「労働投入型」のままの営業部門
日本の製造業の労働生産性は、経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で、2000年時点の1位から、2020年には18位まで陥落し、国際競争力が著しく低下した。その背景には、製造業の3分の1を占めるホワイトカラーの中でも、とりわけ労働投入型の発想で長時間労働が常態化している営業部門の生産性に対する意識の低さが影響していると考えられる。「営業生産性」に着目することにより、製造業の競争力向上のためのヒントが見えてくるのではないだろうか。
営業生産性を語るうえで欠かせないのが、カスタマータッチポイント(顧客接点)の見直しであろう。デジタルチャネルを中心にカスタマータッチポイントが多様化する一方、日本の伝統的製造業においては、従来の営業スタイルから脱却できず、買い手側が望む/望まないに限らず、提案や見積もりから、問い合わせ対応や製品説明、納品、アフターセールスに至るまで、慣習的に営業担当者にすべて任せているところがいまだに多く見られる。
筆者はこうしたスタイルが営業生産性の向上を阻んでいる要因のひとつと見ており、その打開策として「カスタマーサクセス」という“機能”を伝統的製造業にも導入することを強く提案したい。
製造業の営業部門が抱える共通の課題とカスタマーサクセスへの期待
「カスタマーサクセス」とは、その名前のとおり「顧客の成功」を意味し、売り手側から能動的に顧客に働きかけ成功体験につなげていく活動全般を指す。既存顧客の深耕を主な目的とし、長期契約やクロスセルによってより多くの売上・利益を生み出すことが狙いである。
BtoB製造業に対するコンサルティングの現場で見られる営業系部門の課題や悩みには、企業の規模や取り扱い製品は異なれど、ある共通項がある。それは次のようなものである。
- 営業担当者が忙し過ぎて余裕がない
- 人はかんたんに増やせないので効率を高めたい
- 顧客の先にいるエンドユーザーの顔が見えない
- エンドユーザーが自社に何を望んでいるのかがわからない
- 顧客情報が私物化されていて組織的に蓄積・共有できていない
- 蓄積したデータや顧客情報が業務に活用できていない
- 顧客主導の受け身の営業スタイルから脱却できない
- 既存顧客のケアに奔走し、新規顧客の開拓ができない
これらの課題をすべて解決できるポテンシャルを秘めているのがカスタマーサクセスだ。LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)を最大化するという意味においては、カスタマーサクセスはCRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)のひとつの機能として捉えることができるだろう。カスタマーサクセスとカスタマーサポートの違いは、図2を参照していただきたい。