営業担当者もよく理解していないSales Tech
登壇した松浦氏はアステリアでモバイルソフトウェアのマーケティングを担当する一方、Sales Techのエバンジェリストとしても活動している。アステリア(旧インフォテリア)は1,500件を超える豊富な導入事例を誇るセールス・イネーブルメント・ツール「Handbook」のほか、データ連携ツール「ASTERIA Warp」を代表的な製品として展開。
松浦氏は冒頭で、Sales Techの認知度に関する調査の結果を報告した。
着目すべきは営業部門における認知度の低さである。「詳しい内容を知っている」「内容を知っている」と回答した人はわずか4%だった。松浦氏はこの結果の背景を「営業部門は経営企画などの他部門と比べてシステムを使って業務改革を進めるという認識が低い」と考察した。実際、松浦氏が話を聞いた営業部門のマネージャー層には努力と根性の文化で奮闘してきた人が多く、売上が低ければ「1件でも多くお客さんを回れ」と言われ、新製品が出れば徹夜で資料を作成していたという。
調査企業のITRはSales Techを「営業活動をテクノロジーの力で効率化して成果を最大化するための新たな手法、活動」と定義している。認知度こそまだ低いものの、努力と根性だけに頼らない営業力向上を実現するためにSales Techが重要であると松浦氏は強調した。
下記の図1は、Sales Techの立ち位置を解説した図だ。顧客となり得る層に商品やサービスを認知させる段階で使われるのが「MarTech」、商品やサービスを認知し、興味を持ってくれた人に検討、評価、購入意思の決定、導入維持をしてもらう段階で使われるのが「Sales Tech」となり、代表的なツールのカテゴリとしてSFAやCRMが挙げられる。
次の図は、SFAやCRMの導入前後で製品への期待値と実際の効果に乖離が起こったかどうかを示すグラフだ。「案件/顧客管理の効率化」「営業/商談現場における顧客対応の効率化」という点は導入前の期待値が高く、導入後の効果も実感されている。一方で、「提案の強化」「営業スキルの標準化」という点においては導入前の期待度の高さに反して効果を実感できなかった人が多くいる。SFAやCRM単体で営業スキルの向上を目指す難しさがこの結果から見てとれる。
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セールス・イネーブルメントが営業力向上に有効なワケ
継続的に営業成果を出すための有効な取り組みがセールス・イネーブルメントである。松浦氏はふたつの要素でセールス・イネーブルメントを定義した。
ひとつめの要素は「セールスコンテンツの拡充」だ。営業の現場で使われるコンテンツの作成、更新、配信、管理、さらにはそのコンテンツの利用履歴を分析していくことが拡充の主な内容となる。コンテンツが拡充されると、どのコンテンツを誰がいつどんなシーンで使っているかという活用状況が可視化される。
ふたつめの要素は「トレーニングの実施」だ。素晴らしいセールスコンテンツを用意しても、活用することができなければ営業成績は上がらない。コンテンツを的確に使えるようトレーニングを実施することが重要となる。実施すれば個々の営業担当者の理解度やスキルが可視化される。
有効なトレーニングのひとつとして、松浦氏は「マイクロラーニング」を紹介した。数十秒、数分で終わるコンテンツをたくさん用意しておき、隙間時間に反復して取り組めるようにしておくというものだ。移動の多い営業担当者に適した手法であり、実施することで各営業担当者の進捗や習熟度がチェックできるようになる。
このふたつの要素が合わさると、優秀な営業担当者のノウハウが見えてくる。見えてきた成功ノウハウを現場に共有する。このようなサイクルを継続的に行うことがセールス・イネーブルメントの取り組みである。
では、具体的にどうセールス・イネーブルメントにとりかかれば良いのか。コンテンツの拡充とトレーニングの実施であれば、新たにツールを導入せずとも普段使っているファイルストレージやグループウェアを使って取り組めそうだが、「それらのツールにはいくつかの課題がある」と松浦氏は指摘する。
最大の課題は「運用のしにくさ」だ。ファイルストレージやグループウェアには営業以外のコンテンツも保管されているため、管理者がシステム部門の担当者である場合が多く、セールスコンテンツだけを抜き出して分析するのに手間がかかってしまう。また、オンラインが前提になってしまっているツールの場合は訪問先でネットワークに繋げられずファイルが開けないという問題が起こることもある。さらに、ファイルストレージやグループウェアにはトレーニング機能がついていない。セールス・イネーブルメントの要でもあるトレーニングを実施するとなれば、トレーニングツールを別途用意しなければならない。
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Handbookで賢く確実にセールス・イネーブルメントの効果を得る
「セールスコンテンツの管理、配信、分析機能」と「トレーニングの実施機能」のふたつを兼ね備えたツールとして松浦氏が提案するのが「Handbook」だ。モバイル端末向けのコンテンツ管理システムとして今年で10年目を迎え、導入実績は1,500件を超える。電子マニュアルやペーパーレス会議などに役立てられることもあるが、約7割のユーザーがセールス・イネーブルメントに関連した分野でHandbookを使っているという。
PC上のウェブブラウザでセールスコンテンツを登録すれば、現場の営業担当者が手持ちのデバイスで顧客にそのコンテンツを見せることができる。また、各営業担当者がコンテンツを星の数で評価したり、「使いにくい」「ここを改善してほしい」というフィードバックを管理者に届けたりすることができる。さらに、いつ誰がどんなコンテンツを参照しているのかを管理者が閲覧分析できる機能も搭載されている。コンテンツの管理に特化したツールならではの機能に加え、グッドデザイン賞を受賞したユーザーフレンドリーなUIも現場に定着している理由のひとつだ。
ここからは、Handbookを実際に導入して効果を得た企業の事例が紹介された。
セールスコンテンツの配信効率化と管理を行うためにHandbookを導入した東海東京証券。導入後は営業準備の工数が削減されたり、常に最新版のコンテンツを閲覧できたりと効果を実感した。また、社内向けセミナーの動画配信にもHandbookを活用し、若手育成のトレーニングコンテンツ作成にも役立っているという。
富士電機機器制御では提案資料を支店ごと、担当者ごとに作成するなど、営業活動の属人化が課題だった。「誰でも80点をとれる営業の実現」をテーマに掲げてHandbookを導入したところ、セールスコンテンツが統一されたことにより営業担当者の提案力が全体的に向上したという。今日紹介したマイクロラーニングのコンテンツ配信も行っている。
神奈川トヨタ自動車はある店舗でショールームにHandbookを導入し、待ち時間に顧客が自動ブレーキの動画などを見られるようにしたところ、新車の受注台数が大幅に伸びた。同様の取り組みがほかの店舗にも横展開されたという。
全国拠点で健康食品の販売を行うサン・クロレラ販売。コンテンツのアクセス状況をグラフ化できるHandbookの機能を活かし、新規獲得件数上位の営業担当者がどのセールスコンテンツを使って成績を伸ばしているのかを可視化したところ、製造工程を説明する動画コンテンツがもっとも見られていたことがわかった。
動画で製品の品質をアピールして売上につなげるという営業スタイルを全国の営業所に展開し、組織的な商談スキルの向上を目指した同社の取り組みを松浦氏は「これこそが、セールス・イネーブルメントの好事例」と評した。
さいごに松浦氏はセールス・イネーブルメントにおける継続の重要性を強調し、セッションを締めくくった。
「セールス・イネーブルメントが目指すのは、セールスコンテンツを拡充し、トレーニングを繰り返すことで、売れる営業ノウハウを一般化し組織に定着させること。つまりチームを活性化させ、営業力を底上げすることです。それには繰り返し、そして継続していくことが非常に重要です。ツールを上手く活用すれば早く成果が得られるでしょう」