あなたはどんな情報を、どう提供してきたか?
本稿を読み進めていただくにあたり、読者の皆さんに質問があります。皆さんは営業担当者として、買い手企業の担当者に対しどんな情報を、どのように提供しているでしょうか?
- 「〇〇〇の機能はありますか?」
- 「〇〇〇と連携できますか?」
- 「〇〇〇業界の事例はありますか?」
このような買い手企業からの「情報の要求」に対し、求められるまま製品紹介資料や価格表、事例紹介記事のURLなどをメールで送っただけということはないでしょうか。
「なぜそんなことを聞くのか?」と、思われるかもしれません。送られた情報をもとに「予算に収まるか」「他社製品と比較して期待する費用対効果を得られるか」を検討・判断するのは買い手企業の仕事ではないのか、営業の仕事は買い手から求められた情報をいち早く提供することではないかと。
お考えのことはごもっともです。しかし、そのような考えだと、買い手企業に多くを委ねる“読めない”案件になってしまいます。
製品導入を左右する買い手企業の「プロジェクト設計力」
買い手企業が製品を導入するのは、何かしらの問題解決の一手段として用いるためです。解決したい問題例として、広い言葉であれば「営業活動の効率化」、狭い言葉であれば「課題探索にかかる時間の短縮」「確度の高い見込み客の選別」といったものがあります。これらの問題を解決する手段として、SFAやウェビナーツールなどさまざまな製品を導入しようとしています。
企業がそれぞれの問題解決に取り組むには「こう進めればうまくいくだろう」と関係者が納得できる設計図が必要です。設計図には、問題が解決している姿や指標から逆算した、問題解決に関わる要因や必要な作業、使用する技術や製品、スケジュールや取り組む順番などが記述されます。そうした設計図をつくるにはさまざまな情報が必要で、冒頭に質問した製品情報や成功事例もそうした情報の一部です。
情報は集めただけでは断片・部分でしかありません。肝心なのはそれらを取捨選択・組み合わせて設計図をつくることですが、これは買い手企業にとっては非常に難しい作業です。ルーティンワークのマニュアルが試行錯誤と改善を繰り返して完成しているのと違い、やったことのない活動の設計図は断片・部分としての情報を、一度も試行錯誤を経ることなく、上手くいくようにつくらなければいけないからです。この設計図をつくる力を、この記事では「プロジェクト設計力」と呼びます。
プロジェクト設計力が高い企業は、自分で集めた情報や売り手企業から提供された情報を組み立てて設計図をつくることができます。そのため、断片・部分的な情報提供だけしていても製品が売れる可能性があります。しかし、その数は非常に少なく、このような買い手企業に出会えた営業はとてもラッキーなのです。
世の中のツール導入プロジェクトの多くが失敗に終わってしまうのは、多くの企業がプロジェクト設計に慣れていないからです。プロジェクト設計に慣れていない企業に情報提供だけしていると、いつまで経っても設計図が完成せず、製品導入も検討段階から動かない、ということが容易に起きます。また、設計図をつくれたとしても、それは目標にとって最適な設計になっておらず、間違った製品を導入してしまう可能性もあります。
プロジェクト設計力と売り手企業からの情報が「提供」に留まっているときの関係を表したのが次の図です。