急成長に耐えうる組織をつくる「ビジブル」チーム
――ベルフェイス社における、おふたりの役割について教えていただけますか。
清水 私はまだ入社8ヵ月なのですが、野田はベルフェイスの女性社員一号です。そんな古株の彼女とジョインしたばかりだった私で始めたのがビジネスイネーブルメントチームです。あらゆる手法を使ってビジネスのさらなる加速・成長を実現することを目的として設立し、visible(視える)とかけて「ビジブル」と呼ばれています。
当社では、2019年4月に約60名だったメンバーが、2020年3月現在で150名となり、今後はさらに増えていく予定です。中途採用だけでなく、新卒1期生も入社してきています。この急激な人材増加に加え、徹底的に分業を行っていることや、今後さまざまなサービスを展開していきたいという展望があり、それらに耐えうる組織をつくらねばならないというのが経営課題でもありました。そのためには教育の仕組みやデータ整備の課題に向き合う専属部隊が必要だったのです。
野田 私はSIerのフィールドセールスからキャリアをスタートしています。担当していた顧客の多くがクラウドサービスを選び始め、クラウドサービスに携わってみたいという想いを抱き大手外資系SaaSにインサイドセールスとして入社しました。クラウドの可能性を日々感じながら、今度は自身がクラウドサービスを使いながら社内の仕組みを構築していくことへ興味が湧いてきました。大きな会社ですと、若手ひとりで仕組みを変化させていくことはさすがに難しかったのですが、ベンチャー企業であれば比較的チャレンジしやすいのではないかと転職活動を始めました。
経験を優先され、営業職での入社を打診されることが多かったのですが、当時出会ったベルフェイスは創業間もなかったこともあり、オープンポジションで打診してもらうことができ、私もお役に立てるのではないかとジョインしました。カスタマーサポート業務を担当しつつ、社内業務を良くしていくために常に手を動かしていました。「事業の成功を仕組みでどう推進していくか」というポジションの必要性を発信し続けており、事業拡大に合わせて必要性が増したところで、チームとしてあらためて独立していまに至ります。
――昨今、社内向けに仕組みを提供していくという意味では、営業育成に特化したセールス・イネーブルメントチームを立ち上げる企業も多いですが、そこも含むようなチームなのでしょうか。
清水 実は私はセールス・イネーブルメントに特化した役割をもともと担当していたのですが、現在はその役割を拡大解釈しているようなかたちです。というのも、営業力強化のために、研修やトレーニングを行っても、明日からすぐできるようになるわけではありません。大切なのは「自分に何が足りないか」「いま何をすべきか」に気がつくことができるメンバーを育てることです。気づきに必要なのは、そのきっかけとなる「データ」を見える環境にすることです。セールス・イネーブルメントの考えかたも内包しつつ、「データ」をどう見せていくかということにチームで取り組んでいます。
――営業データの蓄積や分析が直接、営業力向上にも関わっていくということですね。データはどのように蓄積されているのでしょう。
野田 当社ではSalesforceを単なるSFAとしてではなく、ビジネス全体のデータプラットフォームとして活用しています。基本的な商談・予実・活動管理に加え、新規お問い合わせ管理やインサイドセールスによる見込み顧客の管理、ターゲットの分析までをも行っています。顧客企業のデータだけでなく、「bellFace」契約中のユーザーデータもすべて格納されていますので、月間の経常収益となる「MRR(Monthly Recurring Revenue)」を含めた売上の管理や請求管理もSalesforce上で完結します。もはや基幹システムですね。もちろん、さまざまなツールとも連携しているのですが、データはSalesforce上にたまっていく構造となっています。
「Salesforceに入力されていない=取り組んでいない」と見なされるほどにマネジメントにも活用されています。レポート・ダッシュボードづくりにはまっているマネージャーもいるくらいで、マネージャー陣が現場に向け勉強会を自主的に開いてくれるので現場のサポートがほとんど必要ありません。私たちはビジョンを実現するためのシステム全体の設計や企画、実装に専念できています。
イレギュラーが発生してしまうMRR管理に課題
――一方、サブスクリプションビジネスの重要指標のひとつであるMRRの管理に課題を抱えていたと伺っています。
清水 大型の資金調達やマーケティング投資を行っていると、ほんの少しでも対応を間違えてしまうと、まったく違う結果を引き起こしたり、無駄な投資が発生してしまったりする可能性があります。会社の成果に対して正しい判断ができる状態を常につくっておきたいと考えていました。たとえばリアルタイムで、どれくらい売上があるかMRRベースでビシっとメンバー全員の回答が一致する状態にしておきたい。しかし実際は、ビジネス側と請求や会計側に若干ずれがある状態であり、それを課題と捉えていました。
――急成長のなかで、統一のコスト意識を持つためにも、売上やキャッシュを見える化していく必要があったのですね。
清水 まずはきれいに契約状況を入力できるデータ構造を選びました。アップセルやクロスセル、ダウンセル……どの項目をどう見るかを決めていきました。
野田 契約管理におけるレギュラーの入力ルールが決まって、ある程度ここは契約完了後に自動で生成されるようにしていこうと考えていたのですが、BtoBのビジネスはどうしてもイレギュラー契約がつきものです。システム的な制限のせいで、販売の機会を逃してしまうことは、私たちのミッション上、許容すべきではありませんから、イレギュラーな契約に対しては人的チェックを実施しながら回していこうと決断したのですが、この自動と手動を組み合わせた運用が、Salesforceの標準UIだけでは難しいという壁にぶつかりました。
清水 RPAを組むという案もありましたよね。
野田 はい。しかし、RPAもイレギュラーには対応できません。すべてのユーザーの契約を手作業で管理するのは物理的に無理ですし、お客様によって契約形態も違うので、とにかく全部手動にも全部自動にもできない状態にありました。そこで、頭の片すみにあったExcelのような操作性でSalesforceにデータを入力できる「RaySheet」が、このMRR管理の業務に向いているのではないかと思いつきました。Salesforceを活用するうえで、もともと気になっていたツールでもあったので、すぐに検討を始めました。
清水 同時にいくつかのツールも検討しましたが、立ち上がりの早さとシステムの柔軟性からRaySheetに軍配が上がりました。また、もしもSalesforceのカスタマイズでつくり込めたとしても、開発と検証にかかる時間や複雑な開発によるバグ対応の手間を考えると、手動とExcelライクなアプリケーションの組み合わせが最適だと判断したのです。
野田 そのほかには細かい部分にはなりますが、RaySheetのデータ編集における柔軟性やUIの見やすさは決め手となりました。また導入当時はまだ取り組んでなかったのですが、Visualforceにおける拡張性もあるので、いざとなったら自分たちでつくりこむことを選択できる点も重要なポイントでした。当社はかなり戦略ドリブンですから、システム導入時はいつも拡張性を大事にしています。システムでできないから、この施策はやらないというのは絶対にありえません。「やると言ったら、やる!」組織なので、我々のようなポジションは少したいへんなときもあります(笑)。
ユーザーもかなり自発的に使いこんでくれている印象です。コアユーザーが20代後半から30代なかばで、Excelになじみがある世代であるため、いきなりSalesforceをさわるよりもむしろとっつきやすさがあるようです。利用シーンもさまざまですね。たとえば、ひとつの企業のお客様情報を確認するときはSalesforceのレコードで見たほうが網羅的で見やすいですが、とある条件のレコードを一気に表示し、一気に編集したいときはRaySheetを活用すると便利です。
図:Salesforce標準画面の表示とRaySheetでの表示の違い
徹底的に事業成長にコミットするビジブルの挑戦は
――BtoBのサブスクビジネスを展開する企業にとってMRRの管理は非常に重要だと思いますが、それ以外に御社が大事にされていることはありますか。
清水 SaaS企業で、どの会社もかなり重要な指標だと思っているのが売上維持率を指す「NRR(Net Retention Rate)」です。SaaSは常に未完成なサービスです。新規案件を獲得するだけでなく、お客様と一緒にプロダクトを成長させていくことが非常に重要です。つまり、カスタマーがそのプロダクトを選び続けていること、カスタマーがサクセスし続けているいうことは、NRRの膨れ上がりで判断できるからです。
1月から翌12月までのMRRを管理する会社は多いと思いますが、NRRを出すにはシステムに手を加えていく必要があります。当社は、NRRもRaySheetを活用して管理しています。重要指標とわかっていながらも、リアルタイムに全員が見えるように取り組むことができている企業は多くないはずです。
野田 昨年末にシステムのオブジェクト構成をかなり変更しました。小さな組織、1プロダクトのときは回っていた仕組みが、そうもいかなくなったからです。RaySheetを使った入力の効率化以前に、オブジェクト設計が命です。たとえば、どの単位で今後数字を見ていく可能性があるかを真剣に考えることとか。
「bellFace」の場合、営業部門が1社に複数存在することも多く、同じ企業で数部門にわたり導入いただくケースも増えてきました。ここで言うと「何部門に導入されたか」も大事なのですが、それらを「1社」として数えたいシーンも多い。そのため、法人でひとつのオブジェクトをつくり、その子どもとして顧客チームのオブジェクトを置き、その下に何回更新してくれているかという契約オブジェクト。さらにその下に、売上のオブジェクトをおくという4層で整備したうえで、入力を行っています。これくらい真剣に設計して初めて、手動と自動の入力を組み合わせながら、イレギュラーケースにスムーズに対応できるようになりました。
清水 オブジェクト設計は、奥深いです。我々は営業職ではないので、数字を自分たちで上げることはできませんが、メンバーとともに事業の成功に向かっています。そのためにできることは、みんながやりたいと思うことを常にすべて実現できるようにすること。事業の成長にとって意味があることであれば、すべてできるように日々現場とコミュニケーションをとりながら動いています。
――MRRやNRR管理以外のシーンでも、RaySheetの活用は考えられていますか。
清水 いくつか考えています。企画段階のもののひとつがアウトバンドリードへの活用です。Salesforceはインバウンド型、リード獲得をベースにしたシステムですから、アウトバウンド型のスキームには少し不慣れであるというふうに思っています。アウトバウンド営業には、大量のレコードを作成でき、各営業が自由に編集できるツールが適しているのではないかと思います。RaySheetのUIを見たときに、ぱっとアウトバウンドに活用できるなと思えました。当社自体が、アウトバウンド営業をこれから強めていくタイミングなので、チャレンジしてみたいですね。
――楽しみなチャレンジです。RaySheetへの要望はありますか?
野田 活用しているからこそ細かいことで気になることは出てくるので都度、サポートの方にがんがん依頼を投げています(笑)。ただ基本的にはかなり満足しており、オペレーションのメンバーも「RaySheetがないと、もう無理!」と言っているほどです。UIがわかりやすいゆえに「どうすればいいですか?」という質問はほとんどしたことがないですね。
――最後に、Sales Tech企業として最先端をゆく御社の今後のチャレンジについて教えてください。
清水 カスタマーファーストなコミュニティづくりとAI活用です。まずコミュニティですが、社内で行っているようにテクノロジーを活用することで、顧客に提供できることがさらにあるはずだと考えています。我々の連絡や整備の遅延で顧客が価値を得られないということを限りなくゼロにしていくために、Community Cloudなどを活用し顧客自ら情報やデータをとりに来ることができるプラットフォームを強化していきます。また、AI活用については、データがかなりたまってきたので分析をより強化することで、メンバーの活動に役立ていこうと思います。
現在、1,200社以上に導入され、アーリーアダプターの方々にはかなり価値を届けることができてきたと思っています。ただ、当社のCMを見て「ヒラメ筋のCMの会社」だと思われてしまっている部分もあります。我々は、ウェブ商談を広める会社でありつつ、「テクノロジーで営業を進化させる」というミッションに向かい、さまざまなことを考えている会社でもあるので、これまで支持いただいてきたお客様以外にも価値を届けていく大事なフェーズに差し掛かっていると考えています。
――これからの成長、「ビジブル」のおふたりの活躍も楽しみです。ありがとうございました!