3ランクで考えるカスタマーサクセスの提供方法
限られたリソースで最大の効果を発揮するには、「層別対応」という基本思想から考えることが必要だ。数ある顧客を取引金額や貢献利益、将来の期待収益などを加味して3~5階層程度にランクづけし、ランクごとにカスタマーサクセスサービスの内容や手段を変えることが肝要となる。ここでは顧客を3ランクに層別した場合で説明する。
まず、もっとも重要度が高いAランク顧客については、対面でのフォローや担当者の固定など手厚い支援が必要である。従って、Aランクとする企業数は全体の5~20%の範囲に収めるのが望ましい。Aランク顧客には丁寧できめ細やかなOne to Oneの個別対応が基本となる。いわゆる「ハイタッチ」対応だ。
次に、重要度が中程度のBランク顧客については、セミナーやワークショップによる複数同時対応や、電話・メール等でのリモート対応でカスタマーサクセスサービスを提供する。Bランク顧客となるのは全体の15~30%程度といったところだろう。効率を重視する一方で、ある程度の個別対応も避けられない。Aランク顧客に比べると「ロータッチ」の対応となる。
最後に、重要度低、あるいは今後伸ばしたい顧客予備軍に当たるCランク顧客は、eラーニングやチャットボット等のデジタル技術を活用した一斉支援で対応する。自社の顧客数や顧客戦略にもよるが、Cランク顧客は全体の50~80%程度になるイメージだ。ここには個別対応は一切行わないという割り切りが重要で、テクノロジー主導の「テックタッチ」が基本である。
以上のように、顧客の階層に応じて対応レベルに緩急をつけ、顧客の成功と自社の収益とが両立する合理的なバランスをとるようにしたい。
伝統的製造業のカスタマーサクセス部門における重要業務
「カスタマーサクセス部門」は、広義では営業組織の1部門という位置づけではあるが、“組織的に”カスタマーサクセスを実践するためには、営業やカスタマーサポートとは独立した組織であることが望ましい。営業部門やマーケティング部門の下部組織ではなく、それらと並列かつ対等の関係性であることが非常に重要なポイントである。
なぜなら、カスタマーサクセス部門にはアフターセールス領域として重視すべき独自のKPIの設定と達成が求められ、ときには他部門と丁々発止の議論が避けられないためである。また、カスタマーサクセス部門の所属メンバーがプロ意識を持ちながらモチベーション高く仕事ができる環境を提供することもその理由のひとつである。
では、具体的にどのような業務が発生するのだろうか。カスタマーサクセスの目的は「顧客の成功体験を後押しすること」と「顧客のロイヤル化を促進すること」である。そのためには幅広い業務を当該部門で担う必要がある。伝統的製造業で一般的に想定されるカスタマーサクセス部門の業務については図表2を参照いただきたい。
中でも重視したいのが、「その他」にある「社内関連部署との情報交換」である。カスタマーサクセス部門は、顧客が自社製品を購入してからその目的を達成するまで、定期的かつ綿密にコミュニケーションをとることになるため、顧客のことをもっとも理解できている部門とも言える。彼らが持っている情報を部門内に留めず、営業やマーケティング、さらには設計開発、商品企画などの他部門にも共有することで、自社の製品やサービスの開発・改善につなげることが期待できる。