徹底的に「お客様の成果」に向き合う
BtoBマーケティング・営業DXの専門家集団
──MA/CRM/SFAなどのテクノロジーを活用しながらBtoB企業のマーケティング・営業DXを支援するFLUEDを2019年に創業されています。松永さんのバックグラウンドからうかがえますか。
2007年ごろ、「SaaS」という言葉もまだ広がっていない時代に、ソフトウェアのパッケージ販売を行う営業としてキャリアをスタートしました。いわゆる「THE・営業」と言える、アナログな組織でした。しかし、そのころから自分なりにCRMの走りのようなものを運用していたんです。たとえば、お客様の状況をExcelに書きとめ、次はいつ、どんな連絡をすると良いかをまとめておく。周囲のメンバーからも「それ、良いね」と言ってもらえて、組織内でも少しずつ広まっていきました。
2008年に、その会社に入社した優秀な方が、日本ではまだ広まり始めたばかりだったSalesforceの導入を社内で起案します。ベンダーからの提案を一緒に聞くなかで、「営業組織に必要なのはこれだ!」と感じたのが原体験のひとつですね。
──かなり早い段階で、SFA/CRMの可能性や必要性に気づかれたのですね。BtoBマーケ・営業DXの専門家集団としてビジネスを支援していこうと思われた背景もうかがえますか。
支援企業に目を向けると、BtoCは競合が多い一方、複雑で難しさがあるBtoBマーケ・営業DXの支援を行う企業はまだまだ少ない。伸びしろがある、やるべきことがある領域だと感じていました。また、BtoBのビジネスには必ず「稟議」のようなプロセスが入ります。つまり、ビジネスプロセスにロジカルな判断が存在する。そのため、より「再現性」の高い支援が可能だと考えました。
──マーケティングのみ、もしくは営業支援のみなど絞った支援を行う企業も多いですが、FLUEDではマーケティングから営業、バックオフィスまで、もっと言うとオンラインからオフラインの施策まで幅広くカバーされていますよね。
ウェブマーケティングでたくさんリードが獲得できていたとしても、それがオフラインの営業活動に活きていないとしたら意味がありません。創業当時から、顧客の成果に向き合うためにも、ウェブマーケティングから営業まですべてを支援しようと考えていました。
「コンテンツマーケティングの支援会社」「BtoBウェブ広告の運用会社」だと、ひとまず、その施策を提案するしかありません。そうではなく、さまざまな施策の中から、お客様が今何から行うべきか。CRM整備から始めるべきなのか、まずはリードを獲得するところなのか、資産となるコンテンツづくりに取り組むべきか、すでにつながりがある顧客との関係性構築のためにインサイドセールス組織を立ち上げる必要があるのか──。そういった優先順位をつけて施策を動かすべきで、必要な支援をお客様が1つひとつ別の会社に依頼しないといけない状態は、ためになりません。
自分自身、キャリアの中で「自分の得意分野のサービスやツールを売りたい営業の人」と見られてしまったことがあると思います。目指すべきは、お客様が成果を出すことであり、その手段が固定されることへの違和感がありました。ビジネスモデルとしてベンチマークしているのは総合コンサルティング会社。BtoBマーケ・営業DX領域のアクセンチュアを目指しています。
もちろん、当社のビジネスとしても、提案のバリエーションが多いほうが、お客様とご一緒しやすいという視点もあります。そのため、常に中立な立場かつ、お客様目線でフラットにツールを選定しています。たとえば、HubSpotだけではなく、SalesforceやMarketo 、SATORI、Zendeskなど、あらゆるソリューションをお客様に提案します。あくまで、お客様に合わせてツールを一緒に選んでいくのが当社のスタンスです。
BtoBマーケティング・営業DXを阻む壁に
有効な「クロスファンクショナルKPI」
──幅広く支援を行うなかで感じる日本の営業組織の課題はありますか。
本当によくある課題ですが、マーケティングと営業の分断は依然として存在しています。そもそも日本では、マーケティング組織がない企業も多かったですが、2010年代から現在にかけ、営業企画もふくめてマーケティングの役割を担う組織が増えてきました。そして現在、海外ではマーケティングから営業まですべてを掌握するCRO(チーフ・レベニュー・オフィサー)が設置される流れが進みつつあります。
──そのような課題に対してHubSpotのソリューションや御社の支援はどのように寄与するのでしょうか。
HubSpotは、マーケティングと営業の壁をなくすために有効なソリューションのひとつです。マーケティングのリード獲得から、営業活動、カスタマーサポートまですべてに必要な機能を網羅しているのですが、いちばんのポイントは顧客のデータベースがひとつだという点です。
それぞれの企業の要件や状況にもよりますが、一見すべてがつながっているようなツールでも、通常は「データ連携」が必要です。そして前述の「マーケティングと営業の壁」が生まれるのも、データ連携がなされていないことが原因と言っても過言ではありません。どうしても、営業はSFAしか見ない、マーケティングはMAしか見ないものです。
表現が難しいですが、正直「仲が良くない」組織もあると思うんです(笑)。その仲介から行うことも、我々の重要な仕事のひとつだと思っています。マーケティングと営業、双方が大事にしていることや、言い分がありますから。
そこで、我々が提唱しているのが、「クロスファンクショナルKPI」です。マーケティングはリード獲得件数やMQLの創出件数、営業は受注数などが目標になりやすいですよね。それはもちろん大切な指標ですが、それに加えてお互いの目標に重なるサブ目標がクロスファンクショナルKPIです。
その壁を乗り越えるためには、戦略も一気通貫で立てていく必要があります。マーケ部長と営業部長で戦略が違うとひずみが発生してしまうのは想像に難くないでしょう。
──ツールや顧客データ、そして組織。あらゆる面で、組織間が連携して改革に挑む必要があるんですね。
実際、我々がお問い合わせをいただく段階では、マーケティングか営業、どちらかの責任者の方だけということが多いです。話をしていくうちに自然と「営業の人も巻き込んで設計したほうが良いのでは」という提案になり、全体設計に入らせてもらうケースが多いですね。
──連携の重要性は皆さん重々承知のうえではあると思うのですが……。でも、難しいものですよね。
たとえば、「有効商談獲得数」。リードが増えているのに有効な商談が少ないとしたら、それはなぜか、そもそもリードが適切ではないから、有効商談が増えないのか──。「これってなんでですかね?」「どのようなチャネルで見込み顧客と接点を増やすと良いでしょうか」と両者の会話が発生していきます。そこでHubSpotのようなひとつのCRMを活用していれば、クロスファンクショナルKPIを追いかけやすいのは間違いありません。
マーケと営業の壁を超えOneCRMを実現
「うちには合わない」はもう通用しない
──実際の支援事例についても教えてください。
マーケティングと営業の間に壁があり、機能が分断していた企業のご支援に入りました。その際は、マーケ責任者・営業責任者のコミュニケーションの仲介もしつつ、「あるべきKPIの設定」「MA・CRM・SFAのあるべき姿」を議論しHubSpot導入支援を行いました。これにより我々の理想としている「OneCRM」が実現でき、売上(KGI)や有効商談数(KPI)も伸ばすことができています。
マーケティングと営業の共通指標が見えやすくなることで、顧客の理解が進み、良い成果を出せることはやはり多いため、このようなアウトカムを得てもらうことは大切にしています。これは比較的大規模な企業の事例でしたが、HubSpotは無料版から使い始めることができるため、中小企業はもちろん、数人規模の組織から導入にチャレンジできます。やりたいことが増えてからも、月2~3万円でいろいろなことができる。活用する人数が増えれば当然金額は上がりますが、数百人規模になっても、リプレイスをせずに同じツールを活用できるのはとても良いところだと思っています。
──幅広い企業で活用できるのは魅力的ですね。マーケティング・営業組織の変革、DX顧客理解において、CRMが中心的存在を果たすのは間違いないと感じるのですが、それ以外の支援を含めてFLUEDさんの今後のチャレンジについてうかがえますか。
たとえば、「FINDFOLIO」という自社開発のツールも提供しています。これは、もともとお客様の改革支援の過程で、法人情報や企業情報の付与を当社がBPOで提供していたものをSaaS化したものです。1社のお客様の課題を掘り下げていくと、実はほかの企業様も同様の課題を抱えているケースが多い。このように自分たちがやってきたことをSaaS化するような取り組みを行っています。最近つくったのは、CRMの中の部署や役職情報をChatGPTで仕分けするツール。これもお客様の課題から生まれました。
加えて、まだ日本に入ってきていないHubSpotとも連携できるセールス・イネーブルメントツールやウェビナー管理ツールといったマーケティングツール、Sales Techの日本での販売にも注力していきたいです。
私自身、それらの情報にキャッチアップするために毎年さまざまな海外カンファレンスや展示会に参加し、現地の方々と直接やりとりをしています。「こんなに便利なのにまだ日本で使われてないのか!」と思えるツールがまだまだたくさんあります。このようなツールを日本で販売して、日本企業の皆さんの支援を加速させたいと考えています。
2024年3月からは、AI議事録ツール「tl;dv(ティーエルディーブイ)」の日本市場における初のパートナーとなりました。tl;dvはZoom、GoogleMeet、Teamsなどで実施した会議を録画し、AIによる議事録や録画情報の生成を可能にします。重要なシーンをクリップした画像やショート動画を生成し、保存することで臨場感、説得力に優れた会議要約を他者と共有できます。もちろん、HubSpot、Salesforce、Notion、Google Docs、Slackなどさまざまなプラットフォームともシームレスに統合できます。
──BtoB企業のDXを実現するために、海外ツールの販売という角度からもケイパビリティを高めていかれるんですね。
海外のツールもかなり取り入れやすい環境になりましたが、「日本の商習慣は特殊だから」「海外のツールは合わない」とおっしゃる方もまだまだ多いです。GDPも下がり続けて、日本の経済が決して良い状況でないのは皆さんご認識のとおりで、「うちには合わない」に甘んじていては、変化できません。
『業務効率化からはじめるBtoB 営業DX BtoB営業もここまでデジタル化できる!』(信長出版)という共著を2022年に上梓したのですが、やはり生産労働人口も減る中で、海外のツールを含めていちばん便利なものを活用していくことは、もう避けられないはずです。今までのやり方や仕組みだけでは成長していけないところにきています。ぜひ、この機会に新しい仕組みでもツールでも良いので、チャレンジしてみていただきたいですね。
──ありがとうございました!