Salesforceエコシステムの拡大に寄与する3人の先駆者
──本日はSalesforceの活用やコミュニティ運営に深く関わってこられた3名にお集まりいただきました。まずは自己紹介からお願いします。
冨田(マッシュマトリックス) マッシュマトリックス 代表取締役の冨田です。当社は今年15周年を迎えました。ここまでやってこられたのも、コミュニティをはじめ、Salesforceを支える文化があってのこと。私自身、当社を立ち上げる前はSalesforceに在籍しており、Salesforceとそのコミュニティが共に成長していく姿を間近で見てエキサイティングだと感じていました。我々もSalesforceのエコシステムに貢献できることをやっていきたい。そのひとつとして、今回の鼎談を企画しました。
鈴木(NTTテクノクロス) NTTテクノクロスの鈴木です。当社は2004年から20年近くにわたって、SFAの用途を中心にSalesforceを利用してきました。活用には山あり谷ありですが、そのノウハウを含めて、エコシステムの一員としてAppExchangeでアプリケーションを販売し、コンサルサービスも提供しています。私はSalesforceのエバンジェリストとして約8年前から活動しており、コミュニティをはじめとするエコシステム拡大に注力しています。
南(レジル) レジル(旧社名:中央電力)の南です。営業が効率良く活動するためのサポートを、Salesforceなどのシステムを使って行っています。7年ほど前に前職でSalesforceを導入することになり、その運用担当になったのがきっかけでコミュニティにも参加するようになりました。2年半前に「Salesforceの活用推進の役割をやらないか」と声をかけてもらい、今の会社に入社しました。
──鈴木さんと南さんはそれぞれ、Salesforceを活用する優れたリーダーに贈られる「Salesforce MVP Hall of Fame(殿堂入り)」「'21 Salesforce MVP」を獲得されていますね。その経緯についてうかがえますか。
鈴木 SIerとしてSalesforceのノウハウを外販するビジネスに携わったのが、Salesforceとの出会いです。当時は日本語の技術情報も少なく、国内のコミュニティもない状況。ユーザー会が2011年ごろからようやく始まり、私もその運営に携わるようになりました。そういったSalesforceのエコシステムに貢献する点が認められて、MVPに選ばれたのかと思います。
南 私は前職で導入することになるまでシステム運用は未経験。社内に詳しい人もいなかったため、コミュニティの存在に助けられましたね。最初はもちろん学ぶ側でしたが、何年か参加して経験を積む中で、コミュニティの運営にも携わることになりました。そのあたりを評価していただいたのだと思います。
鈴木 南さんはEinstein Analytics(SalesforceのAI機能)が発表されたころにいち早くキャッチアップし、日本のアドミン(システム管理者)コミュニティの方々に対しノウハウを共有されていたのが印象的です。企業のシステム管理者は孤立しがちなんですよね。周囲の調整や、Salesforceの環境周りの作業もしなければならず、何から手をつけて良いかわからない。そこを手助けするのがSalesforceのコミュニティです。
DX推進のポイントは「ビジネスに対する解像度」と「コミュニケーション」
──各々の企業でのSalesforce活用において、苦労や失敗はありましたか。
鈴木 当社に限らずですが、Salesforceの活用でもっとも大事なことは周囲の理解を得ることです。営業メンバーからすると日報を1日1件登録するのも手間ですし、「従来どおりExcelで良いのでは?」という声が出てくる。そこでExcelライクな日報の一括登録画面を開発しました。現在はマッシュマトリックスさんの製品を使っていますが、当時はなかったためVisualforceで独自に開発しました。営業の要望を聞いて、デベロッパーコミュニティで共有されている情報を参考にしながら、改修を重ねました。そういった過程が、いちばん苦労したと思います。
冨田 どのようにして周囲の理解を得ていったのですか。
鈴木 最初から100点満点のシステムをつくるのではなく、フィードバックをもらう前提で開発していました。フィードバックをすぐに取り入れて実現して見せると、「Salesforceってこんなにすぐ改善できるんだ」と、メリットを感じてもらえる。そのうえで丁寧にコミュニケーションをとり「Salesforceは怖くないよ」と説明していくことが大事でしたね。
──南さんは、Salesforceの活用を進めるためにどのような工夫をされましたか。
南 前職では、既存のシステムをSalesforceに置き換えるという流れでした。すると、「前はあれができてたのに」という声が多く挙がりました。そこでなるべく「今までできなかったこんなことがSalesforceではできるようになる」点を訴求していました。たとえば、以前のシステムでは少しのカスタマイズでもベンダーに依頼が必要で、費用も時間もかかっていた。それがSalesforceであれば、項目の追加や自動処理といった作業を社内で直接行えます。私はエンジニアではないのでコードもまったく書けませんが、それでもできることがたくさんあります。
冨田 Salesforceの高いカスタマイズ性は、おそらく2000年代にソフトウェア製品を扱ったことがある方にとっては衝撃的だったと思います。
鈴木 私も初めてSalesforceの研修を受けたとき、今で言う「ノーコード・ローコード」的な操作でデータベースも画面もできあがるのを見て衝撃を受けました。「これは時代が変わるぞ」と思いましたね。
──カスタマイズすることで利便性が増すSalesforceに対して、マッシュマトリックスさんはどのようなアプローチをとってきたのでしょうか。
冨田 私自身がSalesforceに共感する大きな理由は、「システムを限られた人たちだけのものにせず、民主化していく」というDNAがあることです。そのビジョンに向けてSalesforce自体も改善していますが、お客様のより細かいニーズに応えるべき部分もあるはず。我々は確実にお客様に望まれている「Excel的なUI」を実現することで、そこをうまくサポートしようと考えました。これが「Mashmatrix Sheet」と呼ばれる製品のコンセプトです。
──開発する中で苦労したことはありますか。
冨田 アップデートのキャッチアップでしょうか。Salesforce自体もバージョンを重ねて変わっていきます。たとえばSalesforce ClassicからLightning ExperienceへUI自体がガラッと変わった際に、思い切って新しいインターフェースとしてMashmatrix Sheetをリリースしたんです。しかし、やはり何回もテクノロジーの変遷があるとついていくのは大変ですね。
鈴木 対応しないとサービスの存続が難しくなってしまうような大幅なアップデートも、年に何度かあります。ほかのアプリベンダーさんもLightning Experienceの切り替えには苦労していたはず。いち早く対応したマッシュマトリックスさんはすごいと思います。
──企業がSalesforceの運用定着やDXを進めるために、意識すべきポイントは何でしょうか。
南 ユーザー企業としては、社内にSalesforceを理解している人を置くべきだと思います。実際に作業する開発側や外部のベンダーと、ビジネス側をつないで通訳できる人が必要。200人規模の当社でも、システムアドミニストレータの資格を持ったメンバーが7名おり、部署ごとに推進者、Salesforceで言うTrailblazer(トレイルブレイザー:先駆者。企業のデジタルトランスフォーメーションを支え、革新に挑戦する人々)的な人が存在しています。
鈴木 そういったユーザー企業ばかりなら、SIerとしてもありがたいですね。ビジネス的な要件定義は、あくまでユーザーがやらなければいけないので。いまやシステム管理者は、情報システム部門でシステムのお守をする人ではありません。自社のビジネスに対する思いや“魂”のようなものがまず先にあり、「Salesforceを使ってどう自社のビジネスを成長させていこうか」と考えられる人が、Salesforceエコシステム界におけるシステム管理者なんです。ですから、テクニカルなスキルを持っているだけではなく、ビジネスを語ることができ、かつ社内のあらゆる関係部署の方々とのコミュニケーションのハブとして機能できることが重要だと思います。
冨田 共感します。SalesforceもほかのDXツールも、導入の敷居はかなり下がってきました。当社のMashmatrix Sheetもエンジニアでなくても画面を作成できる。そうなると、「システムのことはわからないから」と言ってばかりもいられません。Salesforceはあくまでもツール。ただ導入することがゴールではなく、自社のビジネスの目指すべき姿がしっかりあることが大事だと思いますね。
あらゆる企業とつながれる「コミュニティ」の存在
──お三方にとって、Salesforceコミュニティの存在も大きかったのではないかと思います。
冨田 私はSalesforce在籍時代に国内のデベロッパーコミュニティの立ち上げに関わっていました。Salesforceを退職したことでコミュニティづくりが中途半端になってしまったため、外側から支えられたらと思い、イベントや登壇などで貢献しようと。初期のメンバーのひとりとしては、現在もうまくコミュニティが回っていることは非常にうれしいですね。
南 私はコミュニティに育てられたと思っています。さまざまな業種・企業の方と話す機会は、普段なかなかありません。Salesforceのコミュニティに参加したことでつながりが広がりました。
鈴木 コミュニティの良いところは、ギブアンドテイクなんです。肩書も業種もさまざまな人たちが同じテーマでディスカッションするだけで、いろいろなアイディアが出てくる。「そういうSalesforceの使い方があるのか」と常に発見があり、ビジネスのヒントが得られることがあります。教える側でも、学ぶことのほうが実は多いかもしれません。
冨田 Salesforceアドミンが孤立しがちという話をよく聞きますが、そのとおり。とくに当社のようなベンチャー企業の中では、情報がとどまってしまい、半径数メートル内での価値観に偏ってしまう。だからこそ、当社からも今後もっと積極的にコミュニティに参加していきたいですね。社内でも、Salesforceに限らず、組織の外へコミュニケーションの機会を広げようと推奨しています。
──ひとつのツールからそれだけ広がりができるのは素敵ですね。
学びは続く──3人が期待するテクノロジーと今後の挑戦
──DXおよびSalesforce活用において最前線を行くお三方が、今いちばんときめくことを教えてください。
鈴木 AIに興味がありますね。生成AIを業務に生かしたときに、どのような変化があるのか期待しています。
たとえばコンタクトセンターで生成AIの活用が進めば、当然業務は効率化されます。そうすると、今コンタクトセンターで雇われている人たちはどうなるのか。単なるリソース削減ではなく、「よりハイクオリティなサービスを提供する」ことを目的にテクノロジー活用を考えていく必要があるのかなと。そのようにAIを活用していけると、より良い未来が待っているのではないかと思います。
南 私は最近導入したTableau(タブロー)というBIツールにときめいています。そのツールを使うことで、Salesforce以外で管理していたデータが可視化され、1ヵ所で見られるようになったんです。社内の業務効率化を進めるために、Salesforceはもちろん、新しいものを常に学び続けるようにしています。そこでもコミュニティの存在が助けになりますね。
冨田 実は、ユーザーとしてのSalesforceの経験値はあまり高くなかったのですが、最近当社のセールス組織も成長し、その組織のアドミンとしての視点で見ると発見がありますね。開発者として座学でわかっていたものが、手を動かすことで全部腑に落ちていく感覚があって。それにとてもときめくんです。
一方、今後規模が拡大していくことを考えると、ひとりのアドミンに依存しない体制は必要だと感じました。
鈴木 ひとりのTrailblazerがいなくなると、活用が止まってシステムを解約するなんてこともありますよね。南さんのようなTrailblazerは企業間で取り合いになっている傾向がありますし、そういう人がどんどん増えていってほしいです。
──最後に、皆さんの今後のチャレンジついてお聞かせください。
冨田 Salesforceのユーザーは増加し続けています。「もう少し手助けがあればもっとハッピーに活用できたのに」というユーザーを1社でも少なくするために、当社のツールでサポートしていきたいですね。
南 社内のTrailblazerを増やしていくため、2022年11月から若手社員向けリスキリングプログラムを開始しました。今後もその活動に引き続き注力していきたいです。とくに若いメンバーは、ライフイベントなどで今後もずっと働き続けられるか不安を感じている人も多い。SalesforceやITの知識を身につけて、営業だけでない武器を身につけておけば、ライフイベントによる変化があっても大丈夫ということを広めていきたいです。私自身もBIツールの学習が今期の目標です。
鈴木 Salesforceがノーコード・ローコードでビジネスアプリケーションがつくれると言っても、デベロッパーとビジネスユーザーとの段差はまだ若干ある。その段差を滑らかにする取り組みを、コミュニティを通じてやっていきたいですね。今、Salesforceのコミュニティはデベロッパーのコミュニティ、アドミンのコミュニティ、ビジネスユーザーのコミュニティと分かれているので、皆で参加できる場をつくれるよう、動き出しているところです。
──Salesforceのエコシステムを通じて、皆さんが高め合ってこられたことが伝わってきました。今後のご活躍も楽しみにしています!