営業の「3つのデジタル化」とは
桐原氏は、リモートワークやオンライン営業が広く浸透し、顧客の購買活動が大きく変わった昨今、営業組織には営業パーソンの“デジタル化”が求められていると語る。
「そもそも、日本企業はグローバル企業と比べて営業生産性が低いと言われています。我々は、課題がふたつあると考えています。ひとつめは『効率性』です。属人的で非効率な手法に悩みながら営業されている方も多いでしょう。ふたつめは『戦略性』です。『とにかく行動量を増やせ』『俺のやりかたを見て学べ』といった勘や経験にもとづいたマネジメントをする上司の方々も多いと思われます」(桐原氏)
営業のデジタル化をする目的は、こうした効率性と戦略性を向上させることにあると桐原氏は言う。つまり、「属人的で非効率な営業」を「再現性があり、効率的な営業」に変え、「勘と経験にもとづく戦略マネジメント」を「データにもとづく戦略マネジメント」へと変えることだ。
「これらを見直すうえで重要になるのが、(1)誰に(2)どのように(3)何を売るのかというプロセスです。それぞれ(1)顧客管理(2)営業プロセス(3)営業コンテンツのデジタル化と言い換えることができます」(桐原氏)
(1)顧客管理のデジタル化
ひとつめの「顧客管理のデジタル化」について解説する。顧客管理の歴史を振り返ると、1980年代は、イエローページと言われる電話帳サービスを見ながら上から順番に架電をして営業する時代だった。1990年代になるとインターネットが登場し、企業はホームページを持つようになり、企業は顧客ターゲットについて調べたうえでアプローチができるようになった。しかし、この時代はまだ営業担当が個別に自分のノートやExcelで顧客情報を管理しており、非効率だったという。
こうした中、1990年代以降に登場したのが「CRM(Customer Relationship Management)」「SFA(Sales Force Automation)」「MA(Marketing Automation)」といったツールだ。これらのツールの登場によって、顧客情報のシステム管理ができるようになり、具体的なアクションプランからクロージングにつなげられるようになった。
また、社内における顧客情報の引き継ぎも効率化されたほか、蓄積されたデータにもとづきターゲットを戦略的に定めやすくなったという。
「たとえば営業ステップごとのデータを取得し、顧客情報を客観的に見ることができれば、どのターゲットに対して取引が多いのかもわかるようになります。こうしたデータをもとに戦略マネジメントを推進できるようになれば、営業のデジタル化の“ファーストステップ”を踏めていると言えるでしょう」(桐原氏)
しかし、実態としては、米国企業の74%がCRMを導入している一方、日本企業での導入率はまだ28%に留まるという。
「こうした現状は、ファーストステップすら踏めていない企業がまだまだいるということを表しています。まずは、CRM、SFA、MAといったツールを導入する必要があるわけです」(桐原氏)
(2)営業プロセスのデジタル化
続いて桐原氏はふたつめの「営業プロセスのデジタル化」について、アナログ時代の営業プロセスと比較して解説した。
アナログ時代は、「顧客選定」「日程調整」「商談準備」「商談実行」「記録」「契約」という一般的な営業プロセスにおいて、多くの企業は一部のプロセスだけにITシステムを導入して対応していたという。一方、デジタル時代に入ってからは、こうしたプロセスをカバーするデジタルツールが多く登場した。たとえば、AIによって議事録を自動作成するツールや、契約リスクを自動管理できるツールなどが挙げられる。
「米国では、ほぼすべてのプロセスに対応するSales Techが生まれ、それらを介して営業プロセスの効率化が進みました。実際、米国では現在1,000以上のSales Techツールが展開されています」(桐原氏)
こうしたツールを使うことで、データを蓄積でき、結果としてAIで処理できる部分も増えていくといったメリットがあるという。
「しかし、SaaSの平均導入数を比べてみると、米国企業では80もある一方、日本企業では9しかありません。日本は自社の業務プロセスに合ったかたちかつ、“オンプレミス”でシステムを組もうとすることが多いようです」(桐原氏)
(3)営業コンテンツのデジタル化
そして3つめの「営業コンテンツのデジタル化」について解説する。アナログ時代の営業コンテンツは、紙の資料や会話、対面商談だった。一方、デジタル時代の営業コンテンツは、デジタル資料や動画、Webページ、テレビ会議などが該当する。デジタル資料や動画が、Webページやテレビ会議によって伝達されると、営業は大きく変わるという。
「とくに注目すべきが、多くの企業で『サービスサイト』として持たれているような一般向けに公開されているWebページです。これからは個別顧客向けのWebページを活用したセールスが重要になるでしょう。たとえば、米国では『デジタルセールスルーム(DSR)』という言葉があります」(桐原氏)
DSRとは、「個別のお客様が入れるWebページ」を営業担当者が容易に作成できる仕組みだ。そこにはテキスト情報や資料、動画が登録されており、顧客がそれを確認することで購買意欲を上げることにつながるという。
「こうしたツールのメリットは、商談時間以外でも顧客の購買意欲を高めやすく、劇的に営業効率を上げられることです。商談自体の回数を減らせる場合もあるでしょう。さらに、取得したデータにもとづき戦略的な映像コンテンツを作成・活用することも可能になります。また、閲覧された日時、資料がダウンロードされた日時などがわかるため、次回の商談を円滑に進めるための準備にも利用できます。しかし、こうした営業コンテンツのデジタル化は、残念ながら日本ではまだほとんど進んでいません」(桐原氏)
「営業のデジタル化」の先にある「営業DX」とは
ここまで顧客管理と営業プロセスの観点から「営業のデジタル化」について解説してきたが、続いて桐原氏は「営業DX」について同社の考えを語った。
桐原氏は、「営業活動のデジタル化が進んでいくその先に、営業DXがある、つまりデジタル技術を用いてビジネスを変革していくことができる」という。従来のビジネスプロセスは、「プロダクト」をつくる、「マーケティング」が広告・宣伝をする、「セールス」が売るといった流れが主流だった。一方で、営業DXが実現している世界においては、セールスは最後にくるのではなく最初にくるかもしれないと語る。
「たとえば、プロダクトをつくる前にセールスが商品紹介資料を作成して提案し、それをWebページに載せてその反応からプロダクトをつくるという未来がくると考えています。デジタル化によって得た顧客・商談・行動の情報をもとに、プロダクトやマーケティングをダイナミックに動かしていく役割を担う職種が営業であり、これが実現できて初めて営業DXが実現すると考えています」(桐原氏)
今すぐ営業部門がすべきふたつの取り組み
営業のデジタル化を実現するために営業部門としてすべきことは、大きくふたつあるとされた。具体的には、デジタルツールの導入と、スタッフ部門の強化である。
「ひとつめのデジタルツールの導入は、スピード感が重要です。戦略立案、業務設計、各ツールの評価をしているうちに数年経ってしまうこともあり、これではせっかく導入しても、導入タイミングでの現状が当初の課題にマッチしていないことが起こり得ます。したがって、デジタルツールの導入・検討をトリガーとした戦略立案や業務設計を進める必要があります」(桐原氏)
「ふたつめはスタッフ部門の強化です。営業部門は、“フロントの営業担当者”の人数によって業績が決まることも多いですが、裏で動くスタッフ部門の強化なくして戦略性の改善は望めません。効率的かつ戦略的に動いている企業は、営業部門の中にスタッフ部門を設けているケースが多いです」(桐原氏)
昨今、営業部門を分業化するThe Model型を採用する企業が増えている。桐原氏はこれに反対はしないものの、スタッフ部門として、オペレーション担当かつ、データ分析、業務設計、コンテンツ作成などができる担当者が重要だと強調した。
最後に桐原氏は、同社が提供するセールス・イネーブルメントクラウド「ナレッジワーク」を動画で紹介。ツールの導入だけでなく、運用にのせることも同社の強みだと話し、ある大手企業では、ツールの導入によりひとりあたりの商談準備時間が1時間削減したという効果も出ているという。また、先ほど説明したような個別のWebページを作成できる機能も実装しているそうだ。
「現状を打破するためには、こうした新しい要素をいかに取り入れていけるかが重要になってくると思います。変革をつくりたいと考えている方は、ぜひご検討ください」(桐原氏)