正しい情報に必要なタイミングでアクセスできる環境へ
「結論から言うと、スマートフォンのアプリを活用し、デジタル上の顧客接点をつくっていくことの重要性をお伝えします」と述べ、高橋氏はセッション開始した。
「本日視聴されている方の多くが、1人1台のノートPCを支給されてオフィスや自宅で働いていらっしゃるかもしれません。しかし、皆さまの取引先の企業では、日々現場を回る方や店頭で接客をされる方もいらっしゃると思います。BtoBビジネスにおいても、私たちの生活にもっとも密着した“スマートフォン”を活用することで、情報を即時にすべての方に届けることが可能です」(高橋氏)
とくにメーカーは顧客へのコミュニケーションにおいて、ウェブサイトや、メール、カタログなど、情報をさまざまな方法を活用することが多い。ただし、「受け取る側としてはすべての情報を記憶することは難しい」と高橋氏は指摘。そこで、スマートフォンのアプリに情報を集約することで、顧客側も必要なタイミングでアクセスできるようになると説明した。
また、高橋氏はトヨタ自動車による「もともと20人参加のミーティングを200人まで参加できるようにした」という取り組みを紹介。「情報は誰かを介して伝えると“伝言ゲーム”になってしまい、大事なことが伝わらない」「情報は上司のものではなく、会社のものである」という2点が意識されていたのだという。大企業の視点においても、全員が必要なタイミングで正しい情報にアクセスできる重要性を認識している点を強調した
メーカーと顧客の間にアプリを置くメリット
高橋氏は、メーカーと取引先あるいは販売店との間、すなわちBtoBの接点にスマートフォンのアプリを利用することで、情報へのアクセスが効率的に必要なタイミングで行えることについて、次のようにメリットを述べた。
「伝えたい情報が正しく伝わることで、製品の理解度が上がり、それ自体も他社との差別化につながります。また、顧客自身が情報にアクセスできることで、問い合わせが減少し、コストを下げることにつながります」(高橋氏)
非接触コミュニケーションにおける“情報過多”の課題
次に高橋氏は、「昨今はオンラインのイベント開催や、デジタルツールで情報を届ける手法が一般化している」としたうえで、「デジタル上のコミュニケーションは受け手のリアクションが見えづらいなど、難しい部分も多い」と指摘。また、情報を受け取る側の立場でも、「情報過多で受け取りきれないという“飽和状態”になっているのではないか」と課題を定義した。
「情報にアクセスしたいときに、どこにあるかわからない。こういった事態が社内外問わず起こっている。情報を整理して、集約して受け手に届けていく“進化”が必要になる」(高橋氏)
その視点からも、スマートフォンのアプリを使うメリットはふたつあり、ひとつは情報・機能を集約できること、もうひとつはタイムリーに接点をつくることができることだとした。
まず、受け手はスマートフォンのアプリをタップして起動するだけで、情報・コンテンツにアクセスできる。そのため、情報の整理・集約という点で優れている、と高橋氏は説明する。
そして、発信者側からすると、顧客が常に持ち歩くデバイスに対して、タイムリーに的確な情報を届けることができる点がメリットとなる。たとえば、プッシュ通知を通じて画面にメッセージを届けることも可能だ。
プッシュ通知の開封率は3~40%も! リンナイ、ヤマハ事例
実際に、BtoB用の自社アプリに着目する企業は急増しているという。具体的な自社アプリ活用事例としてセッションでは、リンナイとヤマハミュージックジャパンの2社が例として紹介された。なお、これらのアプリはクローズドで利用しているため、一般のアプリストアから入手できるものではない。
まず、リンナイでは、「営業本部/販売管理部/DX促進グループ」にてアプリを活用している。取引先はガス事業者や工務店、設計事務所で、従来は会員制のウェブサイトを運用していたものの、なかなか閲覧数が伸びずに運用が形骸化してしまっていたという。そこでウェブサイトの刷新とともに、LINE、自社アプリも加えた運用に切り替えた。
同社のアプリでは、カタログに記載する多くの情報をアプリにわかりやすくまとめたことで、必要な情報に辿り着きやすくした。顧客に対して電子カタログをリアルタイムで更新できることに加えて、動画コンテンツの活用を通じて、わかりやすい情報伝達も目指している。なお、アプリ導入後には、従来の半年分の動画再生回数を1日で超過し、プッシュ通知の開封率は30~40%に上るなどの成果が出始めている。
続いて、ヤマハミュージックジャパンでは、楽器・音響機器の販売をする部署で自社アプリを活用している。同社が顧客にコミュニケーションを取る方法はふたつあり、ひとつは直接顧客にメールやSNSでアプローチする手段。もうひとつは特約楽器店――すなわち楽器の販売パートナーに対して営業パーソンが足を運ぶという手段だった。
しかし、この構造の場合、顧客には最新情報が届いているのに、特約楽器店には最新の情報が届かないという状況が生まれてしまっていた。そこで、営業の負担を減らし、スピード感のある情報共有を行うための解決策として、自社アプリが採用された。アプリを採用した理由には、特約店スタッフが来店客に質問を受けた場合に、「PCのある場所まで行って調べるのではなく、その場でスマートフォンで調べながら答えたい」というニーズに応える側面もあったという。
さらに自社アプリの導入によって、動画視聴で研修を効率化し、理解度を深めることも容易になったという。ペーパーレス化にもつながり、コスト削減も実現している。そのほかには、プッシュ通知を活用して届けたい情報にワンタップでアクセスできる仕組みも、同社のアプリ運用で工夫されているポイントだという。
ノーコードでアプリ開発が可能な「Yappli」とは
ヤプリが提供するスマートフォンのアプリ開発をノーコードで行えるプラットフォーム「Yappli」を活用すれば、このようなBtoBアプリの開発も容易に行えるという。開発だけでなく、運用、データ分析までをカバーしている点も特徴だ。アプリリリース後は、1ヵ月間のレクチャー・サポートの体制も整えられている。また、セキュリティ面に関しては、各社が求めるセキュリティレベルに合わせて、MDMや各種認証に対応できるとのこと。
なお、関係者へのインストール促進については、さまざま方法があるなかで「QRコードを見せ、取引先の関係者のスマートフォンでダウンロードしていただく、という地道なコミュニケーションが功を奏しているようだ」と高橋氏は語った。
顧客との「単なるつながり」ではなく、継続的かつ共に事業を成長させていくためのつながりが求められる今、BtoBビジネスにおいても、スマートフォーンアプリが新たな選択肢になるだろう。