“売れる”営業は必ずしも良いイネーブラーとは限らない
営業組織を支援していく中で、「セールス・イネーブルメントを成功させるためには優秀な営業パーソンをイネーブルメントの担当者としてアサインすることが求められる」という先入観に悩む企業の多さを実感します。
優秀な営業パーソンが不足しているからこそ、営業組織がセールス・イネーブルメントに着手するにも関わらず、優秀な営業パーソンがいないとセールス・イネーブルメントに着手できない、という大きな矛盾が生まれています。
セールス・イネーブルメントは営業の仕組み化や教育をデータを活用しながら行うケースが多いですが、「営業をわかっていない人」「売れていない人」が営業のコンテンツや研修をつくったところで、教育される側は力が入りません。「そもそも、本当に売れるようになるのか?」と猜疑心も強まります。
とはいえ、自身の経験やノウハウを語れるような“売れる”営業を担当としてアサインしたからといって成功するとも限りません。実際に、ただ営業成績が良かっただけの人をアサインしたことが、セールス・イネーブルメントの失敗を助長するケースは頻繁に見聞きします。セールス・イネーブルメントは営業組織全体に影響するからこそ、適切な人選が結果を左右します。
ノウハウを持つ“売れる”営業をアサインしてノウハウをシェアしてもらえれば、教わった営業も成果を高められると容易に考えられがちですが、必ずしもそうではありません。その理由のひとつに、「“売れる”営業とは属人的である」点が挙げられます。
売れている営業には、必ずと言っていいほどその人固有のスキルやノウハウがあるものです。足しげく通うという定量の話であれば真似をしやすいですが、言語化が難しいようなスキルで成果を上げ続けているケースは少なくありません。
“売れる”人の多くは「属人要素」×「体系化できる営業ノウハウ」の掛け合わせで営業に取り組んでいますが、セールス・イネーブルメントで仕組み化・ナレッジ化するのは、後者の「体系化できる営業ノウハウ」である場合が大半です。しかし、営業自身はその体系化できる営業ノウハウを自身で認識できている場合が少なく、多くの場合は属人化した要素を営業ノウハウとして錯覚している──体系化したノウハウを営業自身が認識していないため、再現性に欠ける場合が多いです。「知っている」と「できる」の間に溝があるように、「できる」と「教えられる」の間にもさらに大きな溝があるものです。