名刺管理から「営業を強くするデータベース」へ進化
Sansanでは、一般的な事業部ではなく「Unit」という単位で区切られた「マルチプロダクト体制」を採用している。久永氏は、そのうちの「Sansan Unit」におけるプロダクトマーケティングマネジャーを務める人物だ。2009年に同社へ入社したのち、ソリューション営業やカスタマーサクセスの責任者を経て、2015年にはCIOとして社内のDXの推進などに携わってきた経歴を持つ。現職に就いたのは2021年6月からだ。
Sansanでは現在、祖業である「名刺管理サービス・Sansan」以外にも、働き方を変えるためのDXサービスを複数提供している。たとえば、名刺作成から働き方をアップデートする「Sansan名刺メーカー」、請求書受領に関する「Bill One」、契約業務に関する「Contract One」、組織コミュニケーションに関する「Unipos」などだ。
主力サービスとしてのSansanは「名刺管理サービス」から「データベース」へと進化をした。この背景にあったのは、パンデミックをはじめとする社会情勢の変化や、デジタルツールの急速な普及などだ。久永氏は、Sansanの役割が変化してきたことについて、次のように説明した。
「プロダクトとしてのSansanは機能強化をし、マーケティングメッセージも一新しました。従来は“クラウド名刺管理サービス”として、営業業務を効率化し、働き方の改革やガバナンスの強化を提供してきましたが、現在は営業を強くするデータベースとして大きく進化をしています。Sansan自体がビジネスデータベースへと進化をし、企業の営業DXをより加速させていく、日々その姿勢でお客様や市場と向き合っています」(久永氏)
実際に、タグライン(企業や製品などのコンセプトを表すキャッチコピー)も、2017年の「営業を強くする名刺管理」から、2022年には「営業を強くするデータベース」へと変わっている。
企業データベースとは、「営業・マーケティング活動に最適な企業情報を標準搭載し、顧客との出会いの証である接点、これらの情報を組み合わせて活用できるもの」であり、「それによって営業アクションのストーリーを最大化するもの」である、と久永氏は説明した。
増収増益の企業はコロナ禍以前からデジタル化に着手
Sansanが実施した調査によれば、増収増益企業の多くがコロナ禍以前からデジタル化に取り組んでいたという。
「濃い色のグラフは、増収増益を続けている企業。水色のグラフは、減収減益となってしまっている企業です。テレワークの導入や、社内のペーパーレス化、ITソフトウェアの導入、DXの推進など、増収増益の企業は、コロナ禍以前からデジタル化へすでに取り組んでいたことがわかります。不確実な時代の中で、継続的に成長するための販売力・営業力を醸成するためにも、デジタル化は避けて通れないものになっています」(久永氏)
なお、売上を上げるには、新規の顧客の獲得は欠かせないため、既存顧客とのコミュニケーションも重要だ。業績が悪化してしまった企業群は、顧客との連絡の取りづらさや状況把握のしづらさを感じている傾向もあるという。
「顧客ニーズに対して最適な提案ができることを最重要視しつつ、リレーション構築や顧客に関する情報収集を実施しているのが、営業力が強い会社の共通のポイントだと見えてきます。困難な世の中において、企業の営業力を強化することに貢献していくのが、今回生まれ変わった“営業を強くするデータベース”であるSansanです」(久永氏)
Sansanでは、100万社を超える日本の主要企業の情報が標準搭載されており、上場企業を中心とした25万件の役職者の情報や、300万人を超えるような人事異動の情報などが提供されている。ここに、名刺交換によるビジネス上の接点なども追加されるのが同サービスの特徴だ。
接点情報×企業データが実現すること
企業データとは、一般的に、「社名」「従業員」「売上」「資本金」「業種」といった基本的な属性情報を指す。ただし、これらの情報だけによって、アプローチをしていく営業は非効率だ。一方、Sansanを使うことで、ここに接点の情報を紐付けられるという。
「お客様とコミュニケーションができるチャネルはどのようなものか。接点の情報があることによって、顧客へ直接アプローチすることができます。またそこで得た最新の情報を蓄積し、共有していくことで、常に顧客の最新の状態がわかります。それを理解したうえで、また顧客にアプローチをする。このサイクルを繰り返すことによって、営業の活動量を最大化できるのです」(久永氏)
また従来の「接点」は「名刺交換」に限られていたが、進化したSansanでは、オンラインのコミュニケーションもデータとして蓄積できるようになっている。
「新しくなったSansanでは、あらゆる接点をオフラインオンライン問わず蓄積し、共有することができます。『A社とは2年前に名刺交換の接点があった』『半年前にウェブからの問い合わせがある』『2ヵ月前に別の同僚がメールでやりとりをしている』『先週とある担当者がセミナーに申し込んだ』などお客様の状態を把握して、アプローチをする。いわゆる精度の高い仮説を立てることができます。結果、顧客に合わせた質の高いアプローチを行うことができるのです」(久永氏)
自社データ×Sansanで営業の質をさらに向上
つまり、Sansanは、企業データと接点データが組み合わさった企業データベースというわけだ。一方、「せっかくのデータをSansanの中だけに留まらせておくのは非常にもったいない」とも久永氏は言う。
「おそらく皆様の会社の中には、SFA/CRMやMAツールがあり、さらに言えば各営業担当の頭の中にも顧客情報が蓄積されているはずです。そこでSansanの企業データベースと、それらの自社で管理している顧客管理の情報などを連携することで、顧客の情報や状況をより正確に把握でき、営業アクションの質をさらに向上させることができるわけです」(久永氏)
新規開拓エリアや業界の選定も可能
久永氏は実際にSansanを活用する組織の事例をふたつ紹介した。
ひとつめの組織では、Sansanの導入によってリサーチや引き継ぎ業務をスムーズにしたり、オンラインやオフラインを問わずコミュニケーションの情報を正確に蓄積・可視化できたりする恩恵があったという。
ふたつめの組織では、顧客データを正規化・統合する「Sansan Data Hub」と合わせて活用することで、名刺のデータ化のコストや、クレンジングコストが改善された。たとえば、展示会開催からフォローまでの時間が3分の1に短縮され、データクレンジングにかかる時間も、月間35時間から12時間へ、3分の1に減少した。さらに、マーケティング起点での案件創出額も従来の2.3倍に広がっている。
なお発展的な活用事例として、「名刺分析」機能を使って新規開拓エリアや業界を選定する方法もあるという。
「たとえば、都道府県や業種などで絞り込むことによって、どの市場に注力すべきかが見えてきます。業種別で検索してみると、建設業は他業界に比べてあまり接触できていないことがわかります。いわゆる『白地(しらじ)』がある状況ですね」(久永氏)
さらに建設業に対して、従業員5,000名以上を条件に、企業を抽出するとリストが表示される。標準設定では、名刺交換接点順で表示され、どの企業との接点がもっとも多いのかがわかる。営業担当者はこのような情報をもとに、提案の仮説立てやアクションの実行などのフェーズへと移ることができるのだ。企業の最新動向を確認できたり、上場企業のAI決算分析レポートが自動的に作成されたりする機能も備わっているという。
クラウド名刺管理サービスからビジネスデータベースへと進化するSansanの重要な特徴をおさらいすると、(1)さまざまな顧客接点をデータとして蓄積できる、(2)企業データを標準搭載している、(3)データ自体が常に最新の状態へ更新入りされる、(4)システム連携によりデータの活用シーンを拡大できる──という4点が挙げられる。
久永氏は、「“営業を強くするデータベース”として進化したSansan。新規顧客開拓のみならず、さまざまな企業の営業活動に貢献をしていきたいと考えております」と講演を締めくくった。