コロナ禍によって法人営業で社内外の課題が表出
NTTコミュニケーションズでは2017年ごろから、継続的に成果を挙げられる営業組織づくりに取り組んできた。徳田氏は「顧客や有識者との議論を重ねる中で、自身の取り組みについて聞かれることも多く、その紆余曲折やしくじりなどを発信し、日本の営業組織改革に貢献することを意図してきた」と語る。そして、その一部はSalesZineの連載「セールスDX研究所」や、『セールス・イネーブルメント 世界最先端の営業組織の作り方』(山下貴宏/かんき出版)の中でも紹介されている。
対談相手であるTORiXの高橋氏は『無敗営業 「3つの質問」と「4つの力」』(日経BP)の著書として多くの営業パーソンに知られ、2021年8月には『気持ちよく人を動かす』(クロスメディア・パブリッシング)を上梓。上司や部下、顧客など社内外の相手と共にディスカッションし、巻き込むことで“気持ちよく”物事を動かしていく方法を解説している。
そんなふたりの対談テーマは、コロナ禍で大きく変化しつつある営業スタイルおよび組織のあり方だ。多くの日本企業が新たなスタイルを模索する中で、さまざまな課題が表出しているという。
高橋氏はコロナ禍でよく聞くようになった営業課題を対顧客/対社内でそれぞれ3つずつ挙げた。いずれもリモートワークの推進やデジタルツール導入の影響が大きく、リアルでアナログなスタイルで営業活動を行ってきた企業ほど、ギャップを感じるのも必然と言えるだろう。
これらの課題を解決し、今後の営業スタイル・組織として確立するためには、リアル営業にオンラインを融合させたハイブリッド型を模索する必要がある。そこで、実際にNTTコミュニケーションズの顧客などから寄せられた質問に回答するかたちで高橋氏、徳田氏が示唆や取り組みを紹介した。
課題はSFA導入の“前”に 改革のロードマップを
質問1「オンラインとリアルのハイブリッドで行うセールスで、我々が気をつけていくべきこととは?」 ――金融業 法人セールス部門(50代)
問いに対し、高橋氏は「ハイブリッド営業を実現するうえで、いちばんの課題はSFAやCRMなどのツール導入“前”にあることが多い」と語る。
そもそも営業組織がSFAやCRMを導入するのは、営業活動の実態が「見えなくなりやすい」ものであり、各社でさまざまな弊害が生じているからだろう。たとえば、受注や売上など結果しか見ない組織では、現場は期末に訪問数を増やして「がんばっている感」を出し、売上も積もうとする。逆にプロセス重視で「行動目標の達成」を見る組織では、訪問件数は多いものの、足を運びやすい客先ばかりに訪問してしまい、成果が出にくくなる。一方で、細かく活動や商談内容を理解しようと報告を重視するマネージャーのもとでは、日報ばかりが詳しく書かれることになる。
ツールはあくまで、結果やプロセスを可視化するものである。つまり重要なのは、そもそも導入後に自社の組織では何を可視化し、解決したいか――目的を立てることだ。
たとえば、「メンバーの仕事をやりやすくする」ことが主目的であれば、ツールに期待するのは「失注するかもしれない」という黄色信号や、「こういうことをすると受注できるかもしれない」という青信号を出すこと、または「ゴールへの道筋や現在地を把握する」カーナビ的な役割を果たすことだろう。そうしたツールの使い方であれば、メンバーは仕事をしやすくなり、マネージャーも褒める機会が増える。
一方、「マネージャーの負担を減らすこと」が主な目的になると、「仕事をちゃんとしているか」を見るための監視ツールとなってしまい、メンバーは入力すればするほど自分の首がしまる状況をつくり出すことになる。必然的にマネージャーはメンバーを叱責するばかりになるだろう。実際、それで失敗している企業は多いという。
「たとえ同じツールを入れたとしても、目的が異なれば成果も変わります。マネージャーの管理しやすさよりも、『メンバーの仕事をやりやすくする』ことに主眼を置くべきではないでしょうか」(高橋氏)
徳田氏も、同社が取り組んできた改革と変遷を例に次のように語った。
「弊社でもDXを始めたばかりの『第0階層』では『手間が増えた』という不満が多く、『第1階層』で便利になった実感が湧き、『第2階層』では営業活動が可視化されて監視されていると感じる嘆きが出てきました。しかし、そこでやめるのではなく、本来の目的を見失わずにいたことで、『第3階層』では現場の成果向上と事業成長という結果が見えてきて、経営層と現場の双方が幸せを実現しつつあります。目的を見失わないためにも、最終的な目的を掲げたロードマップを考えていくことが必要なんです」(徳田氏)
データ蓄積をチャットボットで自動化
質問2「これからの時代、営業活動におけるデータやAI活用の可能性は?」――製造業 経営層(50代)
この問いに対しては、徳田氏からNTTコミュニケーションズで現在進行中の取り組みが紹介された。大きくはふたつ、「データのインプット」と「拡張分析の実践」である。
まず「データのインプット」では、データの蓄積を目的に「入力支援」を行っている。たとえば、チャットボットやOutlookのスケジュールメールをそのままSFAに取り込むことで、自動的にデータが蓄積されるというわけだ。加えて、既存の営業ノウハウをSFAに実装したり、ハイパフォーマーのインタビュー結果を反映したりすることで、実践的なノウハウを用いた「ネクストアクション」の提示につなげることを目指している。
入力支援の具体例として、「チャットボットによる活動投入」が紹介された。たとえば、「@おつかれ」と入力すると、当日の営業について記録する選択肢が表示され、ラジオボタンで選んでいくと自然に営業報告がなされるようになっている。
マネージャーを経ず、ネクストアクションを自動配信
「拡張分析の実践」では、収集したデータを分析し、それらを経営指標とするための可視化に加えて、現場の営業に“気づき”を与えるデータ抽出を実践している。たとえば、顧客の経営状況や取引状況に加え、競合他社との比較や顧客とのリレーションマップ、サービスのどの部分が利用されているかという「ITシェアマップ」などが提供されることで、営業担当者は「次に何を提案するか」という行動に活かすことができている。加えて、個々人にマッチしたネクストアクションの自動配信も進み始めているという。
具体的にはSFAやMAなどでの顧客の状況や外部情報を取得し、一定の条件や閾値を超えると、営業担当者の携帯端末にとるべきネクストアクションを示唆するメッセージが自動で届くという仕組みで、現在約1,000名が実証にあたっている。具体的には、ある顧客のサービスの利用率が80%を超えたとしたら、「こういう提案をしよう」とヒントが届いたり、AIの予測モデルで顧客が興味を持っていそうなものを予測したり、似ているパイプラインをつくっている人を抽出し、「アドバイスを聞いてみたら?」と提案したり――これらの示唆がマネージャーを経由せずとも自動的かつ、個別に配信されるというもの。なお同社では、失注率の予測や影響する要素の可視化にも取り組んでいる。
高橋氏は「マネージャーの大半は、あとから『あれどうなっているの』とか、すでに報告書に記載されているものを確認したり、指示も手遅れ気味だったりする。それがタイムリーに来るだけで、チームの中で不毛な会話も減るのではないか」と現場での価値を評する。徳田氏も「データを見るのが後手に回っているところを、早い段階で気づきアクションにつなげられる。そんなデータ流通を意識した」と語った。
メンバーがデータを入力しても、マネージャーが上手く使いこなせないために、だんだんと入力されなくなるという企業も多い。データ分析の結果が自動的に届くとなれば、現場も入力の恩恵を感じるだろう。なお、実証対象者のアンケートによると8〜9割が「ネクストアクションの自動配信」について「役に立つ」と回答しているという。
次代のセールス、最初の一手は「勝ちパターンづくり」
質問3「オンラインとリアルのハイブリッドなセールス、AIやデータを活用した次代のセールス、我々が行うべき最初の一手とは?」――食品業 セールス部門(50代)他多数
高橋氏は「『疲弊する競争』か『幸せな共創』か――営業組織の命運を分ける『四つの角』があるが、結論から言うと最初に打つべき一手は"勝ちパターンづくり”」と回答した。
多くの営業組織は自社の“勝ちパターン”を尋ねると「お客さまとの信頼関係の構築」や「キーパーソンをしっかり握る」などと回答するが、ほとんどの場合、営業担当者はそれを実現するために「いつ行動するべきか」に悩んでいる。つまり、「いつ行動するか」が明らかになっている状態こそが勝ちパターンが明確な状況だ。そうなれば、マネージャーの示唆も的確になり、自然とチームのコミュニケーションも前向きになる。顧客のほうを向いて健全な議論や対話ができるようになるというわけだ。
高橋氏は「営業が勝負どころだと感じているポイントがすでに手遅れということも多い。たとえば、キーパーソンに接触するタイミングより前に、重要なコミュニケーションが完了している可能性も高い。示唆は、『手前で行動しておくべき』ことを早い段階で示せることであり、組織でその共通認識を持つことが重要」だと語った。
徳田氏も手遅れのケースが多いことに共感し「SFA/CRMで営業活動を可視化したいと言う企業も多いが、導入前に勝ちパターンがわかっていなければ、何を可視化するべきかわからない。その意味でも、勝ちパターンを見極めることが大切」と語った。
ズレの世界を是正し、顧客との「共創」の時代に
質問5「今後の展望は? これからのセールスはどうなるのか不安」――通信業 Sales Enabler部門(40代)
実はこの質問は、徳田氏のものだという。セールスに関わる多くの人が不安を抱いた2年間だったことは間違いなく、その先行きについて興味を持つ人が多いだろう。
高橋氏は、営業組織の「これまで」と「これから」について、3つの次元に整理。これまでは「ズレの世界(営業1.0)」にあり、コロナ禍でそれが露呈したという。つまり、テレアポや訪問で会えなくなったのは、コロナ禍が原因ではなく、これまではお客さまが営業のプッシュ活動に付き合わされていただけ、という見方だ。そのズレを是正し、営業と顧客、上司と部下の互いに期待するものをすり合わせていく大切さと方法をまとめたのが、著書『無敗営業』だという。
「先行きが見通しづらい世界で、顧客が見えていない将来の可能性を営業が拾えるとしたらどうでしょうか。たとえば当初の予定にはなくとも、議論をしたら予期せぬ新しいものができたという『適切な共犯関係』がこれからの理想だと言えます。もちろん社内のコミュニケーションでも、上司が想像できないことを現場のメンバーが自律的に動いて実現していくかもしれません」(高橋氏)
徳田氏も「共創というキーワードを至るところで目にするようになり、お客さまと一緒に新しい価値を生み出す『適切な共犯関係』という表現は非常にしっくりくる」と語り、「目指すべきゴールは見えているが、実現はまだ先になるのだろうか」と投げかけた。
それに対して高橋氏は、「どんな会社でもハイパフォーマーは会社や上司の言うことを聞きつつも、自分の考えで動いて想像以上の価値を生み出している。たとえば『お客さまがこんなことをおっしゃるので、ここまで進めてきた』というある意味、事後報告的な動き方。リモートで現場の動きが把握できなくなったというマネージャーもいるが、現場の手元に正しい事実や材料がたくさん揃うようなれば、良いものをどんどん現場発でつくっていけるようになっているのではないか」と語った。
すでにハイパフォーマーによる客先での共創は進みつつある。NTTコミュニケーションズでも、営業×顧客での共創ビジネスに取り掛かろうとしているところだという。
「営業側もお客さま側も、デジタルとリアルの『フレキシブルハイブリッドワーク』になっていくでしょう。加えて、営業とお客さまとの接点はデジタルおよびリアルでさまざまなパターンができてくるはずですから、多彩な接合点を認識したうえで、各接点で提供できる価値を考える必要があります」(徳田氏)
そして、最後にデジタルとリアルの結合点、お客さまと共創するようなハブ的なビジネス拠点として、NTTコミュニケーションズが運営する共創プログラム「OPEN HUB for Smart World」がオープンしたことが紹介された。顧客と営業の「共創」をけん引する、実験的スペースの今後の動向にも注目していきたい。