育成に注力するために営業のプレイングマネージャーは存在しない
――転職でセールスフォース・ドットコムに入社されたと聞きました。千葉さんご自身も、営業として変化した自覚はありますか?
私は、社会人になってからずっと、商材は変わってもお客様にものを売る営業をやってきました。ハードウェアベンダーから、コンサルティングファームに転職し、2008年4月にセールスフォース・ドットコムに入社しました。中小・ベンチャー企業向けの営業部門を立ち上げるマネージャーが必要だということで興味を持ち、今でも同じ部門の責任者を務め、2020年で12年目に入ります。
入社して変わったかというご質問に対しては、「確実に変わりました。大きく進歩できている」と言えます。ハードウェアを売る会社では、実際にモノがありますから、対価が目に見えていました。しかし当社のようにソリューションを売っている場合は即時性のある成果は見えません。加えて、対価が出る前にシステム投資をしていただく必要がある。お客様にどのように対価を示すか、はじめはそれがとても難しいと感じていました。
――対価が見えないものを売れるようになったのは、どのような転機があったからでしょうか?
机上の空論でなく、実際の成功事例を証拠としてお話しできるようになったことです。まず自分自身の働き方が変わりました。自分が事例です。自分がSalesforceを毎日使うことで、よりお客様を理解できるようになり、より営業のスキルが磨かれました。次に、Salesforceを導入いただいたお客様の成功事例をお話しできるようになりました。しかし、自分がお客様に伴走し、成功していく姿を自分の目で見て、耳で聞いて、自分が納得するまでは説得力に欠けるとも感じていました。
実際にお客様がSalesforceを導入し、成果につなげ、成功体験を得ていただくには時間がかかります。今の言葉で言えば、お客様がデジタルトランスフォーメーション(DX)を体験するのを待つ必要があったわけです。ときにはお客様をお手伝いしながら、地に足のついた成功体験を身に着けていきました。
――営業組織を束ねる責任者でもいらっしゃいます。その視点での御社の特徴とは?
営業体制の戦略として、プレイングマネージャーを置かないのが特徴のひとつです。マネージャーにとっては、チームメンバーが直接のお客様です。同様に、チームメンバーのお客様が自身のお客様であり、チームメンバーの予算が自分の予算になります。直接担当するアカウントは持っていないわけです。その理由は、マネージャーが自ら動いて達成しなければならない予算を持ってしまうと、チームメンバーの育成に時間がとれなくなるからです。それほど、メンバーの育成は重要なミッションだと当社では捉えています。もうひとつ、営業マネージャーひとりあたり、チームメンバーは原則7人以下に抑えてメンバーのフォローを徹底して行うという方針でマネジメントを進めています。ひとりのマネージャーが教育可能な人数の最大値が7人であることがわかり、それを実践しています。
営業マネージャーが期待される成果はシンプルです。「チーム予算をきちんと達成させること」「メンバーの育成・開発」のふたつであり、どちらかをトレードオフすることなく、両方を達成しなくてはならないのです。セールスフォース・ドットコムには、営業向けに人材開発・教育を行うセールス・イネーブルメント部門があり、トレーニングを行ってくれますが、フィールドセールスのスキルアップにはOJT(On-The-Job Training)も欠かせません。OJTの仕組みや方法論については、私のような現場のマネジメントが常に考え、工夫を重ねています。私自身がお客様に伴走することで経験やスキルを習得できたように、同じ志で働いてくれる仲間を増やしていきたいと思っています。
――営業マネージャーの育成はどのように行われているのですか?
強い組織はミドルマネジメントがしっかりしています。中間管理職がすべてだと言ってもいい。だからこそ当社は、営業マネージャーの育成には非常に力を入れています。マネージャーになる1年以上前から選抜があり、四半期に一度は必ず研修を実施し、育てています。実際にマネージャーになってからも、上司からのマネジメント・コーチングが加わります。現状のマネージャー職は8割以上が内部からの昇格ですが、今後は外部からもっと積極的にマネジメント人材を採用し、多様性を実現していきたいと考えています。