まずは就業規則を確認
自転車通勤が気になり始めたら、まずは就業規則を調べよう。自転車通勤が許可されていなければ、話は始まらない。ここでは自転車通勤に対して支給される手当、つまり通勤手当について見ていくことにする。
会社によって異なる、自転車通勤に対する交通費支給
一般的に、就業規則の中には通勤手当や通勤手段に関する定めがある。自転車通勤が禁止されているのかいないのかわからない、または記載がない場合は、人事に確認が必要だ。
通勤手当の支給は、労働基準法で会社に義務づけられていない。会社が自由に決定可能なため、支給の有無やどのような基準で支給するかなどについては、それぞれに異なる。ただし、通勤手当を支給することが就業規則に明記されていれば、会社は通勤手当を支給しなければならない。
法律で定められていないにもかかわらず、多くの会社が通勤手当を支給するのは、会社と従業員の双方にメリットがあるからだ。会社は通勤手当に対して設けられている、非課税枠という節税の制度を利用している。つまり、会社は通勤手当を支給して節税、従業員は手取りが増えるという関係だ。
自転車通勤の通勤手当非課税限度額
通勤手当には源泉所得税(源泉徴収される所得税)の非課税枠がある(参照:国税庁HP)。非課税枠とは、課税対象外の金額のことだ。課税対象となる金額が少なければ、税金も少なくなる。
自転車通勤者が見るべきは、「マイカー・自転車通勤者の通勤手当」だ。1ヵ月当たりの通勤手当に対して、非課税となる限度額(上限額)が定められている。金額は次のとおりだ。税制上、会社にメリットがあるのは2km以上のため、一般的には片道(通勤経路に沿った距離)2km以上から通勤手当が支給されることが多い。
片道の通勤距離 1ヶ月当たりの限度額
- 2km未満:全額課税
- 2km以上10km未満:4,200円
- 10km以上15km未満:7,100円
- 15km以上25km未満:12,900円
自転車通勤のメリットがあるのは近・中距離と言われている。2019年5月、自転車活用推進官民連携協議会が発表した「自転車通勤導入に関する手引き」によると、「自転車は約 500m から 5km 弱の都市内移動において、ほかのどの交通手段よりも所要時間が短い」ことが示されている。仮に事故や渋滞が発生しても、その影響が少なく、一定の時間で到着できるという点も評価されている。
通勤手当と交通費の違い
ここで、通勤手当と交通費の違いを理解しておこう。通勤手当とは、会社への通勤に対して支給される手当で、毎月給与の一部として支払われるものだ。それに対して交通費とは、会議やセミナーなど会社の指示で移動する際に必要な交通費で、その都度実費を精算することが多い。一般的に通勤交通費という場合には、通勤手当をさす。
自転車通勤の交通費支給基準と金額相場
自転車通勤の通勤手当支給基準には、さまざまなものがある。会社がどのような基準で自転車通勤の手当を支給しているか確認しよう(参照:「自転車通勤導入に関する手引き」(自転車活用推進官民連携協議会))
さまざまな支給基準
通勤手当は会社が自由に決めることができるため、支給基準も会社によって異なる。
- 一律定額で支給
- 距離に応じて支給
- 定期代相当額を支給
- 上記のいずれか+駐輪場代を支給
自転車通勤の通勤手当を算出する上で難しいのは、移動そのものに費用が発生していない点にある。電車や自動車の場合、定期代やガソリン代がかかるが、自転車にはそれがない。そのため一律定額支給や距離に応じた算出、定期代相当額を支給する場合などがある。
通勤距離に応じる場合は、距離(〇km)に掛ける係数(a)があるはずだ。具体的には、会社が定める数値やガソリン価格などが該当する。公共交通機関の通勤定期代を参照するケースもあり、通勤定期の一部や全額が支払われる。駐輪場代を含む、含まないも判断がわかれるところだろう。
<通勤手当の金額相場>
自転車通勤手当の相場については、情報の少なさから実態をつかむのは難しい。しかし、推測することは可能だ。自転車通勤の時短効果があるとされる5km弱を含む通勤手当の非課税限度額の上限は、2~10km未満で4,200円。これを勤務日数(20日)で割った日額は210円で、この日額を実際の通勤日数と掛け合わせて算出する会社もある。
ガソリン代と同様に支払われる場合を見てみよう。通勤距離が片道10kmの場合、ガソリン価格の全国平均174円/L(注1)とすると、通勤手当の月額は1,740円だ。駐輪場代も支払われる場合には、その分が加算される。首都圏では月額2,000円が駐輪場代の相場だ。
※注1)資源エネルギー庁による石油製品価格調査のレギュラーガソリン代の全国平均値(2022年4月4日時点)自転車通勤する範囲と経路について
上記の金額は、自宅から会社まで自転車を利用した場合の試算だ。実際には、ほかの公共交通機関を併用して通勤経路の一部で自転車通勤をするというケースもあるだろう。そのような場合には、通勤手当の算出方法が異なる可能性がある。悪天候の場合に利用した代替手段も支給対象となるのかなども、就業規則で調べておこう。
自転車通勤へ変更する前に確認すること
自転車通勤には、自転車通勤ならではの注意点がある。自転車通勤に切り替える前に、以下の点について確認することをおすすめする。
会社周辺の交通状況と運転者のマナー
会社周辺の交通状況を確認しておこう。特に都心では、歩行者や自動車の交通量が多いエリアでの自転車通勤は事故のリスクが高まる。自転車専用道路があるか、安全なルートを確保できるかなどの確認が必要だ。労働災害保険(労災)の関係で、通勤経路を会社に申告しなければならない。
運転者のマナーも問われることになる。自転車は原則として左側通行だ。会社の立地によっては、地域住民に迷惑がかからないよう努めることも求められる。危険運転は企業としての評判を落としかねないが、安全に配慮し積極的に挨拶すればイメージアップにつながるだろう。
自転車通勤しやすい設備が整っているか
自転車通勤しやすい設備が整っているかも、毎日の通勤にとって重要なことだ。会社または会社付近に駐輪場があるか確認しておこう。冬場はいいかもしれないが、夏場の自転車通勤にはシャワールームが欠かせない。気持ちよく自転車に乗れる季節であっても、更衣室やロッカーがあるかどうかは大切なポイントだ。
通勤手当申請や不正受給について
一般的に、通勤手当の申請や変更には、転勤や転居などのいわゆる合理的な理由が必要となる。個人的な都合で自転車通勤をしたりやめたりというのは、却下される可能性があるだろう。通勤手当の変更は給与に関わるため、頻繁に変えることは事務手続きの増加と支給ミスのリスクを高めることにつながる。
会社に黙って自転車通勤に切り替えると、通勤手当の不正受給とみなされる可能性がある。特に電車の定期券は半年分を支給されるケースが多く、自転車通勤よりも高額なことが多い。会社との信頼関係が崩れるだけでなく、懲戒処分を招く可能性もあることを覚えておこう。
まとめ
自転車通勤の交通費は、通勤手当として支払われる。支給基準は会社によってさまざまなので、就業規則の確認が必要だ。自転車通勤には、健康増進や生産性向上、通勤時間短縮などのメリットがある。その一方で、通勤途上の事故・ケガの可能性が上がるというリスクもある。よく検討した上で、自転車通勤を楽しんでほしい。