あなたの「顧客」は誰なのか?
向井(ウェルディレクション) 企業に対する営業アドバイザーの仕事をしながら、大学院でIT業界の営業を対象にした研究もしてきました。
さまざまな企業と接する中で、「営業」という言葉の解釈がさまざまだと感じています。一方で、研究を通じて「営業は売ることを目的にした活動ではない」という確実な解釈のひとつを得ることもできました。「営業=販売」ではなく、販売はあくまで営業の手段のひとつ。今日はそのような前提で「顧客視点」について議論できればと思っています。
向井 経営者、マネージャー、現場、それぞれに「あなたの顧客は誰ですか」と投げかけると、その解釈も非常にさまざまです。インサイドセールスにとっては「現場担当者の方」だったり、フィールドセールスに聞くと「役員層の方」だったり、カスタマーサクセスにとっては「ユーザー」だったり……。接する対象が違うとはいえ、組織の中で「顧客」という言葉で想起される相手があまりにもバラバラだとしたら、正しく顧客を理解できている状態とは言えないかもしれない、という問題提起も最初にさせていただきます。
高広(スケダチ) 私は長らく『デジタル時代のB2Bマーケティング講座』という私塾をBtoB企業のマーケティング担当者や営業企画担当者向けに提供しているのですが、そこで使っているペルソナ作成シートの一部に「DMU(ディシジョン・メイキング・ユニット)」を図式化したものがあります。
高広 BtoB取引では購買に複数の人が関わることが普通です。この購買に関わる関係者のまとまりのことを「DMU」といいます。私が提供している資料はこのDMUを理解・把握し、マーケティング活動や営業活動を行うための資料です。BtoBの取引は、ラグビーのような「スクラム型取引」と言われることもあります。つまり、売り手も買い手も人数が多い環境の中で、どのように取引を進めるべきかを常に考えなければなりません。顧客企業の規模は関係なく、「ひとりで意思決定をしない」企業であれば適応できる考え方です。DMUは、ふたりのこともあれば、6人、10人のこともあるでしょう。
向井 「あるある話」をしても良いですか。DMU図内の「ペルソナ本人」は現場の方や現場のマネージャークラスが多いと思います。ただし営業はペルソナ本人の直属の上司などに会いたがり、「意思決定者を連れてきてください」と頼みますよね。しかし、「ペルソナ本人」からすれば、上席を連れてくるための合理的な説明ができない限り、呼ぶことはできません。
使う人でもある現場の方々も大事な顧客です。導入後に現場がきちんと活用できなければ、顧客企業は購買後に期待していた変化を得られません。営業は現場の人に嫌われてしまうようなコミュニケーションをしていてはだめなんです。まずは目の前の人と向き合う、その人が導入したいと思ってくれてから、「意思決定者に対する作戦を練りましょう」「首を縦に振ってもらえるようにこの提案書のレビューをしてもらえますか」と仲間になってもらえるように巻き込んでいかなければなりません。