「型」を浸透させたいマネージャーへ
──近々、田中さんの連載がSalesZineで始まります。そこでは、型のつくり方、型を浸透させる方法なども解説いただきます。やはり、自社の「型」に関して課題を抱える企業は多いのでしょうか?
そもそも型がない営業組織は世の中に多く、商品説明のスクリプトすら持たない企業が9割以上という印象です。仮にスクリプトがあったとしても、浸透せず形骸化しているケースが多いですね。
これは、「型をつくる」「型を浸透させる」というまったく別のミッションが、正しいステップを踏まずに進んでいることが原因です。
一般的に、型づくりを主導するのは、営業企画部門やセールスイネーブルメント部門です。なぜなら、営業マネージャーはマネジメント業務や商談対応で手が回らないことに加え、マネージャー自身が成果を上げた人であったとしても、自分のノウハウを体系的に整理できている人は稀だからです。
しかし、営業企画部門やセールスイネーブルメント部門にも型づくりの経験者は少なく、社内の営業部門を巻き込みながら試行錯誤してつくるか、専門家に伴走してもらいながらつくるケースが多いです。この流れは1〜2ヵ月でできるかんたんな話ではないため、ゴールを「型をつくる」ことに置きがちです。
いざ型が完成すると、営業企画部門が研修などを開催し、型をつくった経緯と型の内容を説明します。ここからが型の浸透フェーズになるのですが、たった1日程度の研修で営業マネージャーや営業担当者1人ひとりに型を浸透させることは、結論から言えば非常に困難です。

書籍にもありますが、営業が型を身につけるには「知る→わかる→やってみる→できる」という4ステップが重要です。「浸透」という言葉を「つくった型をみんなが当たり前のようにできるようになっている状態」と定義するならば、このステップを丁寧に踏む必要があります。まずはその型の全体像を「知る」。次に、商談での具体的な活用方法を「わかる」。そのうえで実践し、何度も「やってみる」ことで、ようやく「できる」になるのです。
しかし、少人数で構成されることの多い営業企画部門が、営業1人ひとりの4ステップをサポートすることは現実的に難しい。となると、日常的にメンバーと接する営業マネージャーが浸透のミッションを託されます。しかし、マネージャーは型を自分でつくったわけでもないため、営業企画部からの伝言ゲームとなり、履き違えて解釈する人も出てきます。多忙な日常業務の中で、どれだけ型の浸透に時間を割くかも現場で判断が分かれます。
さらに、営業担当者も自分なりのやり方が定着しているため、それを崩したくないという人も多数います。
このように、営業企画、営業マネージャー、営業担当者は、それぞれ考えや思惑が異なります。そのため、「なぜ型を作ったのか」「型を身につけるメリットは何か」という認識を一歩ずつそろえる必要があります。言い換えれば、それぞれの認識が一致しなければ、せっかく手間暇かけてつくった型は浸透せずに形骸化して終わってしまうのです。
──型が浸透しない理由は根深いですね……。その解決のヒントを、連載の中で解説いただけるのを楽しみにしています。最後に、連載でどのような読者に、どのようなことを伝えたいか、メッセージをいただけますでしょうか。
「営業に再現性を持たせたい」と思っているすべての方、とくに成果が安定しない若手営業や、育成に悩むマネージャーの方々にぜひ読んでいただきたいです。
営業は、「型」があれば誰でも一定の成果を出せます。連載では、型の定義、つくり方、定着法といった、再現性の土台を整理しつつ、自分なりの営業スタイルを築くための心構え、組織のカルチャーづくりまで掘り下げます。
単なるノウハウの伝達ではなく、「売れるようになるには順序がある」「育成には設計が必要だ」という構造的な気づきを得ていただきたいと思っています。「営業は才能ではなく、仕組みと文化で強くなる」という確信を、多くの方々に届けられたら、それが私の本望です。

──本日はありがとうございました!
田中さんの連載は近日公開!
田中さんの書籍『売れる組織 売れる営業』を紹介した記事はこちらから