Salesforceの最古参パートナーとして3つの分野に注力
――最初に矢野さんのお立場と、サンブリッジについて教えてください。
サンブリッジに今年新たに設置されたアライアンス室でCAO(チーフアライアンスオフィサー)をしています。主にプロダクトを軸としたパートナービジネスの推進を目的としています。
当社は1999年に創業しました。創業者であるアレン・マイナーは米Salesforceの会長兼創始者であるマーク・ベニオフ氏とオラクル時代に同僚で、クラウド時代が本格的に到来するという考えで一致していました。そして、ベニオフ氏はSalesforceを創立し、アレンは海外から先進性のあるSaaSカンパニーのサービスを日本に持ってくることを目的にサンブリッジを創立したのです。
こうした経緯から、Salesforceの導入・開発から連携・活用支援を行う「Salesforceソリューション」がサンブリッジのコアビジネスのひとつになっています。Salesforceは非常に多機能であるがゆえに「どこから手をつければいいかわからない」というユーザーも多いです。Salesforceが目指す方向性やビジョンを理解した上で、プロダクトカンパニーではなくシステムソリューションベンダーとしてSalesforceと同じ価値観のもと、さまざまな支援を行っています。
ただし、導入活用支援だけでは、なかなか利用が定着しないユーザーもいました。そこで、効果的にSalesforceを活用できるプロダクトが必要であると考え、当時Salesforceにはなかった、名刺情報を活用するサービスとして「SmartVisca」を開発しました。2014年にはSalesforceのアプリストアであるAppExchangeでの販売を開始しましたが、近年はSalesforceを導入していなくても利用できるサービスとして提供しています。これがふたつめのコアビジネスです。
3つめのコアビジネスが、マーケティングオートメーション(MA)です。MAツールとして代表的な「Pardot」とSalesforceを連携することで、マーケティング効果の可視化や営業チームとの連携強化が可能になります。サンブリッジでは、Pardotの導入支援をはじめ、MA基盤の構築からPDCAサイクルの確立までの5段階での活用支援も行っています。
――「SmartVisca」がAppExchangeで選ばれてきた理由には、どのような課題や背景があるのでしょうか。
営業組織では、データをいかに手間なく正確に入力するかが長く大きな課題になっていると感じます。そもそも、CRMやSFA、MAは、正確なデータを入力して初めて機能や能力を発揮するシステムです。しかし、現場では手動で入力することが多く、重複やミスがよく発生していました。Salesforceユーザーからも「データ入力の段階がうまく進まない」とご相談をいただくことも多かったのです。
新型コロナウイルス感染症対策でテレワークが加速し、名刺交換の機会も減っています。しかし、過去も含めて名刺情報をデータとしてきちんと整理して、どこでも誰でもビジネスに活用できる状態にしておかないと、テレワークも成り立たないと考えています。海外では名刺交換よりもLinkedInやFacebookといったSNSでのデータ交換が主流ですが、日本や韓国、中国などのアジア圏では名刺交換の文化がありますし、日本ではどの企業でも訪問時に名刺交換をしないことはないと思います。
名刺の情報を、精度の高いデータとしてSalesforceのような顧客管理システムで企業情報や人の情報として使えるようにすることは、非常に高いニーズがあります。SmartViscaはそのニーズに合致し、大企業から中小企業まで広く導入いただいたことがAppExchangeでの実績につながったと考えます。
SmartViscaの5つの特徴 年間約4,200時間の工数削減事例も
――SmartViscaの機能と特徴、競合優位性について教えてください。
SmartViscaの機能は非常にシンプルで、名刺に書かれている情報を正確に抜き出し、項目ごとに分けてSalesforce上で使えるようにデータ化します。名刺管理が前面に出ていますが、データは顧客管理にも活用できます。サンブリッジとしてはSalesforceがメインで、SmartViscaはSalesforceに触れていただくためのサブと考えていますが、ユーザーには多くのメリットを感じてもらえています。具体的には、次の5つのメリットが挙げられます。
ひとつめは、名刺の情報を正確にデジタル化して社内で共有できること。しかもその手間を大幅に削減できることです。ふたつめは、Salesforceに最適化されたUI、UXを採用していること。Salesforceの最古参パートナーとして長年培った知見・経験やお客様のフィードバックから得られた意見や感想をもとに、より使いやすいインタフェースにしています。
3つめは安全性です。名刺情報は個人情報であると認識されている企業が多く、特にグローバル企業やエンタープライズ企業はその扱いについてより厳重な基準を持っています。サンブリッジとしても、名刺情報は「お客様の企業資産」と考えているため、情報の保護に注力しています。
たとえば、名刺を撮影、送信したあと画像データはログを残しません。名刺画像を分割したOCRデータも同様です。OCRによりテキスト化したデータをオペレーターが目検チェックすることで正確性を担保していますが、その際にはデータをすべて分割し、個人情報として特定されないようにしています。メールアドレスに至っては、「@」前後で分けています。
デジタル化が終了してお客様に納品する際にも、入力ミスなどが発生した場合に追跡調査ができるよう、60日間はサンブリッジのサーバーにバックアップします。61日以降はすべて自動削除されますので、当社側にお客様のデータが残ることはなく、ユーザーのSalesforce環境のみで管理できます。この「極力、データを保持しない」というコンセプトは、多くのユーザーに好評・支持をいただいています。なお、来年をめどにISMS(ISO/IEC 27001:情報セキュリティマネジメントシステム)の認証取得をする計画です。
4つめは、MA活用を見据えた最適化かつ充実した機能です。名刺情報を取り込んだら、活用しないと意味がありません。新規見込み顧客に対するリードナーチャリング(育成)の観点や、既存顧客に対する深耕営業のためにユーザーはMAツールの活用も検討します。SmartViscaではMAツールとの連携を視野に、便利に活用できるさまざまな拡張機能を用意しています。たとえば、名刺情報とMAツールが連携していることで、展示会やイベントにかけた費用に対する商談件数や受注件数といったROI(費用対効果)を見ることができます。
5つめは、適切な料金体系です。SmartViscaはプリペイド方式を採用し、最大で年間24万枚まで登録できるプランを用意しています。組織全体で想定される入力名刺枚数に合わせてプランを購入すれば、ユーザー数は何人でも利用できるので、リーズナブルだとお客様には喜んでいただいています。
――SmartViscaの導入効果について、具体的な数字を公表できる事例はありますか?
よくご紹介するのが、人材業界のアデコ様の事例です。世界の60の国と地域で展開するアデコグループの日本法人で、多様な人材の派遣および紹介のビジネスを展開しています。アデコ様では2009年にSFAとしてSalesforceを導入したのですが、顧客データは営業担当が手入力で行っていました。日常の業務の中で顧客情報をSalesforceへ正確に入力することは営業担当者の大きな負担となっていたのです。
そこでアデコ様ではSmartViscaを導入し、まずは5,000枚の名刺を登録。その後3万枚から5万枚の名刺を登録しています。毎日のように発生していた入力の重複や抜け漏れがなくなり、精度が向上。しかも平均で1枚5分かかっていた名刺の入力がなくなることで、年間約4,200時間の工数を削減しました。登録枚数が多いほどコストメリットも上がりますし、Salesforceとの親和性の高さも評価していただいています。
SmartViscaを導入していただいたお客様に共通して言えることは、本来は営業社員がしなくても良い名刺の登録作業をクラウドサービスに任せることで、空いた時間を自分がすべきコア業務にあてられることです。また、新規顧客開拓などで交換した名刺を訪問面談の後で撮影しておけば、オフィスに戻ったときにはデジタル化が完了し、メール送付など次の業務へすぐに移ることができます。
オンライン名刺交換だけではないOnline Profile for Salesforceの構想
――御社ではSmartViscaをリリースしただけに終わらず、機能強化や他ツールとの連携などを進めています。その理由を教えてください。
昨年1年間、ユーザー企業に対するカスタマーサクセスの活動を強化しました。そこで見えてきたのは、多くのお客様に支持され業務を効率化するプロダクトとして成長してはいるものの、業種業態や部門ごとの使い方をガイドできていないということです。便利になるだけではなく、より顧客企業の売上向上や働き方の変化に伴走すべく、機能改善や定着化のための支援は不可欠だと考えています。
一方で、新型コロナウイルスの影響でオンラインへのシフトが進み、名刺交換のような当たり前にできていたことができなくなっています。政府はオンラインでの名刺交換を推進していますが、その方法は示されていません。無茶振りのようなものですが、SmartViscaは名刺のデジタル化をしてSalesforceに入れることで、オンラインでの名刺交換のひとつの手段にはなります。しかし前例がないため、具体的な活用方法に悩む人も多いでしょう。それを解決するための新たなプロダクトとして「Online Profile for Salesforce」を近日リリースする予定です。
今後は商談をはじめ展示会やイベント、セミナーなどがオンラインとオフラインで行われるようになります。つまり、アナログの名刺とオンラインのプロフィール情報が、さまざまなチャネルで入ってきます。オムニチャネル化するわけですね。それぞれのチャネルから入ってくる情報を統合し、Salesforce上での活用を可能にする新しい仕組みが必要です。オンラインの名刺交換を実現するだけでなく、顧客データを1 箇所に集め、Salesforce内で活用できるようにすることは私たちのコアバリューでもありますから、それを色濃く反映した製品を今後もご提供していきます。
Online Profile for Salesforceは、オンラインでの名刺交換を手軽に実現できるツールで、無償提供する予定です。ブラウザー上でもモバイルでも使用できます。まず自分のプロフィールをSalesforce上に作成しておきます。プロフィールには文字数無制限のコメント欄がありますので、PRコメントや動画のURLを貼りつけることもできます。商談の際のアイスブレイクにも活用できると考えています。
作成したプロフィールのURL発行が簡単にできるため、オンライン商談などの際にあらかじめメールやウェブ会議上のチャットで相手に送ることで、先方に参加者のプロフィールを知らせることができます。特徴的な機能として、プロフィールのURLを開くと「プロフィールを送り返す」というボタンがあり、これを押すことで受信者側のプロフィール情報を送り返すことができます。受信者側から送り返されたプロフィール情報は、もちろんお客様のSalesforce環境内に蓄積・管理されます。
――オンラインでの商談や名刺交換が進む社会では、営業担当にはどのような考え方やスキルが必要になるのでしょう。
私も長くサンブリッジで直販営業に携わっていました。オフラインでの営業活動では会社や商品の価値をお客様に伝えることはそれほど意識することなくできていましたが、リモートワークに変わり画面上だけでコミュニケーションをする場合は、難易度が上がります。そこでは資料の完成度や情報の収集・整理などの事前準備が特に重要になると思います。たとえばお客様企業の分析、あるいはお客様の悩みや課題を深く洞察して提案する。営業担当者にもかなり高いスキルが求められる時代になるはずです。
そこで、Online Profile for Salesforceのようなツールがあれば、事前にプロフィールを交換しておくことでアイスブレイクができ、今までとは違った商談の進め方ができると思います。オフラインでの営業活動が難しい現状を逆手に取って、その中でいかにツールやコンテンツやトークスクリプトをお客様に刺さる内容にブラッシュアップしていくか、それを極められるかどうかがポイントになってくるのではないでしょうか。
――今後のチャレンジについて教えてください。
Online Profile for Salesforceは、まさにサンブリッジの提供できる価値をコアにした新しいツールです。しかし、今回の新型コロナウイルス対応によってパラダイムシフトが起こった中で、どうすればお客様に喜んでいただけるか、課題改善・解決につなげることができるのかと考えた結果、生まれたサービスであるとも言えます。いきなり新しいものが生まれたのではなく、実はすでに存在していたものの見せ方や提供の仕方が変わったということです。
サンブリッジの持つ技術や知見とSalesforceの機能を掛け合わせることで、新しいニーズに応えるプロダクトができる。今回の新型コロナウイルスへの対応の中で、そうした気づきが芋づる式に出てきています。
Salesforceの最古参パートナーとして、お客様の課題に寄り添ってさまざまな機能を開発・提供してきました。今後も「Salesforce×サンブリッジ」として持っているものをしっかり棚卸しをし、時代に求められているものを製品化して、お客様のビジネスに役立てていただこうと思っているため、非常にワクワクしているところです。優先順位や重要度はありますので、選択と集中を行いながら、当社のミッションである「テクノロジーで仕事のあり方を変える」をモットーにこれからもお客様の成功に貢献していきます。
――ありがとうございました!