インサイドセールスにおけるトークスクリプトの役割と必要性
インサイドセールスが統一されたアプローチで顧客とのコミュニケーションを深めていく営業手法だ。その際に重要になるのがトークスクリプト。トークスクリプトとは、リードの選別や育成、商談化などのプロセスで何をどのように伝えたらいいのかというシナリオに基づいて作られた、営業上の「台本」のような役割を担います。
トークスクリプトが、インサイドセールスに不可欠な理由は、営業力の維持向上のためです。例えば、担当者によって言葉遣いや、案内する情報の違いがあると統一されたアプローチができません。組織として営業力を維持するためには、いつ誰が担当しても同じように対応することが重要です。
そのために必要なのが、営業プロセスを統一した(標準化した)手順書です。インサイドセールスの場合、手順書にはプロセスごとのフローやヒアリングシート、FAQなどがありますが、担当者が話す際に用いるトークスクリプトは、顧客に与える印象に直接関係するという意味で重要です。
なお、インサイドセールスと混同されやすい「テレアポ(テレフォンアポイントメント)」は、リストアップされた顧客に対し、資料やサンプル送付など次のステップに進むための許可や顧客との商談のアポイントを取ることに特化している業務です。短期決戦のため、トークスクリプトはあっても、シナリオの必要性がないという点でインサイドセールスと異なります。
トークスクリプトの目的
次に、なぜトークスクリプトが重要なのかを具体的に見ていきましょう。
トークスキルの向上と標準化
インサイドセールスにおいて、なぜトークスクリプトが重要かというと、営業トークは担当者によって差が出やすいからです。パフォーマンスが個人のスキルや経験に大きく依存してしまうことを「属人化」といいますが、営業トークも例外ではありません。その差異を均一化できるのが、標準化です。
成果を出している優秀な担当者が、どのような言葉遣いで話しているのか、どのようなタイミングでリードから何を聞き出し何を提案しているのか、などを文字に書き起こし、内容を整えます。
そうすることで、成功パターンを見つけ出し、担当者全員で共有するという流れが標準化です。優秀者のスキル・ノウハウから学び、インサイドセールス部門全体の底上げを図ることができます。必要に応じて改善し、さらにトークスクリプトを磨き上げていくことも可能です。
課題や改善点の発見
トークスクリプトがあると、話の流れ全体を把握でき、課題発見や改善がしやすい点もメリットです。
トークスクリプトをもとにリードと話していると、「この部分を伝えると、温度感が下がるリードが多いように感じる」「この提案方法は現実的ではない」などの“やりにくさ”に気づくことがあります。
そうした課題や改善点の部分を発見してトークスクリプトを改善し、リードに対するアプローチとしての精度を高めていくことが重要です。トークスクリプトの修正・改定の履歴は、できれば残しておくとよいでしょう。どのようにして改善が進んできたのかがわかり、インサイドセールスチームとしてのノウハウの蓄積も可視化できます。
研修など教育の省力化による経費削減
トークスクリプトには優秀者のノウハウが詰まっているため、インサイドセールスの経験がない人やトークが得意ではない人でも、成果を上げられる仕組みを構築できます。
トークスクリプトに書かれている内容を十分に理解して、繰り返していくことによって、自然な口調で話せるようになっていきます。「トークスクリプトに沿って営業をすれば結果がついてくる」といった成功体験を重ねていけば、定着率の向上も期待できるでしょう。
トークスクリプトがあれば、一から新人教育のプログラムを組む必要もありません。自社に必要なスキルやノウハウを新人に教えられるため、トークスクリプトは新人教育の省力化に貢献しているといえるでしょう。そのため、教育にかかるコストを抑えながら、早期の独り立ちを支援できます。
トークスクリプトの作成方法
ここからは、トークスクリプトの作成方法を見ていきましょう。
ペルソナとゴールを設定する
トークスクリプトは、「誰に向かって話すのか」というポイントが明確でなければ、効果的なトーク内容を作成できません。まずは、トークの相手となるペルソナを設定しましょう。
ペルソナとは、自社の典型的な顧客像を指します。年齢・居住地・職業・役職・年収など具体的な人物像を設定することで、どのような課題やニーズを持っているか把握できます。
そして、トークスクリプトのゴールの設定も重要です。トークのゴールが「資料請求」なのか「アポイント獲得」なのか「契約」なのかで、トークの展開の仕方が大きく変わります。
ヒアリングの内容を決める
ビジネス上のコミュニケーションでは、ポイントを押さえた上で相手の話を聞き出すことが重要となります。ヒアリングの手法としてよく知られているのが、BANTCH情報です。
- Budget(予算):予算規模、追加が可能か、取引中の企業への支払金額
- Authority(決裁者):決裁権を持つのは誰か、決裁の承認フロー
- Needs(ニーズ):相手が解決したい課題と解決後のイメージ
- Timeframe(導入時期):導入または更新時期、未定の場合は購入意欲
- Competitor(競合):検討中の競合他社、または利用中の商品・サービス、選定基準
- Human resources(人員体制):実務担当者や実際に使う人、決裁者との関係、導入後の運用体制
ここに挙げた項目をもとに、抜け漏れなく聞き取りができるようヒアリング項目を決めておきましょう。
トークスクリプトの骨子を作る
具体的なトーク内容を考える前に、トークの大まかな展開を設計する骨子を作成します。
参考になるのはSPIN話法です。顧客に対して適切な提案をするために欠かせない情報を、以下の順番で質問することにより引き出す方法です。
- Situation(状況質問):現状を確認するための質問
- Ploblem(問題質問):課題を聞き出すための質問
- Implication(示唆質問):顧客が抱えている課題を解決する必要性に気づいてもらうための質問
- Need-payoff(解決質問):課題解決策へと導く質問
質問を投げかけることで相手に考えるきっかけを作り、一緒に課題解決策を考えていけるパートナーとして認識してもらえます。
なお、以下の要素は、どのようなトークスクリプトにも共通します。
- フロントトーク(自己紹介、取次依頼(電話の場合)、趣旨説明)
- メイントーク(案内詳細)
- クロージング(アポイント調整、個人情報取得)
この流れをもとに、メイントーク部分はSPIN話法を用いるなどして骨子を作成しましょう。
トークの分岐点を設定する
大まかな骨子ができたら、具体的にどのような条件で話の流れが変わっていくのかを、わかりやすくフローで示していきましょう。
相手からから返ってきたYes//Noなどの回答や反応によって対応が分かれるところを「分岐点」と呼び、分岐点によって次の対応やトーク内容などのルートが変わっていきます。「こう返されたら、パターンAのアプローチをする」「この質問にNoと回答されたら、パターンBのアプローチをする」など具体的な分岐点ごとにフローを考えておくことで、実際の場面でも柔軟に対応できるでしょう。
具体的なトーク内容を入れ込む
トークの分岐点をフローで示したら、以下のポイントを意識してトーク内容を加えていきます。
- トークスクリプトは話し言葉で、メールなら書き言葉で作成する
- 箇条書きや要約を使わない
- 一文を長くしすぎない
- リードからの質問や指摘にどのように回答するかも用意する
- 担当者が困った場合のセリフやアクションも準備する
箇条書きや要約では、担当者がどのような内容を話せばよいかわからないため、なるべく実際に話す内容を具体的に落とし込みます。また、一文を長くしすぎると、電話では一方的に話している印象を与えてしまうため注意が必要です。リードからの質問や指摘にはこのように返すというところまで、作り上げておきましょう。
トークスクリプト作成におすすめのテンプレート
トークスクリプトを一から作成するには、経験やノウハウ、そしてリソースが必要となります。効率的に作成するには、テンプレートを活用するのも一案です。営業やマーケティングなどに関連する企業が配布しているテンプレートを活用してみましょう。
- ネクストSFA
- Hubspot
- コーキ株式会社
上記は、すぐに使えるトークスクリプトのテンプレートを無料で配布しています。テンプレートを参考にして自社オリジナルにカスタマイズし、効果の高いトークスクリプトを作成しましょう。
トークスプリクト活用のポイント
トークスクリプトは作成して終わりではなく、実際のインサイドセールスの営業シーンで活用していくことが重要です。そこで、トークスクリプトの効果を最大化するための活用ポイントをまとめました。
実践的なロールプレイングの実施
トークスクリプトの内容をただ読んでいるだけだと、不自然な話し方になってしまったり、相手からの質問にそぐわない返答になってしまったりするため、注意が必要です。繰り返しロールプレイングを重ねて練習をし、トークスクリプトの内容について理解を深め、さらに柔軟に対応できるよう経験を積みましょう。
顧客に合わせたシナリオ設計を
相手の関心度や状況、ニーズなどに合わせて複数パターンのトークスクリプトを作成しておくと安心です。顧客によって求めている情報や最適なアプローチ方法が異なるため、顧客に合わせたシナリオを設計したうえで、適切なトークスクリプトを作成しましょう。
定期的な見直しと改善を行う
緻密に作成したトークスクリプトでも、成果につながらないことは珍しくありません。定期的に効果検証を行ってトークスクリプトの内容を見直し、さらにブラッシュアップしましょう。
見直しの際には、「トークスクリプトのゴール(資料送付やアポイント)などにつながったのか」というコンバージョン数・コンバージョン率を測定するだけでなく、実際のインサイドセールス担当者へのヒアリングも必要です。実際に話している中で「ここが理解してもらいにくい」「この話し方では伝わりにくい」などの改善点がないかをヒアリングしましょう。
【SDR】トークスクリプトの例文
最後に、実践的なトークスクリプトの例文を、挨拶とフロントトーク、メイントーク、クロージングという要素ごとに紹介します。ここでは、電話によるSDRの代表的な例を見てみましょう。
挨拶
挨拶は、リードと最初に持つ接点。話すスピードや声のトーンにも気を配りましょう。相手が法人の場合、窓口となる電話の取り次ぎを越えた先に、話したい担当者がいる場合が多く見られます。
お忙しいところ恐れ入ります。私、△△をご提供しております、××社の●●と申します。先日、(部署名)部の〇〇様から資料をご請求いただいた件でご連絡差し上げました。〇〇様はいらっしゃいますでしょうか。
(不在の場合)
かしこまりました。改めてお電話いたします。失礼いたします。
(取り次ぎNGの場合)
かしこまりました。今後、お電話は差し控えさせていただきます。どうもありがとうございました(電話を切り、メールで担当者に連絡する)。
(取り次ぎOKの場合)
お忙しいところ恐れ入ります。私、△△をご提供しております、××社の●●と申します。先日は、弊社■■(商品・サービス名)の資料をご請求いただきありがとうございました。その件でご連絡差し上げたのですが、数分だけお時間を頂戴してもよろしいでしょうか。
フロントローク
商品やサービスの概要を伝えるのがフロントトークの役割だ。SPIN話法のところで触れたように、積極的に売り込むのではなく、適切な質問を重ねていこう。
お時間をいただきありがとうございます。本日は、1カ月間限定のキャンペーンをお知らせしたく、お電話を差し上げました。弊社ではただいま……(キャンペーンの概要を話す)。このようなキャンペーンにご興味はおありでしょうか。
(興味がない場合)
左様でございますか。またの機会がございましたら、ぜひよろしくお願いいたします。お忙しい中、お時間を割いていただきありがとうございました。失礼いたします。
(脈がある場合)
左様でございますか。次回のキャンペーンや割引のご案内をさせていただいてもよろしいでしょうか。
(興味がある場合)
ありがとうございます。では、キャンペーンについて詳しく説明させていただきます。
メイントーク
メイントークは、商品やサービスの概要を伝えることでリードの興味を引いたり、現状や課題を聞き出すことが主な目的です。
今回のキャンペーンでは......(キャンペーンの詳細を話す)。
(興味を持ってもらえなかった場合)
承知いたしました。それでは、また機会がございましたらご連絡させていただきます。この度は、お忙しい中、誠にありがとうございました。引き続きよろしくお願いいたします。
(興味を持ってもらえた場合)
弊社■■(商品・サービス名)の資料をご請求いただく企業様は、〇〇といった課題をお持ちの場合が多いのですが、御社の場合はいかがでしょうか(ヒアリングからクロージングへ)。
クロージング
クロージングでは、商談を先に進めるアクションを取り付けてから会話を終えましょう。アポイントを取る、提案書を送る、セミナーや動画を案内する、メルマガ購読の許可を取るなど、リードの見込み度に応じた提案を心がけるのがポイントです。
(ヒアリングを終えて)
お話をお聞かせいただきありがとうございました。直接お伺いし、詳しくお話させていただいたほうがよろしいかと思いますが、ご都合はいかがでしょうか。
(訪問NGの場合)
承知いたしました。それでは、御社用のご提案書を送らせていただきます。1週間以内にお送りしますので、ご覧になっていただけますと幸いです。その頃にまたご連絡させていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。失礼いたします。
(訪問OKの場合)
ありがとうございます。つきましては、日程調整をさせていただきたいのですが、来週でご都合のよろしい日時はございますか(訪問日時を決める)。では、〇月〇日〇曜日の〇時にお伺いいたします。追って、アポイント確認のメールをお送りいたします。本日は、お忙しいところご対応いただき誠にありがとうございました。失礼いたします。
まとめ
トークスクリプトは、インサイドセールスに欠かせない重要なものです。作成には相応の労力を要しますが、属人化防止や人材教育の省力化、その後の継続的な改善による営業力強化を考慮すると、取り組む価値があると言えるでしょう。
自社の業界や業態、商品・サービスによって、ヒアリング項目やトークの分岐点は変わってきます。今回取り上げたトークスクリプトの作成方法y具体例を参考に、自社の武器となるトークスクリプトを作成してください。