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大手企業への営業戦略と実践~持続的な事業成長に向けて~ 『エンタープライズセールス』出版記念イベント by SalesZine

2024年11月20日(水)15:00~17:10

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ソリューションエンジニアはどのようにカスタマーサクセスに貢献できるのか? SaaSの場合

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 ITエンジニアのような技術と知識をもってセールスを行うソリューションエンジニア(またはセールスエンジニア)が重要になってきています。ソリューションエンジニアはセールスのどのプロセスにおいても活躍でき、カスタマーサクセスでもその役割を果たすことができます。今回はSaaSソリューションのケースを想定した役割や仕事について、15年以上の経歴を持つ山口央さんの著書『ソリューションエンジニアの教科書』(翔泳社)から解説します。

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 本記事は『ソリューションエンジニアの教科書』の「Chapter 8 カスタマーサクセス」を抜粋したものです。掲載にあたって編集しています。


顧客は複数のオプションを持っている


SaaSは永続的に使ってもらうことが前提

 『THE MODEL(MarkeZine BOOKS) マーケティング・インサイドセールス・営業・カスタマーサクセスの共業プロセス』でも述べられているとおり、SaaSソリューションを提供するベンダには、ほぼ例外なくカスタマーサクセスチームが存在します。理由は、SaaSソリューションのようなサブスクリプションビジネスでは、顧客に長く継続的にサービスを利用してもらうことが、ベンダのビジネスに大きく影響するためです。

契約更新以外のオプションを消す

 チームの中でも、カスタマーサクセスマネージャは最も重要な職責です。私は、カスタマーサクセスマネージャを、正式契約を締結した顧客に対する営業担当者と同等の職責と考えています。ベンダによって細かな違いはありますが、一般的にはカスタマーサクセスマネージャの評価指標は、契約更新の金額と解約率があるかと思います。

 契約更新の金額の目標は、既に正式契約を締結している顧客が既存の契約金額を上回る額で次年度の契約を更新して、カスタマーサクセスマネージャに課せられた目標値を達成できているかです。

 解約は一般的にはチャーンと呼ばれており、既に正式契約を締結している顧客が何らかの理由により次年度の契約を更新しないことです。カスタマーサクセスマネージャは、解約率を一定数までに抑えることを課せられていて、ベンダ側にとっては最も避けたいことの一つです。

 顧客の周りには常に他のSaaSベンダがいて、顧客と共に何らかの課題発掘や課題解決のビジョン形成活動を行っています。それらの活動の結果、顧客はSaaSソリューションの更新が近づくと、下記のことを検討することが一般的です。

  1. 現在利用しているSaaSソリューションの契約を更新する
  2. 別のSaaSソリューションを再度評価検討する
  3. SaaSソリューションの利用自体を廃止して内製で対応する

 2や3の選択肢が現実的になってくると、既存契約を取っているベンダにとっては、それだけ解約の危険性が高くなります。ソリューションエンジニアはカスタマーサクセスマネージャや営業担当者と連携して、顧客が上記の2や3を選択する可能性を可能な限り低くすることを常日頃から意識すべきです

SaaSソリューションは利用されないと意味がない

 顧客がSaaSソリューションの更新が近づいたタイミングで、上記の2や3の選択肢を検討するのは、主に次の理由が考えられます。

  1. SaaSソリューションをほとんど活用できていなくて、元来解決したかった課題は放置されている
  2. 元来解決したかった課題の一部は解決できているが、ベンダの対応に不満を持っている
  3. 別の重要な課題が顕在化してきて、元来解決したかった課題の優先順位が下がってきている

 3のケースでは、カスタマーサクセスマネージャはカスタマーサクセスエンジニアやソリューションエンジニアと連携して、顧客が持っている、顕在化されてきた新たな重要課題について深掘りするよう努めます。

 課題の深掘りの結果、新たな重要課題が自社のSaaSソリューションの新たにリリースされた機能やユースケースで解決できると分かったら、アップセル案件(SaaSソリューションのラインセンスの追加)のチャンスです。カスタマーサクセスマネージャは営業担当者と連携して、既存契約額を上回る額での契約更新を交渉します。

 1のケースの理由は様々ありますが、大抵は顧客側の体制や姿勢に問題があるケースがほとんどです。課題を解決するためにSaaSソリューションを契約したものの、いざ課題解決のプロジェクトが始まると、顧客側のSaaSソリューションに対する技術的な理解が不十分で、顧客側でプロジェクトを主導できないことはよくあるかと思います。

 この状況を避けるため、カスタマーサクセスマネージャは、契約締結後すぐにキックオフコールを開催して、顧客がスムーズに課題解決のプロジェクトを主導できるようにフォローします(図1)。

図1 カスタマーサクセスキックオフコールのサンプル
図1 カスタマーサクセスキックオフコールのサンプル

顧客が期待している内容とレベルを管理する

 2のケースは、最も起こりうることで絶対にゼロにすることはできない永遠のテーマです。理由は簡単で、人の欲求には際限がないからです。顧客はベンダに対して、常に新しい内容やレベルのサービスを求めています。

 カスタマーサクセスサービスを提供する中で、顧客のベンダに対する期待や要求は常に変化して、契約締結時に合意したはずの内容やレベルとはかけ離れたものになることがあります。ベンダに対する不満をゼロにすることは不可能ですが、顧客がベンダに期待する内容やレベルをコントロールして、限りなくゼロに近づけることはできるはずです。

 ソリューションエンジニアは、カスタマーサクセスマネージャと連携して、顧客がカスタマーサクセスサービスに対して不満を持っていて契約更新に支障が出てきそうな状況を察知して、未然に対策することを心がけます。

ギャップは永遠に埋まらない

 SaaSソリューションは、不特定多数の顧客が欲していると思われるユースケースを想定して開発されたソフトウェアです。個別の顧客の個別の課題や要件をもとに開発されたソフトウェアではないため、顧客の要件とSaaSソリューションには常にギャップがあります。

SaaSソリューションは課題解決策の一つ

 永遠に答えることができない顧客からの問いに対して、SaaSソリューションだけで解を出そうとすることは得策ではありません。SaaSソリューションを提供するベンダだけでは、解が出ないことが明らかであれば、システムインテグレータやクラウドネイティブソフトウェア開発事業者など、サービスプロバイダと協業して顧客の期待に少しでも近づける策が考えられます。

 特にサイバーセキュリティソリューションの場合、顧客の社内にセキュリティの専門家が少なく、実際にSaaSソリューションが検知するリスクを分析して、セキュリティインシデントに応答したり対応したりする、外部のマネージドセキュリティサービスプロバイダを必要としている顧客が少なくありません。

 『Cyber Defense Matrix』でも提唱されているように、サイバーセキュリティ対策の後半のフェーズになればなるほど、SaaSソリューションのようなテクノロジでカバーできる範囲は小さくなり、反対に、マネージドセキュリティサービスのような人でカバーすべき範囲が大きくなることが一般的です(図2)。

図2 トータルなセキュリティ運用ソリューション
図2 トータルなセキュリティ運用ソリューション

 このような要件を持っている顧客には、自社SaaSソリューションのユースケースに強いマネージドセキュリティサービスを提供しているサービスプロバイダと密に連携して、SaaSソリューションだけではなく、マネージドセキュリティサービスを含めたトータルなソリューションを提供することができます。

SaaSソリューションは出来合いのソフトウェア

 SaaSソリューションは「商用オフザシェルフなソフトウェア」です。商用オフザシェルフなソフトウェアとは出来合いのソフトウェアのことで、顧客はSaaSソリューションを契約すれば、コーディングなど、何らかのカスタマイズを行うことなくすぐに利用できます。

 出来合いのSaaSソリューションは、契約したらカスタマイズを行うことなくすぐに利用できるというメリットがある反面、個別の要件には対応できないというデメリットがあります。

 昨今のSaaSソリューションの多くは、外部のSaaSソリューションとの連携機能をデフォルトで持っているケースがほとんどです。顧客が一からカスタムコードを作成して実装しなければならないケースは少なくなってきました。

 CNAPPのユースケースを提供するSaaSソリューションであれば、SIEMやTicketingなどのSaaSソリューションとの連携機能をデフォルトで準備していて、顧客はAPIキーの埋め込みなど、GUIの設定作業で外部のSaaSソリューションと連携実装できるようになってきました。

 しかしながら、外部のSaaSソリューションも同じ商用オフザシェルフなソフトウェアのため、個別の顧客が持っている個別の要件に対しては、どんな連携を駆使したとしても必ずギャップが残ります。ギャップを埋めるためには、カスタムコードを作成するしか術はありません。

 このようなケースは、クラウドネイティブソフトウェア開発事業者と連携して、SaaSソリューションだけでは埋めることのできないギャップをカスタムコード作成で埋める方法もあります。

 ただし、カスタムコード作成は、新たなソフトウェアの脆弱性の温床にもなるため、注意が必要です。ギャップのインパクトがよほどのレベルでない限り、ギャップを許容する、または人手によるマニュアル運用でカバーするなど、代替案を選択する方が現実的なケースは多々あります。


顧客の期待を超える


顧客の課題に向き合い続ける

 顧客が存在し続ける以上、顧客の課題は永遠に尽きることはなく、顧客の要求とSaaSソリューションのギャップは永遠に埋まることはありません。永遠に埋まることのないギャップに対する策を組み立てるには、顧客とベンダの双方が顧客の課題に向き合い続けるしかありません

正式契約後も資格が必要

 顧客が、自社の本当の課題は何なのか?を常に考えて、課題発掘や解決のアプローチを探すために自ら行動を起こすような組織でなければ、顧客側にエンゲージメントを推進する資格はありません。

 顧客の課題と解決のアプローチが明らかになったとしても、ベンダのSaaSソリューションが提供できるユースケースが、顧客が欲している課題解決のアプローチと大きくかけ離れていたり、ベンダが持っている戦略や将来のビジョンとも乖離があったりすると、ベンダ側にエンゲージメントを推進する資格がないことになります。

 エンゲージメントを推進するためには、顧客・ベンダの双方が資格を持たなければなりません。この考え方は、正式契約後を含む全てのエンゲージメントのプロセスに当てはまります。ベンダには正式契約している顧客が複数いて、全ての顧客に対して同じレベルのカスタマーサクセスサービスを提供することは不可能です。ベンダ側のカスタマーサクセスチームは、ある一定の評価指標を設けて、その基準を満たす顧客を優先的にフォローすべきです。

 一般的には次の指標があります。

  1. 顧客の社会との接点の大きさ(年商)
  2. 資金の流動性の高さ(流動比率やフリーキャッシュフローの状況)
  3. 個々人ではなく組織として自社の課題に向き合う姿勢があるか

 1や2は最も基本的な指標になります。顧客が、いくら自社の課題解決に組織として真剣に向き合う姿勢を持っていたとしても、絶対的な社会との接点が乏しかったり、SaaSソリューションに投資できる資金が少なかったりすれば、ベンダにとってのビジネスにはならないため、顧客側にエンゲージメントを推進する資格はありません。

 この指標は、カスタマーサクセスマネージャや営業担当者が率先して評価すべきことです。得てして、顧客に最も近い位置にいるカスタマーサクセスマネージャや営業担当者は、顧客側の現場担当者の日々の苦労を目の当たりにしているため、情にほだされて惰性で動いてしまいがちかと思います。

 ソリューションエンジニアは、カスタマーサクセスチームや営業担当者の対応状況を俯瞰してみて、惰性で動いているような点を発見したら、遠慮なく指摘したり代替案を提案したりすべきです。

課題は顧客が発見して解決すること

 3は最も重要な指標です。1や2のように、有価証券報告書を確認すれば定量的に測ることができる指標ではないため、何をもってして自社の課題に向き合う姿勢を持っているか否かと断定することはできません。しかしながら、カスタマーサクセスサービスを提供する過程の顧客との色々な会話で、感じ取ることはできると思います。次はその会話例です。

担当者「(実装要望機能の一覧を説明した後)以上が、皆様からご要望いただいている、新規実装機能の対応状況です。アップデートがあり次第、随時ご案内いたします」
顧客「日本における個人の機密情報の検出機能は、いつリリースされるんですか?」
担当者「……先ほどご案内したとおり、そのご要望は現在開発部門で実装工数の見積もりと人員計画を整理している状況です」
顧客「実装工数の見積もりと人員計画の整理って何ですか? 早くリリースしてくれないと困りますよ」
担当者「……ご指摘ありがとうございます。ご要望は重々承知しております。同時に、弊社側の開発チームも複数の新規開発実装要件を対応しているため、実装工数の見積もりと人員計画は慎重に進める必要があります」
顧客「うちはお客様ですよ。お客様は神様ですよね? 神様の言うことを聞けないんですか?」

 極端過ぎる会話例ですが、これは典型的な自社の課題に向き合っていない相手との会話です。日本における個人の機密情報の検出機能は、機密情報のパターンさえ明確になっていれば、機能の実装自体は簡単かと推測されます。問題は、カバーできるパターンの広さと検出の精度です。

 郵便番号や電話番号はxxx-xxxx、xx-xxxx-xxxxなど、ある程度パターンが特定しやすいかと思いますが、住所などは東京都○○、埼玉県○○などパターン化することが困難で、検出機能の精度は落ちると推測されます。

 ベンダとしては、実際の現場で使いものにならないレベルの機能をリリースすることは絶対に避けたいため、実装工数の見積もりには細心の注意を払うことが当然です。

 顧客側でも、個人の機密情報を保管するストレージには、デフォルトで暗号化を有効にするポリシーを設けるなど、SaaSソリューションの機能だけに頼らない手立てはあるはずです。

 上記の例では、相手の考えはSaaSソリューションの機能だけに向いていて、自社の根本的な課題に対してあらゆる角度で解決策を探す気概が見当たりません。よって、エンゲージメントを推進する資格はありません。エンゲージメントを推進する資格がない顧客と付き合い続けても、お互いが不幸になるだけです。解約も選択肢の一つです

顧客の生の声を聴くチャンス

 ベンダは、カスタマーサクセスサービスを提供する過程で、顧客の生の声を聞くことができます。これは営業担当者やソリューションエンジニアにとって、最も大きな学びや新たな気づきを得る機会になります。

顧客は幅広い視点を持っている

 顧客の周りには、自社ベンダだけでなく常に複数のSaaSソリューションベンダが存在し、大なり小なり何らかの接点を持っています。顧客は、複数のSaaSソリューションベンダを様々な観点で常日頃から評価していて、各々の良し悪しを把握しようとしています(図3)。

図3 顧客から見たSaaSソリューションベンダの評価軸例
図3 顧客から見たSaaSソリューションベンダの評価軸例

 カスタマーサクセスのプロセスは、顧客から見たベンダの良し悪しが最も明確になるプロセスです。SaaSソリューションが持つ機能やユースケースだけでなく、カスタマーサクセスチームや営業チームの顧客の課題に対する向き合い方は、顧客から見たら大きな評価ポイントになります。

 特に、顧客は自社ベンダにとっての競合になるベンダとも接点を持っていて、競合ベンダの良し悪しについても一定の理解を持っているはずです。

 ソリューションエンジニアにとって、カスタマーサクセスのプロセスで得る顧客の生の声は、これから起こるであろう、新たな顧客と持つ新たなエンゲージメントの良い準備材料になります

最終的には傾聴できるかどうかがカギ

 顧客から自社ベンダに対する良いことも悪いことも含めたフィードバックを受けたとしても、フィードバックを受けた本人に聴く耳がなければフィードバックは意味を成しません。ソリューションエンジニアに必要なスキルセットの一つとして、傾聴スキルがあります。傾聴スキルは最も大切なスキルかもしれません

 傾聴はアクティブな行為で、相手の言葉に能動的に耳を傾け、相手の声の真意をできるだけ正確に把握することが目的です。相手の言葉を遮ってしまったり、脚色して理解してしまったりしては、傾聴とは言えません。顧客の声を聴く際は、自分の全神経を集中させるべきです。

 同時に、全ての顧客の全ての利害関係者の声に、自分の全神経を集中させて聴くことは不可能です。明らかに自身の課題に向き合おうとしていなかったり、自分の過去の経験のみが正しいことを前提とした理論を振りかざしたり、感情的になっている人の声は聴く必要はないかもしれません。

 自社の根本的な課題に向き合っていて、ベンダのソリューションエンジニアに対して、ある特定領域の専門性を駆使して課題解決策の組み立てをリードしてほしいと願っている顧客は数多います。資格を持っている顧客にのみに集中して、顧客の期待を超える成果を出すことを心がけるべきです。

ソリューションエンジニアの教科書

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ソリューションエンジニアの教科書

著者:山口央
発売日:2023年9月21日(木)
定価:2,640円(本体2,400円+税10%)

本書について

ソリューションエンジニアリングという領域について日本語で体系的に書かれた資料は少ないようです。周りにお手本となる先輩や上司がおらず、どう実績を積み上げていけばいいのかお悩みの方も多いことでしょう。そこで本書では、この職種で成功し、自社と顧客のビジネスに貢献するために不可欠な要素を紹介しています。

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