センス抜群の営業が一発屋になるワケ
私は住宅営業として11年、その後コンサルタントとして独立して15年以上。25年以上の間、たくさんの営業スタッフを見てきた。中には営業センス抜群の人たちがいて、この手の人たちはあまり苦労をせず、あっという間に結果を出していく。私は結果を出すまでに7年かかっているので羨ましい限りである。
しかし、すぐに結果を出す人たちもふたつの種類に分かれる。ひとつは長期的に結果を出す人たち。もうひとつは、結果は出したものの、すぐに“あの人は今”的な存在になってしまった人たち。実はこちらのタイプのほうが圧倒的に多い。結果を出した人があっという間に落ちぶれて消えていく。営業の世界ではそんなことが頻繁に起こるものだ。
私の後輩は、天性の人たらしであり、誰とでも短時間で仲良くなれる性格だった。初めて会ったお客様の警戒心を解くのが上手く、あっという間に懐に飛び込んでいく。どんどん商談のチャンスをつかんでいった。
彼と初めて話をした瞬間に「これは凄いことになるぞ」という予感がした。その直感は当たり、すぐにダントツの結果を出したのだ。私も含めまわりの誰もが「彼の時代がやってくる」と確信していた。
しかし、少し時間が経つと評価は変わってきた。彼の弱点はアフターフォローだった。
契約獲得への情熱があるものの、契約済みのお客様には“興味がない”ような対応をしてしまう。これでクレームをこじらせ問題を大きくしたことも少なくなかった。
クレームは何とか処理していたものの、いちばんの問題は社内スタッフとの関係だった。下に見て、かなり無理な仕事を「至急よろしく!」と丸投げする。無理して対応してもらったにも関わらず、「ありがとうございました」のひと言もない。
そのうえ「これ、間違っていましたよ」と文句だけは言ってくる。こんな対応をされれば、どんなに心優しいスタッフでもカチンとくるものだ。このような行為を繰り返しているうちにどんどん敵を増やしていった。
会社に味方がいなくなると厳しい。あるとき、ひとつのクレームからスランプに陥りどん底状態に。その間、誰も彼に手を差し伸べてはくれなかった。彼はその後、どん底から浮上することなく、ひっそりと会社を去って行った。一発屋の典型である。
人には返報性の原理で“何らかの施しを受けたらお返しをしたくなる”感情を抱くという心理がある。その感覚がズレている、もしくはない人は長く活躍することはできないのだ。