「良い商談」がそのまま伝わる可能性は低い
――内田さんのこれまでのキャリアについて教えてください。
新卒でイノベーションに入社しBtoBメディアのセールスを数年間担当したのち、ウェブマーケティングコンサルの事業責任者となりました。上場を目指すタイミングでは機関投資家向けのロードショーマテリアル*作成に注力し、その後新規事業の創出やMAツールの事業部長の役割を経て、2019年からは事業部門の子会社化に伴い Innovatino & Co.の取締役になりました。現在はMAツールと、セールス・イネーブルメントツール「Sales Doc」の事業責任者を担当しています。2010年の入社以来ずっとこの会社にいますが、任される役割はいろいろと変化し、転職を繰り返しているような気持ちです。
*上場承認後、株式公開前に開催する機関投資家向け会社説明会のための資料
――Sales Docは営業資料の活用を重視するソリューションですが、ロードショーマテリアル作成の経験などから、資料の重要性を実感されるシーンもあったのでしょうか。
そうですね。商談でもIRでも同じことが言えるのですが、会話の中で伝えられることには限界があると考えています。優秀な営業担当者がいくら商談で良いトークをしても、それを聞いた顧客側の担当者が社内に持ち返ったときに、決裁者やチームメンバーに同じクオリティで情報を共有してくれるとは限りません。もちろんトークスキルを磨くことも重要ですが、そこに頼りすぎてしまうと、セールスプロセス全体において提案側がコントロールできる要素が少なくなってしまうんです。
それに対して、資料は顧客企業に残ります。資料の活用を最適化できていれば、顧客に届けたい情報をきちんと伝えることができるようになるわけですから、「営業資料=成果に直結するもの」として考えることが大切です。
とくに最近はリモートワークシフトが急速に進み、BtoBのマーケティング組織やセールス組織にとって、新規商談獲得のハードルが非常に高くなりました。テレアポで新規商談を獲得している会社もまだ多いなかで、そもそも電話をしてもつながらないとか、つながっても先方が会議中で話せないとか、「顧客のタイミングを掴めない」という悩みは増えていると思います。マーケティング施策でインバウンドを増やしている会社も同じで、せっかく問い合わせや資料請求の動きがあったのに、なぜか次のファネルに進めないという課題に直面する会社は多いようです。
――リモートワークならではの新たな課題も出てくるなかで、資料が重要な理由を改めて教えていただけますでしょうか。
大きくふたつあります。ひとつめは、商談を打診したときに「まずは資料をください」と必ず言われることです。とくにBtoBでは間違いなく言われます。そして買い手側はその資料を見て「そもそもこの会社は商談する価値のある会社なのか?」を判断します。
従来の営業プロセスでは、この部分がブラックボックス化してしまうことが課題のひとつでした。資料に対して反応をもらえた・もらえなかったという結果は追えても、最初に送った資料がきちんと買い手に刺さっていたかどうかを知る方法がなかったんです。本来であれば営業プロセスのひとつとして資料についてもPDCAを回す必要があるのに、資料が商談につながったのかどうかをチェックする「C」の部分に注力できている企業はほとんどありません。私も決裁者として提案資料を見る機会は多いですが、ほとんどが機能やサービス概要の説明ばかりで「導入することで享受できるメリット」を伝えてくれる資料は少なく、もったいないなと感じるのです。
ふたつめは、商談のオンライン化が進み、これまで以上に資料を見ている時間が増えているためです。どれだけ優秀な営業担当者でも、画面に映る顔はほんの小さなサイズですよね。紙の資料で商談を進めていた時代と比較して、いかに資料の見やすさや情報の見せ方で気持ちを掴めるかどうかが成果に直結するようになってきていると思います。「いけてない資料を送ってくる会社」という印象を与えてしまうことが、これまで以上にリスクになってくる時代です。
一方で、自分たちの感覚だけで資料を軌道修正していくのが難しいのも事実です。欧米ではすでに営業部門が使うコンテンツを管理するプロダクトが普及し、それによって成果を上げていく概念も一般的なものになっていますが、日本ではまだその概念があまり知られていません。営業資料やコンテンツを軸に営業活動を最適化できるという考えを日本でも広め、その市場をつくりたいと思って提供しているのがSales Docです。
顧客の資料への接し方を可視化! 優先度や受注確度もわかる
――これから市場をつくりたいとおっしゃるとおり、日本にはまだ類似ツールがあまり多くないと思います。企業からの引き合いはどのような状況でしょうか?
Sales Docはリリースして約1年半ですが、おかげさまで問い合わせは右肩上がりという状況です。製品に関してメディアからの取材などを受ける機会も増え、市場からの評価を感じています。業種や規模に偏りはありませんが、やはり新規営業に注力している企業からの問い合わせは多いですね。裏を返すと、新規営業に注力していて営業資料を使わない企業はない、ということだと思います。
――新しい市場である分、御社自身がSales Docを活用して成果を出していくいちばんの事例でもあると思いますが、イチオシの機能はありますか。
営業担当者向けには、資料や動画を送るだけで自動的にポップアップを出し、アポイントの提案をできる機能があります。資料をくださいと言われてお送りすると、お送りした資料を見てくれているときにリアルタイムかつ自動でアポイントの打診ができるため、これまで多くの時間をかけていたフォローの電話やメールが必要ありません。当社もこの機能を使って、毎月30件くらいアポイントを獲得しています。
責任者の方向けには、「営業担当者がどの資料をどれくらい使っているのか」「送った資料が何割くらい見られているのか」という情報など、資料と成果の関係性を可視化できる機能があります。営業担当者ごとの成果も把握できますから、マネジメントにもそのまま活用できる機能です。
また、コンテンツ管理の観点では、資料の一部をブラッシュアップした際にA/Bテストをできる機能があります。ブラッシュアップした部分がより見られるようになったのか、あるいは変えたことによって見られなくなってしまったのかを自動でレポーティングできるため、弊社でもこの機能を活用しながらPDCAを回しています。ほかにも、自社サイトから資料やホワイトペーパーをダウンロードできるようにしている企業は多いと思いますが、ダウンロードフォームとも連携が可能であるため、ダウンロードした顧客のデータを自動的に計測することでその後の営業活動に活かすこともできます。
――これまでマーケティング担当者が検知して、営業担当者にパスしていた部分までカバーできるような機能ですね。
そうですね。たとえば、ひと口に「資料をダウンロードしてくれた人」と言っても、ダウンロードした資料を2ページめで閉じてしまったA さんと、導入事例ページを読み込んでくれているBさんとでは、かけるべきパワーがまったく違うはずです。その差分がわかれば営業担当者が優先的にアプローチすべき対象は一目瞭然となり、効率化と成果の最大化が可能になります。
もうひとつのポイントが、これによって「コンバージョンはしたものの、実は検討度合いが低い人」「コンバージョンした後にしっかり競合比較をしている人」などのグループごとに、資料の読み込み方の傾向を掴めるようになることです。コンバージョンの質を把握することで、早めに商談を進めていくべきパターンと、少し間をおいてからアプローチしても問題ないパターンを判断できるようになり、営業効率は上がります。
これは、受注確度の管理の精度にも直結します。多くの営業組織では商談の感触を見て受注確度を管理していると思いますが、おそらくほとんどの場合、営業担当者の肌感覚による報告をベースにしていますよね。たとえば「確度は高いです」という報告に対して、本当に確度が高ければ、先方は資料を読み込んでくれるはずです。そこにギャップがあればきちんとフォローするように指示するなど、マネジメントの観点でも活用ができます。
メンバー育成にも活用可能 営業がお客様に向き合う時間を生む
――営業活動の効率化を図ることができた結果、営業担当の皆さんの働き方も変わってきていると感じますか。
はい。現場からも、業務効率がすこぶる良くなっているというフィードバックを受けています。先ほどご説明したアポイントの自動化はいわゆる「ムダな架電」をなくせますから、当然ながら業務効率化に直結します。
もうひとつのメリットが、これまでOJTだった部分を代替する役割を果たし、メンバーのオンボーディングや育成にも活用できることです。Sales Docに資料とセットで「この資料はお客様にこういうふうに説明してください」とか「この資料のここを更新しました」という説明コンテンツを入れることができるため、それを見れば新卒でも、中途入社のメンバーでも早期に立ち上がるようになっています。
――今後Sales Docの提供を通して、どのような価値を営業組織に届けていきたいと考えていますか。
まずは、外部ツールとのAPI連携を増やしていきたいです。現在は SalesforceとAPIで繋がっていますが、ほかの営業支援ツールともどんどん連携していきたいですね。また現在の機能は主に資料送付後の動きを追っていくものですが、今後は機械学習を使ってサジェストする機能の実装にも力を入れたいと考えています。黙って見ていればPDCAのA(アクション)のところまで勝手に提案してくれるツールにしたいなというイメージです。
また、セールス資料を動画に差し替える動きが大手企業を中心に活発になってきている動向を受け、送った動画の視聴履歴や離脱率を追える「動画閲覧トラッキング」機能を先日リリースしました。動画はやはり伝えられる情報量が多く、提案資料を動画に差し替えるトレンドは続くと思います。
今後もさまざまな機能を提供していきたいと考えていますが、大切なのは、効率化によってお客様のことを考える時間を増やすことです。どれだけオンライン化が進んでも、営業担当者にとっていちばん大切なのはお客様と向き合っている時間ですから、その時間を生み出すために自動化できるところは自動化していこうという考え方ですね。
――さいごに、内田さんにとって営業資料とは。
冒頭の話に通じますが、BtoBの新規営業において、営業資料は間違いなく顧客接点の第一ステップを担います。プロダクトやサービスがどれほど良くても、一方的な説明資料が送られてきて「ん?」と顧客が引っかかり、それだけで商談の機会を逃してしまっているケースは往々にしてあると思うんです。皆さんが認識している以上に営業資料が重要であるということは、これからもしっかり伝えていきたいと思っています。
もちろんSales Docを使っていただけると嬉しいですが、使わなくてもできることはたくさんあります。たとえば、まずは営業資料の PDCAを一度きちんと考えてみること。それも、漫然と良かった・悪かった点を振り返るのではなく、営業資料についていつ誰がどのようなアップデートをかけていくのかを先んじて考えておき、それについてどういうチェックをしていくか、PDCAのポイントまで決めておくことが大切です。
DXという言葉がひとり歩きしてしまっている昨今の状況はあまり好ましく思っていませんが、一方で、テクノロジーを活用することによって営業活動を効率化したり成果を最大化したりできるのは確かです。テクノロジーをきちんと取り入れ、小さくても着実に取り組み始めることは大切で、そのひとつとして営業資料にも注目してもらえるようになれば嬉しいです。
――成果に直結しやすい営業資料のPDCAを今こそ見直してみること、そしてその効率化のためにテクノロジーを使ってみること、営業組織が踏み出しやすい一歩だと思います。本日はありがとうございました!