「ツールありき」の発想が、営業DXを阻む要因に
NEC VALWAYは、2001年創業のBPOベンダーである。創業以来20年蓄積してきた非対面営業のノウハウを、NECグループをはじめ多くの顧客に提供するとともに、昨今はDX、IS(インサイドセールス)およびMA(マーケティングオートメーション)の運用支援も行い、総合的なBtoB向けセールスマーケティング支援サービスを展開している。
水嶋氏は、グーグル、マイクロソフト、デルで16年間にわたりBtoBとBtoCのISのマネジメントを行ってきた。その経験を基にグローバル・インサイトを起業し、同時にNEC VALWAYのエグゼクティブコンサルタントとして、ISや営業DX運用のコンサルティングサービスを提供している。
冒頭で水嶋氏は、PwCコンサルティングの「日本企業のDX推進実態調査2023」のデータを引用し、国内企業におけるDXの現状を説明。「DXの取り組みで十分な成果が出ている企業は10%程度で、何らかの成果が出ているという回答は55.6%。多くの企業ではあまり成果が出ていません。とくにコロナ禍からDXを開始したような、取り組み期間が3、4年以内の企業群では、まだ成果を感じている企業は少ないのが実情です」と述べ、DX推進の難しさを指摘する。
そのような状況の中で、営業DXで成果が出ている企業群には共通の要素があるという。それは、単純にデジタルツールの導入だけをしているのではなく、戦略から実行プランまでを総合的に捉えて実施していることである。
「効果が出ていない企業は、先にツールありきで始めている印象です。営業DXは、事業戦略と体制構築、実行プランをしっかりとつくってから進めていく必要があります」(水嶋氏)
営業DXを阻害する6つの壁とは?
実際に戦略と体制構築、実行を進めるにあたっては、「企業内には営業DXを阻害する6つの壁が存在している」と水嶋氏は言う。それは「組織間連携の壁」「人材マネジメントの壁」「プロセス構築の壁」「評価指標の壁」「目標設計の壁」「カルチャーの壁」である。
まずひとつめの「組織間連携の壁」とは、営業活動が「マーケティング」「IS」「FS(フィールドセールス)」など、役割や機能で分業されるようになったことで、組織間で意識が統一されず、業務がうまく回らないという問題である。
水嶋氏は「解決するのは難しい問題」と前置きしつつ、効果的な手法として、協働する部門間で一緒に共通評価項目を設定することを挙げる。
「KPIや目的を縦割りで決めるのでなく、横で連携して決め、KPIの妥当性をしっかり認識することが大切です。なぜこのKPIを他部門が持つのかを理解すれば、お互いを認め合うきっかけにもなります。それによって壁を低くしていくのです」(水嶋氏)
決めたプロセスが形骸化……「要件の具体性」が壁を突破する鍵に
ふたつめの「人材マネジメントの壁」とは、ISやマーケティングなど「社内に今まで存在しなかった職種」をマネジメントする際に立ちはだかってくる。壁ができてしまう原因としては、新しいスキル習得への対応やノウハウ不足が挙げられるという。
それらの問題を解決する際には、「外部からの人材採用」と「トレーニングの導入・実践」というふたつのポイントがあると水嶋氏は語る。
「マネジメント人材を採用する際には、業務プロセス設計や社内交渉のスキル、リーダーシップを重視します。トレーニングは社内のリソースでまかなうのは大変なので、外部のサービスを有効活用するべきでしょう」(水嶋氏)
続いて、3つめの「プロセス構築の壁」は、マーケティング、IS、FSが相互に協働していかなければならないときに、一旦決めたルールが形骸化したり、ルールが厳しすぎてうまく運用できなかったりする問題である。結果として顧客対応が疎かになり「機会損失」が発生してしまう。「この壁は、かなり大きな障壁です」と水嶋氏は言う。
その壁を解消するためには、リードを引き渡す条件・ルールを決める際に部門間のプロセスを属人化させないように、細かい要件の具体例をつくっていくことが重要だという。
「受注確度を上げるために活用するBANT(Budget:予算、Authority:決裁フロー、Needs:必要性、Timeframe:導入予定時期)のフレームワークに、お客様や商談の規模、お客様の“熱意”などを加味した具体的情報を加えて、組織内で合意したうえで運用していきます。それを繰り返していくことが大切です」(水嶋氏)
4つめの「評価指標の壁」は、リードを評価するにあたり、“量”の視点を重視することで生じる壁である。たとえばISが量を求めて何度も相手に電話し、強引に商談を設定して、FSに質の悪いリードを渡してしまう。顧客に悪い印象を与えるため「失注どころか評判も落としてしまうことになりかねない」(水嶋氏)という大きなリスクを孕んでいる。
そのリスクを回避するためには、最初に設定したKPIをアジャイル型で何度も繰り返して決め直していくことが有効だ。
「実のところ、評価指標に正解はありません。そこで設計→実施→評価→改善というサイクルをアジャイル型で細かく回していくことで適切なKPIを模索し続け、評価指標を形骸化させず、ネガティブな作用を引き起こさないようにします」(水嶋氏)
「アジャイル型の発想」は6つの壁すべての課題解決に共通する
5つめの「目標設定の壁」は、組織間での共通目標や連携意識がないことで生ずるもので、代表的な発生要因は「自分の組織さえ良ければ良い」という思考である。
解決するための方法として水嶋氏は、共通の目標を持つことを挙げる。
「営業利益、粗利益、売上という目標を、マーケティング、IS、FS全員で連携してしっかりと持つことを勧めます。バランスの持たせ方はそれぞれで異なりますが、共通の目標を持てれば必ず壁をクリアできるはずです」(水嶋氏)
6つめの「カルチャーの壁」は、部門間の問題ではなく、人に属する問題であるとのこと。昔は良かったと言う「過去の栄光派」や、改革を口にするものの実際は変える気はない「口だけ保守派」など、新しいことに取り組もうとする際には反対勢力が出てくるのが組織の常である。
そこを乗り越えるためには、「仕組みづくり」と「意識改革」というふたつのポイントを意識する必要があるという。
「まずは1から5の壁に対応し、それをしっかり運用するためのルールと、ルールを柔軟に変えていく頻度を決め、業績評価に組み込んでいくという一連の仕組みづくりを行います。意識改革に関しては、リーダーが周囲と何度もコミュニケーションをとり、取り組みの意義を粘り強く伝えてください。その際には、インナーマーケティングを行うくらいの心持ちが必要です」(水嶋氏)
また、6つのすべての壁の課題解決に共通するのが「アジャイル型の発想」であるという。「何度も改善活動を繰り返して、6つの壁の問題解決に取り組んでほしい」と水嶋氏は説く。
NECの営業デジタルシフトのノウハウをまとめた「営業DXオファリング」
セッションの最後に水嶋氏は、自社の営業DX支援サービスとして、NECの営業デジタルシフトのノウハウをまとめた「営業DXオファリング」サービスに言及した。同サービスは、自社の状況に合わせてパッケージの中身を選ぶことができ、戦略に合わせた営業・マーケティングの組織改革や、自社リソースでできない部分、スキルの足りない部分を補えるという。
「営業DX戦略の立案に加え、テクノロジー領域ではSalesforce(SFA)やMA、PBX、企業データベースの活用に向けた導入支援を行います。人材デリバリーの領域では、ISのBPOのほかに、ウェブマーケティングやオンラインイベント、データ分析の知見を持った人材を擁しております。内製化したい企業にはトレーニングも提供し、営業DXを一括でご支援します」(水嶋氏)
営業DXオファリングのバックボーンとしては、1,000プロジェクト以上の実践経験があるという。
水嶋氏は「我々の経験を活かして営業DXの推進に貢献し、日本企業の営業とマーケティングの成長に寄与していきたい──。そのような思いでサービスを提供しています」と、自身のセッションを締め括った。