ベテランほど陥りがちな「スコトーマ」
たいした問題もなく、お客様からの反論もなく順調に進んでいく。このような商談ほど楽しいものはない。このままとんとん拍子で契約になりそうだ。しかし、最後の最後で「もう少し検討させてください」と逃げられることがある。そして結局、契約とはならず立ち消えていく。これはなんとも悔しい。このような商談が何度か続くと疑心暗鬼にもなる。
- 「クロージングが弱かったのか?」
- 「金額提示のタイミングが早すぎたのか?」
- 「そもそもお客様のニーズにあっていなかったのか?」
などなど。いろいろと考えても明確な答えにはたどり着けない。「なにが悪かったのか……」とひとりで頭を抱えることになるのだ。
“決まりそうで決まらない”商談には明確な原因がある。その原因はずばり、“お客様が引っかかっているポイントを解決していない”からである。それもそのポイントは“売る側が想像できないほど些細なこと”であることが多い。これでは気がつきにくいのも当然だ。
まずは売る側にとってはとるに足らないことであっても、“お客様にとっては常識ではない”と認識するべきである。
実を言うと、この状況には新人よりもベテランのほうが陥りがちだ。経験を積むと、1ミリずつお客様との感覚が離れていく。すると営業における「スコトーマ」が発生する。スコトーマとは盲点のこと。細心の注意を払う必要がある。
この点に関してお客様の立場になって、感じたことがある。パソコンを購入する際のこと。以前から「そろそろ新しいパソコンが欲しい」と思いながらも行動に移せなかった。いちばんの理由は「セッティングやソフトを入れるのが面倒」だから。以前新しいパソコンを購入した際、たいへん苦労した経験がある。
ネットで購入しようとも健闘したが、決心がつかなかった。そこで詳しい人に相談しようとリアル店舗に足を運んだ。詳しい担当者にいろいろと話を聞き購入を決めた。購入後、「ネットで買おうとしたが自分でできるか不安だった」と伝えたところ、店員さんは「今のパソコンはすでにソフトがセッティングされていますし、かんたんに使い始められますよ」と言う。これが現在の常識らしいが、私はそう思っていなかった。
ウェブ上にはそのような表記はほとんどない。もし私が検討したサイトのひとつに「買ったら面倒な作業なしですぐに使えます」と記載されていれば間違いなく購入しただろう。素人の知識はこんなものである。ネットでパソコンを売っている人たちは「まさか、そんなことを知らないはずない」と思っているだろう。だから素人の顧客が直前で購入をやめた理由がわからないままなのだ。