01 BtoB企業でデジタルマーケティングが必要な理由
そもそもなぜBtoB企業でデジタルマーケティングがこれほど注目されるようになったのでしょうか。その理由は2つあると考えています。
国内外で注目されるBtoBマーケティング
まず、デジタルマーケティングに本格的に取り組んでいるBtoB企業は、収益面で大きく向上していることが挙げられます。
マッキンゼーが調査した「デジタル施策に積極的なBtoB企業の収益力(図1)」によると、デジタル施策を実施しているBtoB企業の上位25%と、それ以外の75%の企業を比較した場合、収益成長率で約5倍、支払金利前税引前利益(EBIT)で約8倍、株主利益(TRS)で約2倍と、収益面で大きな開きがでています。
2つ目の理由は、日本国内に限ってみた場合、労働力人口の減少(図2)や、働き方改革による時間外労働の規制から、少ない人数や時間で、仕事の生産性を高めることが求められていることです。
例えば、中小・中堅企業やスタートアップ企業に関しては、そもそも人材が採用できない中で、売上を向上させていくことが求められています。特に、事業拡大をするフェーズでは、社員の採用が追いつかないため、BtoBマーケティングを本格的に展開する事例などもでてきています。
また、ある大手BtoB企業の場合、50代・60代の営業担当者が多く、30代・40代が少ないという逆ピラミッド構造の組織構成になっています。今後、10年以内に50代の社員が定年退職することになると、少ない人数で営業を回していく必要があるため、デジタルマーケティングを本格的に始めようとしています。
02 努力、根性の営業から、スマートな営業スタイルへ
アナログで行っていた努力・根性の営業スタイルから、BtoBマーケティングにもとづくスマートな営業スタイルに移行していくと、何がどのように変わるのでしょうか。
営業プロセスが変わる
営業プロセスを「Before(アナログ)」と「After(デジタル)」の2つに分けて整理してみました(図3)。
一番大きく変わるのが、「アポイントメント」「顧客訪問」のプロセスで、それぞれ「情報発信」「問い合わせ」に変わります。今までは、営業担当者が電話やメールから見込み顧客にアプローチをして、見込み確度の低い顧客まで含めて顧客訪問を行い、その中でニーズや課題を把握する、というのが一般的な流れでした。このような営業アプローチの仕方を、「アウトバウンド(プッシュ)型」といいます。
一方で、これからの営業スタイルは、商品やサービスに関する情報発信サイトを立ち上げ、ブログの記事やホワイトペーパーを充実させることで、見込み顧客自らが、Googleなどの検索エンジンやデジタル広告から問い合わせをするモデルに変わります。先ほどのアウトバウンド型に対して、「インバウンド(プル)型」といいます。
今までは確度の低い見込み客も含めてすべて営業担当者のみで対応していましたが、これからの営業スタイルなら、営業担当者は関心の高い見込み顧客(ホットリード)のみに対応すればよいので、仕事の生産性を大幅に向上させることが可能になります。
03 営業の仕組みづくりにデジタル施策を活用する
アウトバウンド型からインバウンド型に営業プロセスが変わる中で、どの部分にデジタル施策を取り入れることができるのでしょうか。本章02節で定義した「情報発信」「問い合わせ」「ニーズ・課題把握」の3つのプロセスに、5つのデジタル施策を割り当てます(図4)。
5つのデジタル施策で問い合わせが舞い込む仕組みをつくる
まず、「情報発信」に有効な打ち手として、商品やサービスを紹介するサービスサイトの立ち上げがあります。アクセス数(流入数)を増やすため、そこに掲載するブログ記事やホワイトペーパー(ダウンロード資料)などのコンテンツを充実させていきます。
次に「問い合わせ」件数を増やす手段としては、Googleの検索エンジンにコンテンツやサイト構造を最適化させるSEOや、デジタル広告(サーチ広告やディスプレイ広告)などが有効です。
また、「ニーズや課題把握」に関しては、MAを活用して、見込み顧客とコミュニケーションを行っていきます。具体的には、インサイドセールスやシナリオ設計にもとづくメール配信などを行います。サービスサイト内での顧客の行動を把握し、それぞれのアクションに対して点数づけ(スコアリング)を行うことで、興味・関心がどれぐらい高まっているかを顧客単位で定量的に把握していきます。
このように、今まで営業担当者が属人的に行ってきたことを、デジタル施策で仕組み化することで、顧客全体の管理がしやすくなるとともに、顧客の行動を定量的に把握できるため、見込み顧客に対する優先度にメリハリをつけて活動することができます。
04 顧客の購買行動の変化
インターネットが発達し、ネット上で様々な情報を得ることができるようになったため、顧客側の購買行動も大きく変化しました。
一般的に、社内で稟議を上げるときは、「起案」「情報収集」「評価選定」の3つのプロセスを踏まえて、商品やサービスの購入の意思決定が行われます。
例えば、製造業における購買意思決定プロセス(図5)を、稟議に関係する部門や担当者(マネジメント、開発担当、購買担当、生産部門)ごとに見てみましょう。
起案段階では、稟議を上げる開発担当者や、それを利用する生産部門などが、新技術や製品・業界トレンドの情報収集をネットで行います。また、情報収集を本格的に行う段階になると、ツールベンダーに自ら資料を請求したり、情報サイトから資料ダウンロードしたりする動きを取り始めます。
商談前に勝負が決まっている
海外の調査データによると(図6)、一般的な顧客が取引先の営業担当者に直接関与する前に、購買に至るまでの準備の半分以上を完了しているようです。BtoB企業間の事業取引の60%がオンラインで始まるというデータもあります。
今後は起案や情報収集のプロセスで、適切な情報をオンラインで発信していかないと、検討の選択肢にすら入れてもらえなくなるでしょう。
05 営業は分業体制へ
それでは、どこからどこまでをマーケティング部門が担当し、どこからどこまでを営業部門が担当することになるのでしょうか。
マーケティング部門と営業部門が担当する範囲
「企業分析」から「ニーズや課題把握」までの4つのプロセスをマーケティング部門が担うことになります。見込み顧客からの問い合わせ件数を増やす手法(リードジェネレーション)が「企業分析」から「問い合わせ」に該当し、見込み顧客を育成・選別していく手法(リードナーチャリング)が「ニーズや課題把握」に該当します(図7)。
営業部門が担当するプロセスは、「提案」と「クロージング」の2つだけです。マーケティング部門が、見込み顧客(リード)の獲得から育成・選別まで対応するので、営業担当者は、ホットリードと呼ばれる関心度が高まっていす(図7)。
関心度の高い顧客中心に営業できる
分業体制にすることの最大のメリットは、営業担当者の負荷が減ることです。すべての工程を営業担当者が担当していたときは、アポイントメントの設定や顧客訪問など、生産性が低い業務(移動時間を含む)に稼働時間の多くをとられていました。
しかし、分業後は関心度が高まっている見込み顧客だけに訪問すればよいので、営業効率が高まり、成約率を向上させることが可能です。詳細は7章で説明します。
06 データから優良顧客に効率よくアプローチする
近年では、データの環境面が整備されてきたことから、データを活用して顧客を分析し、その結果にもとづいて最適な対象顧客にアプローチすることが可能になってきています。
データを活用して見込み顧客を見つける
例えば、既存顧客を売上高や資本金を軸にしてセグメント化(分類)し、セグメントごとに市場占有率を見たり、顧客単価が高いセグメントを抽出したりしていきます。詳細は、4章でご説明したいと思いますが、それら分析結果を踏まえて、確度の高い見込み顧客へアプローチすることが可能になります(図8)。
データを活用して見込み顧客にアプローチする
最近では、見込み顧客の分析結果をパブリックDMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)と呼ばれるデータ基盤と連携させることで、ターゲットを可視化・推定した上で、シームレスに広告配信まで行うことが可能になっています(図9)。
例えば、パブリックDMP内に蓄積されているIPアドレス(インターネットに接続された機器が持つ識別番号のこと)から法人企業を特定することもできるので、そこから対象となる事業者や業種を特定することができます。そして、DSP(デマンド・サイド・プラットフォームの略で、広告配信システムのこと)で広告を配信することで、最適な情報を最適なタイミングで特定した企業に配信できるようになります。