Magic Momentは、2040年頃までの営業活動の未来予測をすることで、営業組織に課題感を持つ日本企業の意思決定に寄与する示唆の提供を目的に、営業活動の未来予測「Future of Sales」を公開した。※以下概要。詳細は「Future of Sales」ページより
公開の背景
2022年後半にChatGPTが公開されて以降、ジェネレーティブAI(※1)の急速な技術革新と実用化が進んだ結果、人工知能がどこまで業務を代替するかにさまざまな分野で注目が集まっており、同様の動きは営業分野にも及んでいる。
※1 コンピュータが学習したデータを元に、新しいデータや情報をアウトプットする技術
今回公開された「Future of Sales」には、当社がお客様の営業変革に携わる中で蓄積した知見に、AIの領域で実用化が進む技術要素とAI先進国である米国の営業現場の現状という最新トレンドを組み合わせることで、2030年から2040年にかけて日本で起こりうる中長期のインパクトを探り、未来予測をまとめている。
1. 機械学習、自然言語処理など、AI技術要素6分類の営業活用の現在地
2024年1月時点で、AI技術要素には「機械学習」「自然言語処理」「画像認識」「音声認識」「推論・探索」「データマイニング」の6分野が存在しており、現在ではそれぞれの技術要素が商談分析・記録、最適なアップセル・クロスセル機会の特定などの営業活動の一部を代替するかたちで活用が進んでいる。
- 機械学習:データからパターンやルールを自動的に学習する技術
- 自然言語処理:自然言語(人間が話す言語)を理解や生成する技術
- 画像認識:画像や動画から物体、人物、場所、動作、表情などを識別する技術
- 音声認識:音声をテキストやコマンドに変換する技術
- 推論・探索:既知の事実やルールから新たな知識や答えを導き出す技術
- データマイニング:膨大なデータの中から有用な情報や知識を発見する技術
2. 米国で進行中の最新トレンド「人が介在する営業を好まない買い手の増加」「タスクの約3分の1は自動化」「画像・音声など複数形式のデータをAIがシームレスに学習」
米調査機関の発表(※2)より、2021年時点で商品を購入する人(買い手)は購買プロセス全体の3分の2以上をリモートでの対話、またはデジタルを通じたセルフサーブ(※3)で取捨選択できることを望んでおり、人が介在する営業を好まない買い手が増加していることがわかっている。デジタルシフトにより対面とデジタルを組み合わせたハイブリッドセールスがますます進むと予測される中、営業に関わるタスクの約3分の1は自動化できることも他調査(※4)により判明。またさらなるAI活用に向けて、これまで活用が難しかった画像・音声などのテキスト以外の形式のデータをAIが学習可能な形式に変換し統合管理することが見込まれている。
※2「The future of B2B sales is hybrid」McKinsey & Company, 2022年4月27日
※3 顧客自身で製品やサービスの購入や契約について検討を進められること
※4「Sales automation: The key to boosting revenue and reducing costs」McKinsey & Company, 2020年5月
3. 2030年に訪れるAI技術の営業活用「AIペルソナで高度化する顧客の行動予測」「購買判断のドライバーに」「デジタルヒューマンによる商談」
2030年までの米国において、今後AIの実用化が進むと予想される領域として3点挙げ、その活用方法について解説している。
- AI顧客ペルソナで顧客の購買予測が高度化
オンライン・オフライン含む複数チャネルのからのデータに基づいて、顧客の動きをシミュレートできるAIにより、顧客ペルソナの精度が向上。これにともない顧客がもっとも製品・サービスに興味のあるタイミングでのアプローチや、解約のリスク発生前に問題解決に動くなど、未来に起こりうる事態を先読みできるようになることが予想されている。
- 購買判断のアシスタントからドライバーに
アラート・アラームの設定やテキストの読み上げなど、すでにAIによる購買行動のアシストは実用段階にあるものも存在しているが、2030年までに人間に代わって購買活動を行うAI搭載の機械「マシンカスタマー」により購買活動が一部代替されることが予測されている。ある調査では、総売上のうち20%をマシンカスタマーが動かすことになると経営者を含む意思決定層が考えているとされている。
- デジタルヒューマンが営業として商談実施
デジタルヒューマンとは、人間と対話できるように設計されているAIアバターである。言語だけでなく、ジェスチャーなどの非言語を活用したコミュニケーションをとることがすでに実現しており、営業活動においても人手不足解決の一手として一部の営業活動で活用される可能性が見込まれている。
4. 2040年の米国ではセールスオートメーションの高度化により人間の役割を代替、顧客体験の25%を機械が提供
2023年現在、すでに営業活動において事前に構築したプロセスに沿った定型メールの作成・送付や契約書の作成、ネクストアクションのレコメンドなどは実現している。一方で、組織を跨いだ適切なワークフロー設計や自動化機能の開発などは人間によって行われているのが現状である。
2040年には、AIによってセールスオートメーションがさらに高度化し、現在は人間によって行われている「意思決定」「改善方法の検討」といった業務の代替が進む可能性がある。米国で起こりうる変化として、反復的な業務は全て機械がデータ駆動で動き、人間は創造的、情緒的、独創的な仕事に専念することができることが期待されている。
5. 日本へもAI活用の波は到来。必要なのはツールではなく「AIが学習できるデータの整理・蓄積」
米国で先行して起こっている変化が日本に与える影響として「ルートセールスの衰退」「アカウントベースドマーケティング(ABM)の省人化」「THE MODELの一部自動化」「行動量が売りの代理店営業の淘汰」の4つの発生が予想される。加えて、AIが学習できるデータ基盤の整理などが日本でも特定の領域において重要となることが見込まれる。
6. 人の介在価値が残る領域「人間関係の構築」「顧客の微妙なニーズの特定」「複雑な交渉の進行」
米調査機関は、営業業務において今後自動化される領域が拡張しても、依然として人間の営業担当が購買プロセスにおいて価値を発揮し続ける役割について言及している。今後AIの活用が進んでも、ペルソナから外れた顧客への対応や、製品理解が難しい商材の提供、購買層が変化するタイミングの対応など、機知を働かせて介在価値を創出する役割は、人の手を介することで顧客体験の向上につながることが見込まれる。このような「優秀な営業担当」の特徴は今日も未来も大きく変わらないことが想定される。