企業成長を左右する、人材採用後の「育成」への投資
続けて山下氏は、昨今多くの企業がセールスイネーブルメントに投資し始めている背景について説明した。山下氏は「経営の視点に立って“セールスキャパシティ”の観点で捉えてみるとわかりやすい」と言う。セールスキャパシティとは、営業一人当たりの期待売上を設定し、チーム全体での売上がどのくらいになるかを概算した値のことだ。この「営業一人当たりの期待売上」は、経営企画や売上目標から算出されることが多い。
ただし、「この値は、変動性が高い」と山下氏は指摘する。
「たとえば、既存の営業も、新たに採用した営業も、それぞれ100%の能力を発揮できるとは限りません。そういった意味で、一人当たりの期待売上は変動の大きい要素です。このような課題があるにも関わらず、“採用”したあとの“育成”のプロセスがしっかり固まっていないことが多いように思います。OJT(On-the-Job Training)として現場のマネージャーに丸投げしたり、『eラーニングを見て勉強して』と言って終わっているケースなどですね。これが旧来の育成のあり方でした」(山下氏)
一方、セールスイネーブルメント的なアプローチでは、新しい社員であれば「立ち上げ」、既存社員であれば「最新の売り方でしっかりと売れるようになること」を目的とし、育成の過程を標準化して、成果につなげていくことを重視する。ここに投資しなければ人材育成ができず、その結果、売上目標が未達になってしまう。そうなれば経営に関わってくる問題になるため、今多くの企業がセールスイネーブルメントに投資をしているわけだ。
日本は「営業育成への投資」が少ない傾向がある
山下氏は「日本はセールスイネーブルメントの導入で後れをとっている」と指摘する。
「ATDという米国の人材開発団体が公表している数値によると、米国における営業一人当たりの年間のトレーニング投資額は2,326ドル──つまり、30万円以上あるとされています。一方で、日本は営業一人当たりのデータはないものの、営業も含む企業全体における育成投資額のデータによれば、一人当たり2万9,000円しかありません。投資額に、10倍以上の差があるのです」(山下氏)
セールスイネーブルメントへ投資すると、どのくらい効果が得られるのかも気になるところだ。山下氏は次のように述べる。
「CSO Insightsは、『セールスイネーブルメントに投資をした結果、“営業予算の達成率”がどのくらい改善したのか』を示すデータを公開しています。これによると、セールスイネーブルメントに取り組むことで、約10ポイントの改善が見られました。つまり、ある会社の営業全体の達成率が80%だったとすると、これが90%程度まで伸びたことを意味します。セールスイネーブルメントに投資する企業は、こうしたリターンを見定めて、投資額をジャッジをするケースが多いですね。営業育成に投資し、成果につながる施策を打ち、効果検証を行う、という取り組みが海外のトレンドになっています」(山下氏)