によって、コストダウンはもちろん、これまでセールスチームで閉じていたデータをほかの部署にも横断的に連携できるようになり、組織全体のやりとりがスムーズになっています。また現場からも「ツールが統一化されたことで簡素化され使いやすくなった」という声が挙がっています。
最先端のセールスは“世の中を塗り替えるテクノロジー”
──Zoom Revenue Acceleratorを使って、今後チャレンジしたいことを教えてください。
「セールスの付加価値向上」に向けたチャレンジをしたいと考えています。具体的には、ミドルパフォーマーをハイパフォーマーに近づけることです。ハイパフォーマーの特徴として、「なぜ高い成果を挙げられたのか」が自分でも言語化できないことが多いです。これには空気感やジェスチャー、“間”などの非言語情報が含まれており、従来「アートの領域」とされてきました。
Zoom Revenue Acceleratorを活用すれば、これらの非言語情報もデータとして捉え、分析することが可能になります。今後はこの機能を駆使してハイパフォーマーの要素を形式知化し、ミドルパフォーマー層の付加価値向上につなげていきたいと考えています。
──今後、Zoomに期待していることはありますか。
Zoomの技術力の高さには「これがグローバルの本気か」と日々驚かされていますが、文字起こし精度のさらなる向上や、日本語ならではのローカルな課題への対応、よりディープな機能開発を実現していただけると嬉しいですね。
「AIってこんなにすごいんだ」「AIでこんなこともできるのか」という感動が営業の楽しさにもつながり、freeeでの活用をより強力に推し進められます。今後も引き続き、さらなる機能の拡充に期待しています。
──AIの活用、そしてZoom Revenue Acceleratorの導入をこれから検討する読者に対して、最後にメッセージをいただければと思います。
小さな問題を取り上げてAIを使わない理由を議論することはナンセンスだと思っています。セールスの現場においてAIを使わないという選択肢はないでしょう。
「最先端のセールスは、“世の中を塗り替えるテクノロジー”である」という、同社代表・佐々木の言葉があります。freeeが相対する数百万社のSMBのお客様に「マジ価値を届けきる」のはかんたんなことではありません。より多くのお客様に価値を届けるには、セールス自身もマーケティング活動の一端を担い、個々の顧客に対しベストなアプローチを行う意識を持たなければなりません。そして組織をさらにスケールさせるためには、個々の顧客対応で得られたさまざまなデータを再現性のあるかたちで横展開していくことも求められます。
営業担当者がこの意識を持って活動するか、アナログに自身の成果のみを追求するかで、将来性が大きく変わると確信しています。もちろん、営業には最終的には「アート」の領域は残るでしょうが、データ分析やAI活用によって形式知化された社内の知見を最大限に活用し、レベルアップしていくことは楽しいことです。そうしてスキルアップを重ねることで、営業は「世の中を塗り替える」技術を磨いていけるのだと思います。
現状を変えることはときに難しく、抵抗を受けることもありますが、変化を恐れずに取り組むことが新たな可能性を開く鍵となります。技術の進化は止まりません。営業が「楽しい」と感じることを見つけながら、あらゆる技術を駆使していくことが、これからの時代に求められる姿勢だと思います。
──「営業が楽しい」と思えるのは、素晴らしいことですね。
freeeのいちばんの特徴は、新しく入った人がすぐに活躍できる環境があるところです。セールス・イネーブルメントやAI活用により、最短で成果を出せるようなオンボーディングを提供しています。
「楽しく営業する」ことが成果にもつながり、仕事の充実感や達成感も生み出します。これが積み重なることで、freeeは成長し続けることができるのです。私たちは「楽しさ」と「成果」を追求しながら、お客様に本質的な価値を提供し続ける企業でありたいと考えています。
──本日はありがとうございました!