「損したくない」は「得したい」より2倍のインパクトがある
対面で商談していると、お客様が食いついているのか、それとも退屈そうにしているかは比較的よくわかるでしょう。「これは買ってもらえそうだ」と感じたとき、再度メリットを伝えるのも大切ですが、顧客が購入するうえで障壁となっているもの=顧客が感じるリスクを取り除くことも効果的です。今回は、成約に向けた最後のひと押しとなる「リスクリバーサル」という概念をご紹介します。リバーサルとは“反転”という意味で、買い手が感じているリスクを売り手に反転させ、安心してもらうという概念です。
行動経済学では、人間は「得をしたい(=理想的な状態を手に入れたい)」という気持ちよりも、「損をしたくない(=問題から逃げたい)」という気持ちのほうが強いことがわかっています。
興味深い事例として、ノーベル経済学賞を受賞したアメリカの行動経済学者、リチャード・セイラーが行ったマグカップを用いた実験があります。リチャード・セイラーらの著作より、要約して紹介しましょう。
ある大学で、クラスの学生の半分に、その学校の校章マークが入ったマグカップが渡されました。残り半分の学生には、近くにいる学生にマグカップをよく見せてもらうよう指示します。その後、マグカップを持っている学生には「いくらならマグカップを売っても良いか」、マグカップを持っていない学生には「いくらならマグカップを買っても良いか」をたずねました。その結果、何度実験を繰り返しても、マグカップを売っても良い=手放しても良い金額は、マグカップを買っても良い=手に入れたい金額の約2倍となったのです。
※『実践行動経済学』(リチャード・セイラー、キャス・サンスティーン著、遠藤真美訳、日経BP社)をもとに筆者要約
マグカップの実験から、何かを手に入れたい欲求より、今持っているものを手放す抵抗感のほうが2倍強いことがわかります。
人が何かを買うのは、「それを買うと良いことがある」と期待するからです。しかし同時に、「損をしたくない」という気持ちも生じます。買っても損をしないことがわかれば買わない理由がなくなり、購入のハードルはかなり低くなるでしょう。とくに初めての取引では、顧客はサプライヤーに対して「この会社/営業担当を信用して良いのだろうか?」というリスクを感じやすいので、リスクリバーサルは必ず意識すべきだと言えるでしょう。