5%の改善で25%の利益創出 「既存顧客営業」の可能性
生産年齢人口が減少し、縮小していくマーケットでパイの奪い合いが激しくなる昨今、「営業」は新規顧客の開拓だけではなく、既存顧客のニーズの掘り起こしにも注力する必要性が高まってきた。岩熊氏は「今まさに多くの営業組織で、既存のお客様をどう扱うべきかが議論されています」と、既存顧客に対する営業活動に注目が集まっている現状を語った。
既存顧客は自社製品やサービスに対する一定の理解と信頼があるため、新規の顧客よりも高い成約率が期待でき、営業コストに対して効率的に売上を伸ばせる可能性が高い。
岩熊氏は、企業が同じ金額の売上をつくる際に、新規顧客獲得にかかるコストと既存顧客への営業活動にかかるコストを比較。「新規顧客を獲得するほうが、およそ5倍のコストがかかります」と、既存顧客への営業活動における費用対効果の高さを示した。
さらに岩熊氏は、既存顧客の離反率を改善することの重要性にも言及した。
「企業を経営していくうえで、既存のお客様の離反を今より5%でも改善をすることができれば、企業の利益率は最低でも25%改善します」(岩熊氏)
これらの「1対5の法則」と「5対25の法則」は、既存顧客の維持がいかに企業の利益に直結するかを端的に示している。
顧客との長期的な関係構築を重視し、顧客生涯価値(LTV:Life Time Value)の最大化を目指す考え方である「カスタマーサクセス」の広がりも、既存顧客への営業活動が見直されている背景のひとつと言える。とくにサブスクリプションモデルを採用するSaaSビジネスにおいて、顧客との長期的な関係構築は、安定的な収益確保のために不可欠だ。
岩熊氏は、このような既存顧客重視の流れは、日本でも加速していると指摘する。
「日本はアメリカより対応が遅れていると言われていますが、実は成長するペースは非常に速く、最近では日本のありとあらゆる企業で『カスタマーサクセス』という言葉を重要視する傾向が見受けられるようになりました」(岩熊氏)
既存顧客への注目が高まる中、次に重要となるのは、どのようにして効果的に既存顧客とコミュニケーションを取り、売上を伸ばしていくかという点だ。
三河屋のサブちゃんに学ぶ? データに基づく「One to Oneコミュニケーション」
既存顧客への営業活動の重要性が認識される中、その成功の鍵となるのが「データに基づいたOne to Oneコミュニケーション」だ。岩熊氏はこの概念を説明するために、国民的人気アニメ「サザエさん」に登場する三河屋の営業手法を例に挙げた。
「既存顧客営業のもっとも良い例としていつも皆さんにご紹介しているのが、マンガやアニメでおなじみのサザエさんで、勝手口から御用聞きにくる『三河屋のサブちゃん』です」(岩熊氏)
三河屋のサブちゃんは既存顧客の家庭の状況を把握し、必要なタイミングで適切な商品を提案する。たとえば、運動会の前日に醤油を持参したり、暑い日にビールの在庫が切れそうなタイミングで訪問したりする。岩熊氏はこの営業手法について、次のように分析する。
「サブちゃんはただルートセールスをしているわけではなく、間もなく醤油やビールがなくなって困るかもしれないという状況に先回りして、その家が今いちばん欲しいものをいちばん欲しいタイミングで売りに行っているのです」(岩熊氏)
この手法の優れている点は、顧客にとって最適なタイミングで最適な提案をすることで圧倒的な信頼関係を醸成し、同時に高い受注率を実現していることだ。さらに、営業側にとっても効率的な手法であると岩熊氏は指摘する。
「営業する側としてもコストパフォーマンスが良いんです。すべての顧客に『この商品はいりませんか』とアプローチして回る必要がなく、そのうえ基本的に売れますから、受注率100%という非常に顧客獲得コストが低く効率の高い営業活動だと言えるのです」(岩熊氏)
しかし、現実の営業活動においてこのような「サブちゃん営業」を実現するためには、顧客に関する詳細なデータが必要となる。岩熊氏は、現代の営業活動に置き換えた例として次のようなケースを挙げた。
「たとえば、ID課金をするサービスを契約しているお客様が、既存契約ID数の9割以上をきちんと使ってくれていて、さらに、他社の導入事例や成功事例をオウンドメディアで読んでいるとします。このお客様に対して、導入事例で紹介された上位プランと共に追加のID購入を提案すれば、高い確率で受注できるでしょう。的確な情報を把握できていれば、上位プランへのアップセルや追加IDの提案など、適切なタイミングで効果的な営業活動を行うことができます」(岩熊氏)
一方、顧客との接点が減少していたり、サービスの利用率が低下していたりする場合は、顧客離反のリスクを早期に察知し、適切な対応を取ることが可能となる。
このようにデータに基づいたOne to Oneコミュニケーションを実現するためには、顧客に関するさまざまなデータを統合し、分析する必要がある。しかし、従来のCRMシステムは見込み客の案件化に特化しており、既存顧客に対する包括的なデータ管理と分析は困難であった。
そこで岩熊氏が提案するのが、次のページで紹介する「SuccessHub」だ。
既存顧客からの収益が2倍に増加! SuccessHubの活用事例
岩熊氏は、SuccessHubの主な特徴として、次の3点を挙げた。
1.顧客データ統合による全体像の把握と分析
SalesforceやHubSpot、Googleスプレッドシート、MySQLといったさまざまなデータソースをノーコードで統合することができる。たとえば、契約金額や導入している製品・サービスの種類、活用している機能といった情報はSFA/CRMから取得できる。これに加えて、前回更新時からどのくらいの期間が経過したか、活用状況や消化率はどうか、困りごとや過去のやり取りといった既存顧客に関する情報も一元管理できるようになる。
「既存顧客の情報は新規顧客にくらべて数が多く、あちこちに散逸しがちです。SuccessHubに集約することで、既存顧客の現状や、次はいつ何に困りそうかをモニタリングできる体制を整備します」(岩熊氏)
2.自動アラート機能によるタイムリーな顧客対応
設定したルールに基づいて自動的にアラートを発信し、適切なタイミングで顧客対応をうながす。
「自分でデータを収集して既存顧客の現状や変化を読み取り、その都度適切なアクションを考えるのは非常に大変です。この点をSuccessHubで自動化することで、担当者の負担を減らすとともに、抜け漏れのない適切なアクション管理が可能になります」(岩熊氏)
つまり、前述の「サブちゃん営業」のように、顧客が必要とするタイミングで適切な提案や支援を容易に行うことが可能になる。結果として高い成約率に結びつき、営業コスト全体を押し下げることができるというわけだ。
3.個別メッセージ配信による顧客エンゲージメントの強化
SuccessHubは、顧客データに基づいてパーソナライズされたメッセージを効率的に配信する機能を持つ。メールに限らず、SlackやChatworkなど、普段活用しているコミュニケーションチャネルでも連絡することが可能だ。
「一括で送るメールマガジンと違って、相手の会社名だったり、担当者の名前だったり、場合によっては本文も1社1社チューニングして『御社向けのご案内があるのでご覧ください』というようなメッセージ差し込み、一括で送信することができます」(岩熊氏)
この機能により、多数の顧客に対して個別化されたコミュニケーションを効率的に行うことが可能になる。顧客は「全体に向けた1対多」のメッセージよりも、自分の状況に対して絞り込んだメッセージを受け取ることで「今ちょうどそれが欲しかった」「興味があって気になっていた」という良いタイミングを刺激される。
岩熊氏はSuccessHubの導入効果について、ユーザー企業における具体的な数字を挙げて説明した。
「データ収集やネクストアクションを決める社内ミーティング、1社1社に個別連絡するといった月次の作業時間を約25%削減できました。25%削減ということは、1日8時間、月160時間稼働する場合、40時間も作業時間を削減できます」(岩熊氏)
こうして創出した時間も活かし、既存顧客からのアップセル/クロスセルを増やすことにも成功したという。
「先ほどお話しした個別メッセージ配信により、既存顧客のアップセル/クロスセルを目的としたマーケティング活動の参加率反応率もぐっと上がり、既存顧客から得られる収益が従来の2倍に増加しました」(岩熊氏)
今後、競争激化により新規顧客獲得が困難になる中、データドリブンな既存顧客営業の実践が、企業の成長を左右するのは間違いない。その際、SuccessHubを活用することで、既存顧客営業の効率化と収益向上を同時に実現することが期待できるだろう。