データ活用に失敗した過去も 日本通運の「覚悟あるDX」
加藤(Sansan) 今日のテーマは営業組織における「データ活用×コミュニケーション」です。私自身、営業DXサービスを提供している立場ですが、デジタルでは対処できない営業領域もあるという仮説を持っています。つまり、“人と人”のコミュニケーションが営業の本質ではないかと。そのあたりのバランスのとり方についても、ぜひおうかがいしたいです。
古江(日本通運) 日本通運で営業戦略本部長を務めている古江です。十数年前に初めてSFAを導入して以降、データ活用においては試行錯誤を重ねてきたので、そんなお話も今日はできたらと思っています。
加藤 では早速、御社がSFAを導入したきっかけや、営業DXの変遷について教えていただけますでしょうか。
古江 はい。当社がSFAを最初に導入した十数年前、営業はまさに「足で稼ぐ」営業をしており、ノウハウや顧客情報も属人化されている状況でした。
そんななか、「SFAを導入すれば情報が整備・共有され、バラ色の世界が待っているに違いない」と思い込み、多額の費用をかけて導入しました。しかし、ハイパフォーマーと呼ばれる人であればあるほど「なんで(SFAに)入れなきゃいけないんだ、俺の情報は俺のものだ」という感覚がありまして。上司もデータ入力を促した結果、ただ入力することだけが目的になってしまったんです。データの活用には到底至らず、費用対効果も見合わなかったため、解約することに。
しかし、データを記録するツールは必要ですから、ツールを自社開発してみたり、外部の営業DXサービスやクラウドを導入したりと、現在も試行錯誤しています。
加藤 御社が営業DXやデータ活用に注力しているのには、何か理由があるのでしょうか。
古江(日本通運) VUCA時代とも言われる変化の激しい世の中、物流業界においてもインパクトが生じていることが理由のひとつです。半導体不足、台風災害、2024年問題(働き方改革法案によりドライバーの労働時間に上限が課されることで生じる問題)もあれば、お客様ニーズの多様化、サステナビリティ、脱炭素の課題なども存在しています。
このような複雑な状況下においては、従来型の「足で稼ぐ」「勘と経験とGNP(義理・人情・プレゼント)」という営業をどこかで脱却しなければいけない。また、単に商材を提案する「プロダクト営業」ではなく、お客様自身も気づいていないニーズを掘り起こす、課題解決型の「ソリューション営業」に進化させていかなければなりません。
そのためには、“案件化される前のお客様情報に価値がある”ことを営業がきちんと認識し、データとして記録するという行動パターンを身につける必要があります。
加藤 記録したお客様のデータは、営業活動において重要な“ファクト”になるんですよね。お客様に会ったのか、会ってないのかという情報ひとつとっても、営業活動においては非常に大切。
古江 そうなんですよ。まだ案件になっていなくても、請求書を届けたついでに話したとか、クレームをもらったとか、とにかく何でも良いから全部記録していこうと。そこから自分たちの提供しているサービスの改善点や、新たなヒントが見つかりますから。
加藤 データを記録することで、どのような効果が得られたのかもうかがえますか。
古江 あらゆる情報を、直系の組織はもちろん横の組織でも共有できるようになりました。営業が登録した日報が小説みたいで結構面白くて、ファンができることもあるんです。他部署の人や役員からも、コメントや「いいね」を送ることができるので、現場の営業のやる気にもつながっています。
また、営業生産性を可視化できたのも大きかったですね。現場の営業が業務の中でお客様と接している時間を、営業ツールのログインデータから抽出してみたんですよ。すると、当社はたった5、6%というのが見えてきました。もともと営業ドリブンな体質の会社ではないと自覚していたものの、こうやって可視化されると「もっとお客様と会う時間を増やさなければ」と思うじゃないですか。
さらに今後、属人化しているナレッジデータの共有が進めば、営業生産性はもっと高まるはずです。
ソリューション営業を行うには、お客様と経営課題について話ができなければならないため、営業に“ナレッジという武器”を渡してあげる必要があります。つまり、脱炭素経営や2024年問題、他社事例などの資料がパッと出てくる仕組みづくりですね。これもひとつの営業DXだと考えており、専任で行う「セールスイネーブルメント部」を2023年1月に立ち上げました。今まさに具体的に動き始めたところです。