営業・マーケのデジタル化を進める顧客接点DX1.0
新型コロナウイルス感染症の感染拡大は、世界中の経済活動に大きな影響を及ぼした。営業領域では訪問型の営業や対面販売に制限がかかり、新規顧客の獲得や既存顧客との関係維持に従来型の手法が通用しなくなっている。「コロナ禍を機に生じた非対面・非接触の流れに加え、顧客側の情報収集プロセスの変化や意思決定プロセスの変化、営業に対するニーズの低下という動きは企業に対して変革を迫り、待ったなしの状態と告げている」と、矢崎氏は警鐘を鳴らす。
そこでEYSCでは、企業の顧客接点における、とくにデジタル活用を前提とした業務変革の取り組みを「顧客接点DX」として1.0から3.0まで3段階で定義。連続性をもって推進していくべきテーマとして提唱している。
「顧客接点DX1.0」は、営業やマーケティング領域でのデジタル化、業務変革の取り組みである。現在は、これまで顧客接点で重要な役割を果たしてきた“営業”が再考されており、マーケティング機能の強化が注目され、営業のスタイル自体もオンライン商談が普及している。しかし、オンライン商談の活用度や有効性を見ると成果は限定的だと矢崎氏は指摘する。
「根本にあるのが、従来型の対面営業スタイルをそのままオンラインに持ち込んでしまったこと。現状業務に新たなツールや部分的な変更を持ち込むだけでは十分な効果を得ることは難しく、不整合や部門間の不協和を生むことになりかねません」(矢崎氏)
一方マーケティング領域ではデジタル活用の成果が表れ、コロナ禍以前からツールを活用していた企業は、何も活用していなかった企業と比べて業績が拡大または横ばいだったという調査結果が出ている。
このように顧客接点DX1.0において、デジタル化は十分ではないにせよ進み始めた段階となっている。一方で業務変革に関しては、従来型の業務プロセスからの変革がうまくいかず、新設したマーケティング部門と営業部門との連携や協調、リードや商談の共創に苦しんでいる企業が多い。そこで矢崎氏は、次のように解決策を提案する。
「マーケと営業でMQL(マーケティングリード)の貢献度を上げていくためには、顧客体験を見据えた商談ストーリーに従ったリードをいかに創出していくか、そのリードからインサイドセールスも交え、いかに商談を共創していくかという観点が重要です。マーケと営業にデジタルツールを持ち込むという発想だけでなく、まずは顧客の購買行動の変化やニーズを捉え、自社のマーケティング、業務プロセスに対してどのタイミングで何が求められているかを的確に把握する必要があるでしょう」(矢崎氏)
顧客接点DX2.0=営業マネジメントのDXとワークログの活用
「顧客接点DX2.0」は、MQLから生み出された商談を営業がどう受注に育てていくかという営業マネジメントDXの段階だ。この領域のツールとしてはすでにCRMやSFAが普及しているが、必ずしも十分に効果を上げているとは言えない。その理由として矢崎氏は、「ペルソナ設計の誤り」を指摘する。
「CRMやSFAは管理者向けのツールとして要件が設定されているため、現場の営業担当が直接得られる恩恵が少ない。現場の入力負荷を増大させ、入力が滞り、次第に情報鮮度の低下を招き、データに対する信頼度が低下していくのです。そのような結果に陥らないためにも、営業現場における従業員体験(EX)に注目し、いかに営業生産性を向上させていくかという体験設計をもとに要件を定めていくことが重要です」(矢崎氏)
営業の生産性向上のため行うべき事柄として矢崎氏は、商談における受注までの期間をいかに短縮するか、そしてその受注率をいかに向上させるかという「パイプラインマネジメントの高度化」を挙げる。そのために、「マネジメントに必要なKGI/KPIを設計し、目標数値に対して定めた先行評価指標をしっかりモニタリングして、それをマネージャーが運用できるように設計しておく必要がある」と説く。
ただしその際の課題として、先行指標となるデータをどう集め、更新させていくかという問題が生じる。CRM/SFAの情報入力がうまくいかない中で、EYSCが重要なデータとして利用を勧めるのが、「ワークログ」という行動データのログである。
「CRM/SFAで管理されているのは、商談をした結果が登録された情報に過ぎません。一方ワークログは、結果をもたらす要因分析を可能とする“現場での営業活動のログ”であり、自動的に取得・蓄積することで失敗・成功要因を可視化できます。営業の生産性を向上させるためには、営業担当者のEXの視点で日々のプロセスを再設計していく必要があります。そのためには、実績データのみに基づいたマネジメントではなく、ワークログのような行動データを活用し、パイプライン高度化を進める必要があります」(矢崎氏)
顧客起点のカスタマーサクセスが顧客接点DX3.0を実現
「顧客接点DX3.0」では、顧客接点の未来について考える。たとえば、日本の産業を牽引してきた製造業は、これまで製品自体の品質や性能を強みとし、「良いものをつくれば自ずと売れる」というビジネスモデルを貫いてきた。しかし現在は製品やサービスのコモディティ化が進み、顧客側も製品自体の価値を追求するだけではなく、その製品から得られる体験価値を重視するようになりつつある。
そのような時代に、「製品やサービスの提供を通じて顧客のゴールに至るプロセスの一部分を支援することではなく、ゴールに至るまでの課題解決プロセスの提示や、ビジネスモデルの継続性を支援する体験価値の提供が求められる」と矢崎氏は説く。つまり、顧客側が企業に求める価値基準が大きく変化し、企業側も顧客への提供価値に対する考え方やビジネスモデル自体を変化させていく必要性に迫られているということである。
そのひとつが、従来の販売型からサブスクリプションサービスへの移行だ。しかしほとんどの企業が、必要性は感じていてもうまく対応できておらず、EYSCにも多くの相談が寄せられているという。そして矢崎氏は、この状況下で顧客とのつながりを強化する鍵として「カスタマーサクセス」を挙げた。
ここでのカスタマーサクセスとは、組織部門の名称ではなく“顧客接点における機能”という意味である。役割としては、これまで営業が対応していた商談の最終段階から始まり、成約後サービス利用が始まってからはサポートを担い、契約更新やアップセル・クロスセルに向けたプロアクティブなコミュニケーションを行いつつ、顧客への価値提供の環境を推進・管理も行うかたちとなる。
カスタマーサクセスの具体的な業務機能を組織の中に実装していくうえでは、対象となる製品やサービスにおける顧客提供価値をどう定義するかが重要になると矢崎氏はいう。
「従来型ビジネスでは自社の商品・サービスを起点としていたが、価値提供型のサービスビジネスは顧客起点で体験価値をデザインし、顧客側の視点に基づいた役割の定義によって継続的な価値体系が提供される。カスタマーサクセス組織の役割や業務プロセスを設計する際には、提供するサービスや製品における体験価値を明確にし、顧客体験にカスタマーサクセスを組み込んでいくという発想が大切になる」(矢崎氏)
EYSCでは、カスタマーサクセスの成熟度を4段階で定義し、それぞれの段階でどのようなことが達成されているべきか、自社の現状の成熟度はどの段階にあるか可視化できるモデル(次の図)を用意している。
またEYSCでは、顧客接点DXや顧客中心型の組織設計に則したマーケティングアプローチとして、従来の「ダブルファネル型」でなく、「ヴィーグル型」モデルを取り入れている。
「その考え方で組織における戦略や組織、業務プロセスの設計、デジタル活用に向けた方式設計を進めることで継続的な顧客体験をデザインし、それが提供可能な組織や業務プロセスのデザインに落とし込んでいく」(矢崎氏)。
最後に矢崎氏は、顧客DXを推し進めるにあたっての要諦を次のようにまとめ、講演を締めくくった。
「顧客接点において従来機能区分の考え方に捉われず、カスタマーサクセスという考え方をうまく取り入れて顧客への新たな提供価値を見出していくことが、新たな収益を呼び込む窓口になります。そのためのKSF(Key Success Factor)は、『顧客の成功に向けたストーリーを共に伴走する』『顧客接点における体験をデザインする』『連続性をもった業務とデータの設計とマネジメント』の3点です。さまざまな企業様と共に顧客接点DX3.0に挑む当社の知見やノウハウをぜひ、多くの企業様にご提供できればと考えています」(矢崎氏)