SFAが案件管理をするだけのツールになっていないか
パーソルP&Tは、総合人材のパーソルホールディングスのグループ会社であり、平光氏が所属するセールスマーケティング事業部では、約600人が在籍しているという。同社の営業組織ではSFAを活用したパイプライン管理を実践しており、今回のセッションではその取り組みの軌跡が紹介された。
コロナ禍で営業スタイルの変化が加速し、多くの企業がSFAやCRMを導入・活用している。一方そのような状況下で、「大きな期待を抱いてSFAを導入してみたものの、実態は案件管理をするだけのツールになってしまっている企業も多いのではないか」と、自らの経験も踏まえて平光氏は問いかける。
SFA活用による理想的なパイプライン管理の実現について、平光氏は「リアルタイム性」と「仕組み化」というふたつのキーワードを提示した。そのうえで、「理想的なパイプライン管理」「各指標をSFAに反映、BIを用いた可視化」「専任体制構築」という3つのテーマに沿って解説を行った。
脱・属人化! Excelによるパイプライン管理の限界とは
まず、パイプライン管理を行う理由について平光氏は次のように説明した。
「なぜその結果が生まれたか、結果から見える手前の改善ポイントはどこにあるか、それを見極めるためにパイプライン管理が大切になる」(平光氏)
平光氏は、パイプライン管理の活用レベルを5つに分類。設計されていない状態がレベル1で、レベル2はある程度の大きな結果指標(骨太の指標)が特定できている状態。レベル3は、結果指標が定まっている中でデータの分析ができ、さまざまな角度から現状把握ができる状態。レベル4は、リアルタイムに改善できる状態。レベル5は、未来を予測し打ち手がわかる状態である。
今回のセッションでは、パイプライン管理のレベルを2から3に進化させるための施策・取り組みを、同社の実践例を踏まえて説明した。
まずレベル2から3に移る際の課題感として平光氏は、属人性の問題に言及する。
「情報を集める際に管理が属人的で、Excelのどのデータを見れば良いのか、つくった本人しかわからない状態になっていると、分析をする際にも特定の人しか作業ができなくなってしまう。レベル3から先は仕組化が必要になってくるため、2から3、3から4に引き上げる場合はハードルがある。手法を仕組み化することで、さらに情報やデータの活用が進むかたちになってくる」(平光氏)
同社でも以前は、関数が大量に組み込まれた、いわゆる“スーパーExcel”でパイプライン管理を行っていたとのこと。「Excel自体は素晴らしいツールだが、可視化されている状態をつくることができない。そこをしっかりと、SFAやBIを使って誰でもわかりやすく使える状態にしていくことが大事」と平光氏は説く。
仕組み化に加えもうひとつの重要な要素として、「施策オーナーを置くこと」を挙げる。同社も当初、課題解決意識はあったもののオーナーを置いていなかったために「その都度対応」で時間がかかってしまい、根本的な問題解決に至らなかったのだという。
これらの課題を解決して「理想的なパイプライン管理を実現」するために、同社では「各指標をSFAに反映し、BIを用いて可視化」し、「専任体制を構築」して取り組みを進めていったのである。
各指標をSFAに反映し、BIを用いて可視化する
パイプライン管理にSFA/BIを活用する際の最初の工程は、隠れた要件や指標、ロジックを言語化することである。同社ではまず、「パイプラインの指標(PPL指標)の定義決め」を実施した。「定義は人によって異なり、マーケティングと営業のPPL指標が合っていないこともある。顧客のステージがマーケティングからセールスに移ったとしても、顧客に向き合う姿勢は変わってはいけない。まず組織横断でしっかり定義を決めていく必要がある」と、平光氏はポイントを示す。
その前段にあるのが、営業活動におけるビジネスプロセスの整理である。さまざまな部門がシステムを活用するため、目線を合わせていく必要がある。また顧客のステージ状態を再定義し、それに合わせてマーケティングから営業までのKGIやKPIを整理することで、PPL指標の定義を決める。
次の工程は、「必要なデータや必要なパターンを整理」すること。「データはたくさん集めれば良いのではなく、必要なものを最小限に集める。そしてデータを使いやすいようにすることが肝心」(平光氏)。
たとえば同社では、レベル2の骨太の指標(売上・粗利・営業利益のデータを半期・四半期で掛け合わせたもの)は特定できている状態にあった。次のステップでは、レベル3のサービス別・個人別・流入別といったさまざまな分析軸で見ることを目指したい。それらを分析する際には、レベル2で見ていたデータでは足りないため、SFAやCRMで管理している「営業担当」や「商談履歴」「プロジェクト開始時期」など複数の要素データを管理できるようにしていったのだ。
そして最後に、それらを「ビジュアライズ」する。データやパイプラインの定義を決め、それをBIダッシュボードで視覚的にわかりやすく可視化するのである。
専任体制を構築、推進オーナーを置き6ヵ月で完遂
もうひとつの重要な要素が、推進体制の構築である。ある程度定義や情報を可視化することはできても、それを実動していく際には推進オーナーがいないと進みが遅くなってしまう。推進者を選ぶにあたって、「『マーケと営業からお互いひとりずつ担当者を出して進めましょう』だと、仕事の片手間で施策を走らせることになる。その結果。問題意識を持っていても進みが悪くなり、改善が進まずに根本的な解決ができなくなってしまう」と、平光氏は注意を促す。
推進オーナーを置き、短期集中でメリハリをつけることによって、スピード感をもって対応できるようになる。加えて同社では推進時の視線の偏りを避けるため、オーナーの元にパイプラインにかかわる部署横断でワーキンググループをつくって進め、指標や集計ロジックを作る際には関連部門に意見を聞きながら定義として反映させていった。
それらの施策の結果、プロジェクトは6ヵ月で完了した。スケジュールとしては、レポートのフォーマット化や各指標の定義などを最初の2ヵ月で行い、それを2ヵ月で実装し、その後組織にオンボーディングしていくフィジビリ運用、本格運用に向けた準備を行ったという流れである。
「各部門の定義のすり合わせでさまざまな意見が出てくるが、推進の専任体制を組んでタスクフォースを6ヵ月間しっかり回すことで、短期集中で立ち上げることができた」(平光氏)
生産性・効率性を高めるBIダッシュボードが完成
完成したのが、次の図のダッシュボードである。これはマーケティング側とセールス側で考えているKGI/KPIをプロセスとして整理したものだが、「見る際の定義を揃えることによって、案件がどう流れているのかがひと目でわかる状態になり、ボトルネックなどパイプライン上の問題個所がダッシュボードを見るだけでわかる」(平光氏)かたちとなった。ほかにも、どんなパイプラインが動いているかという推移も確認できるという。
レベル3で踏み込んだ領域に関しては、スーパーExcelをダッシュボード化してBIで可視化することによって、サービス別や個人別の売上が見えるようになっている。
「そこが見えてくると、下がり目のサービスや売上が落ちている部門が可視化され、最終的な結果指標が予測しやすく、解決のための施策も素早く打てる。ワンクリックでデータを見ることができて視覚的にも情報のアウトプットが早くなるため、生産性の向上、効率性という部分でもBIによる分析は重要」(平光氏)
これらの取り組みの結果、パーソルP&Tでは、「ボトルネックに対する対処スピードが向上」「会議資料の準備時間の削減」「会議体の活性化」という3つの効果が得られたという。「重要なのはリアルタイム性と仕組み化。リアルタイム性はボトルネックを見るために大切な要素で、それを把握することで改善につながる。さらにそれを仕組み化することで属人化から脱却し、広い目線で対応できるようになる。その2点を取り入れたパイプライン管理を組織に取り込んで欲しい」と、平光氏はアドバイスを送る。
なお同社では、セールスやマーケティングサービスを一連のかたちで整えており、セールスコンサルティングやSFA導入支援もサービスとして提供している。