事例は個別具体的な状況に癒着している
売上向上、営業推進、営業力強化、営業効率化など、営業組織にはさまざまな課題があり、課題を解決するためにSFAやMA、オンライン商談など、さまざまなSales Techツールがあります。ツールを導入をする際、みなさんは、どのように検討し、稟議を上げ、決定しているでしょうか?また、Sales Techツールベンダーの営業のみなさんは、どのようにお客様に提案し、お客様の意思決定を支援しているでしょうか?
価格やほかのツールに比べて優れている機能、プロダクトのUI、営業の人柄など、いろいろな要素が考えられますが、大きな影響力を持つのが「導入事例」でしょう。
しかし、事例というものは個別具体的な状況に、ひどく癒着しています。ベストプラクティスも、会社の状況や環境、担当者の組み合わせ、自社の営業担当者との相性が良かったということに左右されるかも知れません。そっくりそのまま真似ることはできませんから、ツールを導入する担当者は事例を鵜呑みにしてはいけないのです。
視点をベンダー側の営業担当者に移せば、他社の事例をそのまま提示しても「うちとは(状況や環境が)違うから」とひと言で断られてしまうこともあります。営業は事例をそのまま届けてはいけません。
必要なのは、事例から成功も失敗も含めて、普遍的な教訓や概念を取り出すこと。導入担当者であれば「自社にも適用可能か」をシミュレーションすること。ツールベンダーの営業であれば相対している見込み顧客にも当てはめることができるかを考え、成功に導くプランを提案することです。
どのような表現が、普遍的な教訓や概念の取り出しを容易にするか?
導入事例を届ける主な表現形式が、テキスト中心の事例インタビューです。事例インタビューには導入の背景、決定を決めた理由、成果を出すために工夫したこと、具体的な成果などが、導入担当者の顔写真やエピソードなどとともに記載されています。物語としては読みやすいですが、自社に適用できそうな教訓や概念を抽出し、シミュレーションしやすくなっているとは言えません。ひとつのまとまった「お話」としてできあがった物語は、その会社に文字通り癒着しているのです。
こうした事例インタビューを「言語化されている」ものだとして、言語化だけではシミュレーションには不十分です。シミュレーションするためにはまず、事例を構造的にとらえる必要があります。「構造的にとらえる」とは、事例で実現された目標や課題解決に対し、事例の当事者である会社のリソース、成功のために実行した施策の数々、主要な成功要因など、事例を成功に導いた諸要素を出し、それらの関係性がひと目でわかるようにすることです。これができてから、それらがどのような試行錯誤を経て成功に至ったかというプロセスを明らかにする。そうすれば事例を物語として読むのではなく、俯瞰的に眺め、個々の要素をシミュレーションのための素材として活用できるようになります。
導入担当者と営業担当者が導入前にしっかりとしたシミュレーションをしておくと、導入担当者は必要な社内調整、調達すべきリソースなどが把握できるようになり、関係者への説明などが容易になります。営業担当者からすれば、見込み顧客とともにシミュレーションを行うことで、より状況に応じた提案やサポートを行うことができます。見込み顧客が自社のツールにとって、より“正しい顧客”になってくれれば、その後のフォローやオンボードも容易になるのです。
では、ここからは事例をシミュレーションしやすい表現形式の紹介と、実事例を用いて解説していきます。