リモートワーク下、
営業効率化の裏で育成に苦戦する企業増加
――リモートワーク化もしくはハイブリッド型の働き方が続くBtoB企業で、どのような営業課題が表出していると思われますか。
源栄(インフォマート) 主に3つあります。ひとつめは、商談工程のオンライン化です。これまでリアルでやってきた商談やクロージング、決済や契約の手続きなどがすべてデジタルに変わるため、対応が必要でした。ふたつめに、社内のナレッジ共有です。現在は役割分担を明確化している組織が多いですから、関連部門間の情報連携課題を耳にすることが多いです。3つめがやはり育成です。当社でも中途入社の方が定期的に入ってきますし、年に2回の異動で他部署から加わるメンバーも多いため、新しい営業メンバーへのオンボーディングは課題です。
当社では、幸いにもひとつめとふたつめの課題については、コロナ禍以前からオンライン化やツールの導入といった取り組みが進んでいたため、上手く切り替えることができました。一方、育成については、リアルで行うことを前提のプログラムが中心だったため、苦労しました。さらに、ビジネス全体がオンラインに切り替わったことによって、デジタルマーケティングやマーケティングオートメーションの活用が発展し、今まで以上に多数の見込み客と接点を持つことができるようになったわけです。営業の戦力が追いついていないと大量の見込み客に上手く対応できません。「営業の早期戦力化」が当社でも課題として浮き彫りになりましたし、多くのBtoB企業でも同様の課題を抱える営業組織が増えたと感じます。
――「業界Ch」のユーザーも育成課題をテーマに導入されることが多くなってきたのでしょうか。
源栄 業界Chの主なニーズは「営業の早期戦力化」と「営業準備の平準化」の大きくふたつが挙げられますが、最近はとくに新卒1、2年めの入社間もない社員の学習ツールとしての導入が増えていますね。
「早期戦力化」においては、業界レポートという機能が活用できます。業界を158の細かい分類に分けていて、バリューチェーンや5フォース分析、今後の展望といった解釈まで業界ごとに整理しており、その業界の構造や環境を把握できるのです。これは、さまざまな業界をターゲットにした複雑な営業に有効です。入社間もない営業担当者は「この業界に詳しい」という強みがまだないため、まずはこの業界レポートを使って得意な業界をつくり、営業の自信につなげていく。こういった取り組みで早期戦力化に結びつけている事例もあります。
また、ダッシュボード機能では有価証券報告書を公開している約4,000社の情報にアクセスできます。業界のメインプレーヤーを瞬時に把握し、財務状況などの詳細情報も押さえることができるため、経験の浅い営業メンバーにとって非常に使いやすい機能だと思います。
続いて「営業準備の平準化」において苦労するのが提案資料の作成です。メンバーによって持っている知識やスキルが違うため、属人化しやすい部分かと思います。これも、業界Chを活用することで一定レベルを保つことができたという声を聞きます。商談前の準備では、調べる項目がわかっていても必要な情報が企業のウェブサイトのどこに掲載されているかはさまざまで、新人は手間取ることも多いでしょう。業界Chではあらゆる業界・会社の情報を同じフォーマットで参照できますから、新卒もベテランも同じレベルで事前情報を集められるわけです。1つひとつの顧客をターゲット化していくアカウントプランをつくっている企業もありますが、その設計を平準化する際に活用いただく例もあります。
――続いて、業界Chのユーザーでもあるランドスケイプさまの営業組織の特徴についておうかがいできればと思います。
湯浅(ランドスケイプ) ランドスケイプの営業組織の特徴は、まず顧客の業界が製造業から人材会社、銀行など、多様であることが挙げられます。そのニーズも、営業上でのデータ活用、DX推進の一環としての自社データの有効活用など幅広いです。
営業体制は、当社が日本で最大の法人データベースを持つ会社ということもあり、営業メンバー自身がそのデータベースを使って商談を創出する文化があります。また、営業部門配属の新入社員を毎年10名程度採用しています。育成の手段は主にOJTですが、入社1、2ヵ月後から新入社員も自らターゲットを選定しアプローチするスピード感も特徴です。新入社員であっても、どの会社に対してどんな切り口で提案するべきか、情報収集と準備が必要になります。
業界Ch×sideSonarでリストづくり
業界課題を把握し、提案の切り口を広げる
――一方、ランドスケイプさまがコロナ禍の前後で抱えていた営業育成の課題についてうかがえますか。
湯浅 コロナ禍の営業自体への悪影響はほとんどなく、むしろ商談がオンラインになって移動時間が削減されたことで商談数は1.5倍に増加しました。しかし、その反面やはり育成の課題は出てきたかなと思います。教育する側のマネジメント層が商談同席する機会も増えたことで、商談準備にかける時間が相対的に減少しているという点が要因です。
商談準備の平準化・効率化はコロナ禍以前からの課題でもありました。とくに「有価証券報告書ではこのポイントを見る」「企業のウェブサイトではここの表記の仕方が異なるから気を付ける」といった情報収集のポイントを伝えるのが難しいのです。
この対策として、ユーザー事例をお客様向けだけでなく、新入社員向けにも資料として整備しました。その業界・企業の課題や、当社のソリューションのどこが刺さったのか。そういったポイントを明確にしたのです。また、有価証券報告書の見るべきポイントの標準化にも取り組んでいます。「有価証券報告書を見ておいてね」という指示だけでも何を見れば良いのか、あらかじめ共通認識ができ、共通言語化されているとコミュニケーションが円滑になると思います。
――営業育成の課題をひとつずつ解消されるなか、業界Chを導入したきっかけを教えてください。
湯浅 導入にはふたつの目的がありました。ひとつは営業メンバー の情報収集の標準化です。上記の対策によって、有価証券報 告書や企業のウェブサイトで見るべきポイントは押さえられますが、もっと俯瞰的に、その業界全体の傾向や特徴を捉える必要もあり ます。業界Chには、業界天気図や今のトレンド、5フォース分析な どの情報が掲載されています。情報の幅が広く、かつポイントが明確化されているので、新入社員の情報収集にかける時間が少なく済むことが、導入の決め手でした。
ふたつめは、我々のお客様向けの活用です。当社は「サイドソナー(sideSonar)」という企業の規模・業種などの会社情報がわかるソリューションを提供しています。そのお客様から「業界の情報も取得できないか」という要望をかねてからいただいていました。 sideSonarに業界Chを連携することで、必要なときに業界Chに遷移して活用いただくことが可能になりました。
湯浅 単純に検索した企業の業界情報に飛ぶだけではなく、その業界に含まれるほかの企業を、業界Ch 側からsideSonarに遷移して確認することもできます。たとえば「この業界で東京都にある売上高100億円以上の会社」という条件を指定すると、合致する企業の一覧を出すことが可能です。その業界に属する他企業をリストアップすることで、ターゲットリストを作成し営業を推進することができますから、まさに営業プロセスにはまる活用法です。我々ももちろん活用していますし、実際に利用いただいているお客様からも好評です。――導入の際は、複数のソリューションを検討されたのでしょうか。
湯浅 とくに他社とコンペをして決めるということはしませんでした。もちろん類似サービスの情報収集や比較はしましたが、業界情報 のソリューションはコンサルティングファームやM&Aを進める部署 などプロフェッショナル向けの、高価で高機能なツールが多いよう です。営業活動においてはそこまで専門性の高い分析情報は必 要なく、コストパフォーマンスの観点でも我々のお客様に紹介しやすいこともあって比較的スピーディーに導入を決定しました。
――社内の情報収集の標準化において、実際の効果はいかがでしたか。
湯浅 コミュニケーションコストはかなり下がったと感じます。「このポイントで情報を捉えてね」とルールを決めさえすれば、業界Chを含め経験の浅い営業メンバーにおいても適切な情報にアクセスできます。とくに、過去の導入実績がない業界や、あっても業界に共通する課題ではなかったケースにおいては重要ですね。個社の課題がわかっていても、さらに業界全体の情報を押さえておくことで提案の切り口を広げることができますから、案件化率のアップに役立っています。
――インフォマートさまから見て、ランドスケイプさまの活用におけるスペシャルな点はどんなところでしょうか。
源栄 やはり、sideSonarと見事に組み合わせて使っていただいている点ですね。我々としても推奨したい使い方です。sideSonarで検索した企業の業界を、業界Ch でさらに調べるという使い方はもちろん、先ほど湯浅さんが説明されたターゲットリスト作成は 営業組織の根幹の作業ですし、苦労している企業も多いでしょう。我々も真似をしたいポイントですね。
セールス・イネーブルメントに必要な
「明確な目的意識」
――今後業界Chを活用していくうえで、アップデートされると嬉しい点はありますか。
湯浅 ログに関する機能ですね。実際に営業が使っているのかどうか、利用率を定量的に見ることも必要だと思います。また、業界Ch上にはさまざまな情報が掲載されていますが、「成果を出している営業はどこを見ているのか」というログも見られると良いなと考えています。期待しています。
源栄 ありがとうございます。2022年3月末に、誰がどのくらい利用しているかログを取得できる機能を実装予定です。やはり最近はマネージャー層から同様の要望が寄せられています。また、トップセールスの行動パターンはなかなか再現しにくいですから、そういった方のログから法則性を導き出すことにもチャレンジしたいですね。
――最後に、育成やセールス・イネーブルメントに取り組む営業マネージャーに向けて、メッセージをお願いします。
湯浅 毎年新しいメンバーが入ってくる中、いかに早く戦力化するかと奮闘されているかと思います。我々が重視しているのが、ナレッジの平準化・共通言語化です。少し乱暴な言い方ですが「商談準備しておいて」だけで営業メンバーが必要な情報をそろえられるくらいに共通の認識が浸透している状態が実はいちばん理想的ですよね。今は先輩社員の背中を見て覚えるという時代でもありません。何が目的で、どんな情報を押さえれば良いのか、論理立てて伝える必要があります。この部分を業界Chというツールを 活用しつつ、組織の中で標準化することでコミュニケーションコスト も下がりますし、その積み重ねによって営業の成果も伸ばせると実 感しています。ぜひ標準化に取り組んでいただくと良いと思います。
源栄 セールス・イネーブルメントというと、上手くテクノロジーを活用して営業活動を最適化し、効率的に成果を挙げられる営業人材を育てることですが、そもそもの目的をぶらさないことが重要ではないでしょうか。
まず「営業組織としてどのような目標を達成したいか」があり、そのために「どんな人材が必要か」を考えると、「その人材を育てるためにどんな知識・スキルが必要か」にたどり着きます。このように成し遂げたい目標から掘り下げて、必要な人材や得たい知識・スキルを定めるのが重要だと思います。
そして営業活動の最適化においては、ターゲット企業の顧客情報や商談履歴といったデータの蓄積・分析が必要です。ですから、すでに使っているSFAやCRMの活用を組織として徹底する、その運用を固めることが、セールス・イネーブルメントの第一歩なのではないかと思いますね。
――ありがとうございました!