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営業の仕事は「売る」ことなのか? 「Buyer Enablment」をめぐる冒険

2024年7月12日(金)13:00~18:20

常に高い売上目標を達成し続けなければいけない営業組織。先行きの見通しが立たない時代においても成果を挙げるためには、過去の経験にとらわれず、柔軟に顧客や時代に合わせて変化し続けなければなりません。変化に必要なのは、継続的な学びであり、新たなテクノロジーや新たな営業の仕組みは営業組織の変化を助け、支えてくれるものであるはずです。SalesZine編集部が企画する講座を集めた「SalesZine Academy(セールスジン アカデミー)」は、新しい営業組織をつくり、けん引する人材を育てるお手伝いをします。

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[10万部突破記念]『THE MODEL』に寄せられた質問・疑問に福田康隆氏が回答


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 2019年1月の『THE MODEL』(翔泳社)出版から丸5年が経過しました。当初はIT業界の中でもSaaS関連の一部の人たちが手にとってくれればと考えていましたが、このたび10万部を突破したと聞き、私自身がいちばん驚いています。出版後はITだけでなく、製造、金融などさまざまな業界の方から講演の機会をいただきました。時には就活生の方から質問を受けることもあり、本当に幅広い層に読んでいただけたと実感しています。この場を借りて御礼申し上げます。またこれらの機会を通じ、本書がさまざまな解釈のされ方をしていることにも気がつきました。今回はこの5年間を通じて、もっとも多かった質問や意見に対して回答したいと思います。すでに読んでいただいた方だけでなく、これから読んでみようという方にも何かしらのヒントになれば幸いです。

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「THE MODEL型」はどのような企業にも適用できるのか

 これまでに受けた中でもっとも多い質問です。しかし、そもそも私は「THE MODEL型」という言葉を一度も使ったことがありません。むしろそのようなものは存在しないことを本書には書いています。

気になるのは、私に質問する多くの人が、組織体制や評価指標だけを単純にまねようと、形から入るケースが目立つことだ。どの会社にもそのまま適用できるモデルなど存在しない。自分の会社にとっての「ザ・モデル」を創造することを目指してほしいという思いから本書を執筆することになった。(『THE MODEL』はじめに p.xix~xx ※ローマ数字表記)

 とくにSaaS関連の仕事をしている人は、『THE MODEL』を読む前からセールスフォース・ジャパンが提唱する「The Model」について見聞きしたことがある人が多く、この本を「SalesforceのThe Model解説本」だと思っている人も多いでしょう。それらの人は共通して「マーケティング・インサイドセールス・営業・カスタマーサクセス」で分業体制を敷き、商談化率や受注率といった中間指標を管理するものだと考えています。しかし、それはある特殊な環境下で、限定的な目的のために生まれたプロセスに過ぎません。

本来は、大手企業の市場を攻略するアウトバウンド型のアプローチやパートナー企業との協業など様々なパターンにもとづくフローが存在するのだが、この時は日本でまだ展開されていないインバウンドリードを軸としたSMB市場向けのフローを導入することが目的だったため、私たちはこのパターンに特化した資料を議論しながら作り上げた。ミーティングの最後に、新しいコンセプトをしっかり伝えて受け入れてもらうためにも何かわかりやすい名前があったほうがいいだろうということになり、「これが我々のスタンダードなのだ」ということを表すため、「ザ・モデル」と名付けた。(『THE MODEL』第3章 p28~p29)

 そしてそのようなオペレーションが「Salesforceの成功の源泉」であるかのように言われることもありますが、実際はそうではありません。そもそもSalesforce本社にThe Modelという言葉は存在しません。『THE MODEL』はむしろそのような誤解を解こうとして書いた本です。本のタイトルを大文字にしているのはThe Modelのフレームワークと区別し、その裏にある考え方や原理原則に焦点を当てたいと考えたからです。

自社に「8つのフェーズ」「インサイドセールス」は必要か?

 書籍を執筆しようと考えたのは2017年末ごろでした。当時マルケトの社長に就任して数年が経過していましたが、SalesforceとMarketoを連携して活用している顧客企業が多く、Salesforceの活用についても個別に相談をされることがよくありました。

 あるとき、数社から「SalesforceのThe Modelを知り、早速取り入れています」「Salesforceに倣って商談フェーズを8段階に設定して運用を開始しました」「当社でもインサイドセールスを立ち上げました」という声を立て続けに聞き、違和感を抱いたのです。それらの会社が「自社の商談管理に8つのフェーズが必要なのか」「インサイドセールスは必要なのか」について深く検討した様子がなく、盲目的に真似をしようとしているのではないかと感じたからです。

 そのうちの1社は顧問紹介サービスを提供している会社で、初回面談から受注まで平均1~2回の面談、多くても3回で決着がつくということでした。商材の特性と提案プロセスを聞いていくうちに商談を8フェーズに細かく分ける意味はないと思いましたし、現状のリード件数を見るとインサイドセールスと営業を分けずに、同じ人が対応するほうが良いのではないかと感じました。

 なぜなら同社の抱えていた見込み客はサービス内容を理解していて、ニーズがあるかどうかも明確でした。受注の鍵は、数点の確認ポイントやタイミングです。提案機会があるかないかの判断はシンプルで、わざわざ営業と別にインサイドセールスによる見極めのステップをおくほどでもありません。ただし、競合他社のサービスを同時検討することが多いため、ヒアリング後に営業にパスする過程でタイムロスが出れば、競合に奪われるリスクが高まります。その懸念について意見したものの、「Salesforceのベストプラクティスを取り入れて実践したい」という意思は強く、方針は覆りませんでした

 このようなケースに何度か遭遇するうちに、危機感とモヤモヤするものを感じました。とはいえ個別訪問で説明するのは効率的ではないし、セミナーのように限られた時間では伝えたいことの一部しか伝わらない。さらに、Salesforceを退職した身で中途半端な情報発信をすれば、あらぬ誤解を招かないとも限りません。そこで自分の伝えたいことを可能な限り詰め込む手段として本を執筆することを選びました。

 最初はどのような会社にも当てはまるようなフレームワークを表現できないかと考えましたが、考えなければならない変数があまりにも多すぎます。むしろ必要なのは、「どのような環境下でどのような意思決定が行われたのか」。それを知ることがビジネスの「原理原則」を知る最善の方法だと考えました。

「成功モデルを作り上げる過程に関わっていた人と、できあがった後に関わった人の間には大きな隔たりがある」ということに気づいた。成功モデルとは完成したモデルではなく、完成に至る過程で行われた何百何千という意思決定のプロセスそのものだからだ。それを自分のものにすれば、環境や条件が変化しても自ら対応できる。(『THE MODEL』はじめに p.xix ローマ数字表記)

 このような考えから第1部、第2部は自伝的な内容になってしまいましたが、可能な限り当時の状況がわかるようにストーリー仕立てにしています。読み飛ばした方も多いと思いますが、当時の背景を理解し「自社ならどうすべきか」を考えるヒントにしてもらえると幸いです。

「THE MODEL」はリードが豊富にある会社や大きな組織でないと機能しない

 最近は「THE MODELの弊害」に関する情報発信も目にするようになりました。2017年末の状況から比べると進化したという気持ちが半分、自分の伝えたいことが思うように伝わっていない気持ちが半分あります。冒頭で述べたように「THE MODEL型」という概念は存在しないと言いつつ、マーケティング、インサイドセールス、営業、カスタマーサクセスという分業体制がSaaS企業で一般的な組織体系であるのは事実であり、まずそれに倣ってみることは悪いことではありませんが、表面的な理解だけでは壁にぶつかってしまいます。書籍の中では私自身が経験した壁についても触れながら解説しています。

ただしこのモデルを「マーケティングが獲得した新規リードをインサイドセールスが素早くフォローして、商談として進められるものを選別し、営業に引き渡す」という分業によるオペレーションとだけ理解していると、実行段階で行き詰まるはずだ。残念だが、そのやり方ではもはや通用しない時代になった。(『THE MODEL』第4章 p40~p41)

「The ModelはSMBで単品製品でしか通用しない」「Salesforceのようにリードも豊富にある、巨大な組織だからできることだ」という意見もあります。

 しかし、そもそもリードを獲得してふるいにかけていくようなやり方では、最初の投入量となるリード数を永遠に増やしていかなければならず、SMBでも単品製品でもうまくいきません。また「The Model」を日本に持ち込んだ当初は、日本法人も米国本社も創業してから数年しか経過しておらず、決して潤沢なリソースがある組織ではありませんでした。

『THE MODEL』をきっかけに2000年代初期のCRM市場を研究してもらうと、なぜ今のSaaSの標準的な組織が生まれたかという経緯が理解でき、今の時代に活かせるヒントが見えてきます。実際にこのストーリーは「Creating a Blue Ocean in the B2B space」というタイトルでブルーオーシャン戦略のケーススタディーになっています。

  • 2000年代初期のエンタープライズ企業向けCRM市場はシーベルが圧倒的なシェアを持っており、Salesforceは未開拓だったSMB市場に戦略的に投資をした。
  • デジタルマーケティングの登場で、マス広告に依存していた時代に比べて低単価でリードを獲得しやすくなった。一方で数が急激に増えたことにより、提案活動や既存顧客のフォローなどで時間を取られる営業は、せっかくの見込み客をフォローできていなかった。
  • 2000年代初期、米国でもまだ知名度が高くなかったSalesforceは外部からトップクラスの人材を採用することが困難で、未経験者など若手を中心に採用してインサイドセールスのチームを作り、フォローできていなかったリードをフォローする体制を構築し、その後営業へステップアップしていくキャリアパスと教育体制を実現した。
  • エンタープライズは営業自ら商談発掘するスタイルだったが、パイプライン作成に苦戦する営業も多く、SMBのパイプライン作成にインサイドセールスが機能していることを見て、エンタープライズでも役割分担をするための部門を立ち上げた(現在のBDR)。

 上記はほんの一部ですが、このような経緯からスタートしたSalesforceの組織も、その時々の課題に合わせてどんどん変化しています。同じSaaS企業でも会社の規模や製品特性などによって、部門、役割、人数配分などはさまざまです。「The Model」が機能している機能していないという話はナンセンスで、組織やオペレーションは常に変化するもの。外部環境・内部環境に変化が起きたときにどう判断すべきか、その考え方そのものが私にとっての『THE MODEL』です。

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「分業」体制の弊害について

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この記事の著者

福田康隆(フクダヤスタカ)

ジャパン・クラウド・コンサルティング株式会社 代表取締役社長。早稲田大学卒業後、日本オラクルに入社。2001年に米オラクル本社に出向。2004年、米セールスフォース・ドットコムに転職。翌年、同社日本法人に移り、以後9年間にわたり、日本市場における成長を牽引する。2014年、マルケト入社と同...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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